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知らない町で鬼にされた話 rw+6,309

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幼い頃、まだ自然の名残が残っていた都市近郊で育った。

家のそばには広い空き地があり、夏になると盆踊りの櫓が組まれた。あの場所はいま工場に変わっている。平らに均された地面を見るたびに、そこにあったはずの夜のざわめきが、どこへ消えたのかと思う。

あの夏の出来事も、その空き地と同じように、いまは跡形もなくなっているはずだった。

小学生の俺は、鍋島と湯原と三人でよくつるんでいた。いたずらばかりして叱られていたが、三人でいると妙に無敵だった。

ある日、川をさかのぼって泳げる場所を探そうという話になった。リュックにおにぎりと麦茶を詰め、自転車でひたすら上流へ向かった。

気づけば、見知らぬ山あいの町に入っていた。電柱に「五木町」と書かれていたのを覚えている。どの家も同じ形で、屋根はすべて青かった。妙に揃いすぎていて、模型の町みたいだと思った。

川原へ降りようとしたときだ。

大人と子供たちが、黙々と地面を掘っていた。何十人もの顔が同時にこちらを向いた。誰も笑っていない。ただ、じっと見ている。

身体が固まった。

そのとき、一人の少女が言った。

「……のおにいさんが来たね」

はっきり聞き取れなかった。だがその瞬間、空気が変わった。全員が笑い、柔らかな声で話しかけてきた。

「どこから来たの?」
「三人だけで? えらいねえ」

さっきまで掘っていた穴のことは、誰も触れない。湯原はすぐ打ち解け、俺たちも次第に警戒を解いた。冷たい麦茶や菓子を出され、今日は祭りだから見ていけと言われた。

赤いハッピを渡された。

「おにいさんだから、赤いんだよ」

紺色のハッピを着た子供たちに囲まれ、俺たちは神輿の前に立たされた。櫓はない。ひな壇と、大小の神輿だけが並んでいる。

担いだ瞬間、異様な重さに息が詰まった。中身が詰まっている。そうとしか思えない重さだった。

「ほら、進め」

声は穏やかだった。だが背後から神輿で何度も突かれ、足がもつれる。転びそうになると、すぐに大人が支える。

笑ったまま。

「大丈夫、大丈夫」

足元に竹が当たった。痛みが走る。振り返ると、叩いた男は笑っていた。怒っていない。ただ、役目を果たしている顔だった。

逃げようとすると、誰かの手が肩をつかむ。

「最後までやらなきゃ」

その言葉だけが、妙に低く残った。

俺は神輿を右へ倒した。人が崩れ、声が重なり、土煙が上がる。その隙に三人で走った。

町を抜け、川沿いをひたすら下った。振り返らなかった。

自転車を見つけたとき、初めて呼吸が戻った。

家に駆け込み、泣きながら話した。大人たちは顔を見合わせ、「そんな町は知らない」と言った。青い屋根の話をしても、首をかしげるだけだった。

後日、地図を広げても「五木町」は見つからなかった。

それで終わるはずだった。

だが、その年の秋、工場建設のために空き地が整地された。ブルーシートが何枚も敷かれ、地面が削られていった。

そこに並んだ仮設住宅の屋根は、すべて同じ色だった。

青だった。

工事関係者の祭りがあると聞いた夜、遠くで太鼓の音がした。櫓はない。ただ、低いリズムが繰り返される。

翌朝、玄関に赤い布が落ちていた。泥がついていた。

処分したはずのハッピだった。

洗っても、竹で打たれた痕は消えなかった。太ももに、細い線がいくつも残っている。

夏になると、知らない子供が道の向こうからこちらを見ることがある。目が合うと、笑う。

そして口の形だけで言う。

「……のおにいさん」

あのとき、あれは本当に「お兄さん」だったのか。

それとも、まだ順番が回っていないだけなのか。

青い屋根は、年々増えている。

誰かが毎年、赤を着るのかもしれない。

まだ一度も、太鼓の音が止んだことはない。

(了)

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