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瞬きの遅れる神社 rw+5,605-0108

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俺の家は神社だった。

父は神主で、祖父もその前も、代々この社を守ってきた。

神社には御神体がある。
祀られている神と直接つながる物だ。像だったり鏡だったり、土地の神話に出てくる品だったりする。だが、うちの神社で人目に触れるのは、御神体そのものではなかった。

年に数回ある大祭のときだけ、拝殿奥の祠の扉が一枚だけ開かれる。中から現れるのは、古びた大祓詞の巻物と、大人の胸ほどもある大きな鏡だ。氏子も参拝客も、その二つは見ることができる。

だが父は、鏡には絶対に触るなと言った。
掃除も父一人でやった。
理由は聞かされなかった。

子どものころ、俺は神社の掃除を手伝わされていた。友達は放課後に遊びに行くのに、俺だけ箒を持たされる。その不満よりも、あの鏡への奇妙な扱いがずっと気になっていた。

ある日、俺は父に聞いた。
「あの鏡って、御神体なの」

父は少し考えてから言った。
神様を表すものではあるが、御神体そのものではない、と。

大祭で開く扉の奥には、もう一つ扉がある。
そのさらに奥に、本当の御神体が安置されているのだという。

父も祖父も、その中を見たことはない。
見てはいけないからだ。
開ければ呪われる。そう言い伝えられてきた。

迷信だと父は笑った。
死ぬ前に一度くらいは見てみたいとも言った。
ただし、俺に「絶対に開けるな」とは言わなかった。

俺も父も、呪いも霊も信じていなかった。
だからこそ、その話は妙に現実味を帯びて俺の中に残った。

開けるなと言われると、余計に見たくなる。
人間はそういう生き物だ。

父が不在の日を選び、俺は祠に入った。
大祭以外で足を踏み入れるのは初めてだった。

例の扉を開ける。
巻物と鏡が、いつもと同じ位置にある。
その奥に、さらに小さな扉があった。

木は黒ずみ、金具は錆びている。
触れた瞬間、ひやりとした感触が掌に残った。

開けると、思ったほど広くはなかった。
奥に一段下がった空間があり、そこに中くらいの箱が一つ置かれていた。

蓋を開けると、紫色の布に包まれた何かがあった。
ためらったが、ここまで来て引き返す理由はなかった。

布を外す。

中身は、干からびた灰のように見えた。
骨なのか、土なのか、判別がつかない。
だがそれが「何かであった」ことだけは、はっきり分かった。

次の瞬間、声がした。

喉が潰れたような、息の抜けた絶叫。
その直後に、言葉が続いた。

殺す。
返せ。
殺す。殺す。殺す。

女とも男ともつかない声が、一定の間隔で繰り返された。
耳ではなく、頭の内側で鳴っているようだった。

俺は叫んだと思う。
だが、声が出ていたかどうかは分からない。

視界が歪み、床が傾き、そこで意識が途切れた。

次に気づいたとき、俺は自分の部屋で寝ていた。
倒れていたところを、近所の人に見つけられたらしい。

祠のことを聞いても、誰も異変を見ていなかった。
扉は閉じたまま。
中も荒れていなかったという。

俺が戻したのか。
それとも、最初から開いていなかったのか。

誰も分からない。

数年間、俺は祠に近づかなかった。
大祭のときも、鏡を正視できなかった。

理由は分からないが、あの鏡を見ると呼吸がずれる。
周囲の人と、瞬きの間隔が合わなくなる。
皆が同時に瞬く中で、俺だけが一拍遅れる。

最近になって気づいたことがある。
鏡に映った自分が、瞬く前に、もう一度瞬いている。

父はもういない。
今、俺が神主を継いでいる。

大祭の日、祠の前に立つと、奥から気配がする。
声は聞こえない。
だが、待っているのは分かる。

返せ、と言われている気がする。

俺は何を返すべきなのか。
そもそも、あの日、俺は何を持ち出したのか。

鏡の向こうで、誰かが先に瞬いた気がした。

[出典:232: 名無しさん@涙目です。(鹿児島県):2011/06/11(土) 06:36:30.20 ID:aSglbCOT0]

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