あの朝のホームルームで
小学校の低学年だった頃、家に泥棒が入ったことがある。
自分の部屋は荒らされていて、引き出しは開けっぱなし、物は散乱。部屋がめちゃくちゃになってるのを見た瞬間、全身がゾワッとした。怖くて、怖くて、しばらくの間、ひとりじゃ何もできなかった。
そのせいで、学校を二日ほど休んだ。
三日目、ようやく登校した俺を待っていたのは、朝と夕方のホームルームでやっていた“クラスで話す”という活動だった。自分のことを話して、みんなが質問するっていう、ディスカッションの真似事みたいなやつ。
その日が、たまたま自分の担当の日だった。
けど……泥棒に入られたことを人前で話すなんて、どうしても無理だった。あの時の記憶がよみがえるのが怖くて、息苦しくなる。でも何かは話さないといけないから、全然関係ない、どうでもいいような話をしてごまかした。
話し終えた直後、担任の先生がこう言った。
「どうして、おうちに泥棒が入った話をしないの?」
一瞬、何を言われてるのか理解できなかった。
「その話をしなさい」
そう、追い打ちをかけるように言われた。
泣きたくなるのを必死にこらえながら、震える声で話した。聞かれるたびに心がざわついて、声がうわずっていくのがわかった。
でも、話し終わったあと、クラスの子たちが次々に言ってくれた。
「先生、それはひどいと思います」
「言いたくないことを無理に話させるのはよくないです」
って、口々にかばってくれた。
その時の気持ちは、今でも胸に残ってる。すごく嬉しかった。
でも、それ以上に忘れられないのは、先生の顔だった。
口元にはうっすら笑みが浮かんでいるのに、目はどこか遠くを見ているようで、何の光も宿っていなかった。まるで、心がどこかに行ってしまったみたいな目。
普段は優しい先生だった。怒鳴るようなこともしない、穏やかな人だった。
なのに、どうしてあの日だけ、あんな表情で、あんな態度だったんだろう……。
――今もそれは、謎のままだ。
(了)
[出典:974 :本当にあった怖い名無し :2009/08/26(水) 18:59:21 ID:bh9Pf42Y0]