男はアイドルAに夢中だった。
安月給のため、生活に余裕はなかったが使える金は、全てアイドルAにつぎ込んでいた。
写真集やDVDの発売イベントには必ず顔を出し、その場でありったけの金を使うことが男の日常だった。
その日はアイドルAのバースデーイベントだった。
当然参加した男がプレゼントを持ちながら握手待ちの列に並んでいると、アイドルAのマネージャーが話しかけてきた。
「いつもありがとうございます」
毎回イベントに顔を出し、写真集などを数十冊単位で購入していく男は、すっかり顔馴染みになっていた。
「Aもほんと喜んでるんですよ」
そう言われて内心嬉しくてたまらない男。
そしてようやく握手する番になった。
「わぁ!ありがと~!」
目の前でにっこりと笑いながら喜んでいる姿に、男は喜んだ。
数日後、アイドルAは自宅前の路上でメッタ刺しにされて殺された。
犯人はあの男だった。
目撃証言から割り出され、抵抗することもなく逮捕された。
「なぜあんなことをしたんだ」
刑事からの追求に男はボソリとつぶやいた。
「ずっと暗かったから」
(解説)
プレゼント(ぬいぐるみ)の中に隠しカメラを仕込んでいた。
(了)