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腹の空白 rw+4,029

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両親は、俺が母の腹に宿った夜と、この世に生まれ落ちた夜に、同じ夢を見たという。

腹の奥へ、淡い金色の光がすうっと吸い込まれていく夢だ。
温かいのに冷たく、鼓動のように明滅しながら、胎内へ溶けていったと二人は語る。

その話を、俺は物心つく前から何度も聞かされた。

だからだろう。
家族は俺を「判定役」として扱った。

父の転勤についていくか。
祖母の手術に同意するか。
土地を売るか、残すか。

最後の一言は、必ず俺が言う。
良くても悪くても「神様はそう望んだんだろう」で話は終わる。

俺は二十歳になる頃には、その役目を空虚だと知っていた。
霊感も予知もない。
虫の知らせすら当たらない凡人だ。

ただ、家族はやめなかった。
重大な選択だけは、必ず俺の口を通す。

去年、弟の息子が倒れた。
原因不明の高熱と発疹。
病名が分かるまで何度も検査を繰り返し、最終的に高額な治療が必要な難病と診断された。

治療費は膨大だった。
保険もほとんど利かない。
実家を売る話が持ち上がった。

その夜、母から電話があったらしい。

「決めてくれ」

俺は覚えていない。
だが母は言う。俺は即答した、と。

「年末ジャンボを買え。三十枚」

半信半疑で家族は買った。

当たった。

十年分の治療費を賄える額だという。
家は売らずに済み、甥は入院した。

俺は弟からの礼の電話で初めてその話を聞いた。
俺の口座に百万円が振り込まれていた。

「何の話だ」

弟は困惑した声で言った。

「お前だろ、病院の名前も、宝くじも」

母は言う。
俺は病名が分からない段階で、県外の専門病院を挙げた。
さらに「電話番号を変えた」と連絡してきた、と。

聞いた番号は、俺のものとは一桁も一致しなかった。

かけてみた。

低い男の声が出た。

「なんだ」

それだけ言って切れた。
再度かけると、すでに解約されていた。

詐欺を疑った。
だが金は減っていない。
誰も何も失っていない。

……本当に?

甥は退院した。
熱も下がり、発疹も消えた。
だが、俺が見舞いに行ったとき、あいつは俺を見なかった。

視線が合わない。

いや、正確には、俺の腹のあたりを見ていた。

何かを確かめるように。

帰宅後、風呂に入ったとき、腹部に妙な痣を見つけた。
円形で、かすかに金色が混じったような色。

触れると冷たい。
しばらくすると消えた。

母は笑った。

「お前の神様、分かれたのかもな」

分かれた?

俺の中から抜け出して、別の番号を使い、別の声で話しているというのか。

昨日、母からまた電話があった。

「今年もジャンボ買うべきか」

俺は言った。

「やめとけ」

通話を切ったあと、腹の奥が脈打った。
温かいのに冷たい感覚。

夜、携帯が震えた。

あの番号だった。

今度は切れなかった。

通話ボタンを押す前に、画面に短いメッセージが表示された。

《次は、何を残す》

俺は、自分の腹に手を当てた。

そこには何もない。
鼓動もない。

それでも、甥の視線が思い出される。
あいつはあのとき、俺を見ていなかった。

俺の中の、空いた場所を見ていた。

電話はまだ鳴っている。

出れば、何かを差し出すことになる気がする。
出なければ、今度は誰が代わりになるのか分からない。

家族はまた、俺に決めさせる。

俺は、判定役だ。

あの夜、母の腹に入ったものが、今どこにいるのかを。

[出典:23 本当にあった怖い名無し 2013/12/02(月) 11:23:14.74 ID:COj8cUkX0]

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