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短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

在所の隣人【ゆっくり朗読】5796-1231

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昭和から平成に変わる頃の話

196 :あなたのうしろに名無しさんが……:2002/10/12 02:29

私は、とある地方都市のはずれの町に住んでいました。

その町自体は小さくないのですが、私の住んでいた地域は畑やら田んぼやらが多く、人口密度が低いというか、同じ町内みたいなものが十数件しかないのです。

急な引越しでなかなかいい物件が見当たらなかった為、夫が通えればいいか、とその時はあまりそういうことは気にしませんでした。

ただ、実際引っ越してみると、それまで都会育ちだった私は、その町というか、地域の雰囲気になかなかなじめませんでした。

まず、プライバシーというものゼロ。

平気で他人の家に断りなしに入るし、何かあると、近所一帯に筒抜け。

例えば、どこどこのだれだれさんちの娘が、お見合いで逃げられたとか、喧嘩したとか……

挙句の果ては、だれだれさんがこの前立ちションしてたとか……

ですが、うちまでそんな噂の材料になる気にはなりません。

家の窓とカーテンは昼間でもなるべく閉めるようにして、音楽聞いたりテレビ見るときも、ボリュームを極端に小さくしたり。

もちろん、他の人と表面上は仲良くやってはいたのですが、つねに心が休まるときがありませんでした。

そこに住んでいたのは一年と少し。

その間に色々事件がありましたが、そこは省かせていただきます。

私がその町を越すことになったきっかけとなった、事件のことをお話します。

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ある日、私と夫は、ちょっとした旅行に行く計画を立てていました。

この町を離れて少しのんびりしたい、という私の希望から、無理に夫に連休をとってもらったのです。

一日目、二日目は、温泉などに入りなかなか楽しめていたのですが、三日目に、夫がどうしても仕事上会社に行かなくてはならなくなってしまいました。

私もさすがに一人で旅行を続ける気はありませんでしたし、また後日行こうという話になったので、急遽、家に帰ることになったのです。

家に帰った私は、何かおかしい…という違和感がありました。

別に、パッと見いつもと一緒なんですが、よくよく見ると家具の位置が微妙にずれていたり、確かにしまってあった本などが床に置いてあったり……

私の記憶違い、と言ってしまえばそれで終わりなのですが、この町のことを考えると妙に気味悪く思いました。

色々な部屋をチェックしつつ、掃除していたその時です。

玄関のドアが開く音がしました。

時間はまだ、午後の二時くらいです。

夫が帰ってくるには随分早すぎるな、と思いながらも、「何かあったの?」と言って玄関に出迎えに行くと、なんとそこに居たのは、二つ隣に住んでいる奥さんでした。

一瞬、二人とも固まってしまいました。

すると奥さんが早口で、

「あら、お帰りなさい!玄関の鍵が開いていたものだからどうしたのかと思って。本当、用心しないとね」

のようなことを言って、そそくさと出て行ってしまいました。

奥さんは鍵が開いていたと言っていましたが、そんなはずはありません。

私はもともとそういうことを忘れないほうですし、そもそもこの町に来てから必要以上に気を使っています。

まさか……そんなわけは……

という疑問とともに、今まであったことや、旅行から帰ってきたときの家の中の微妙な差異。

とにかく、私たちはそれから半月ほどで引っ越しました。

その時の家よりずっと狭い、アパートみたいなところになってしまいましたが、前の家よりもずっと落ち着きます。

あの時のことは、今思い出しても本当に、嫌な気持ちになります。

(了)

 

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