ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

約束された日は、一日も違わなかった rw+2,772

更新日:

Sponsord Link

嘘か本当かは、わからない。

ただ、思い出すたび、今でも背中がひやりとする。

小学生の頃、毎日のように遊んでいた「じいちゃん」がいた。

血のつながりはない。近所に住んでいた、妙に物静かな老人だった。母は「変わった人だけど、悪い人じゃないよ」と言うだけで、俺が遊びに行くのを止めなかった。

当時の俺は、同年代の子とうまく馴染めなかった。だから、じいちゃんの家にいる時間が好きだった。

ある日の夕方、二人で「妖怪人間ベム」の再放送を観ていた。

古い和室だった。ちゃぶ台にお菓子を広げて、テレビを眺めながら話しているうちに、どういう流れだったのか、死んだあとの話になった。

天国と地獄って、本当にあるんかな。

たぶん、そんなことを俺が聞いた。

じいちゃんはテレビを見たまま、ぽつりと言った。

「俺は、どっちにも行けんやろうな」

「なんで?」

しばらく黙ったあと、妙なことを言った。

「昔なあ、若い頃、芸術でつまずいたことがあってな。そのとき、悪魔に魂を売ったんじゃ」

冗談を言っているようには見えなかった。

かといって、怖い話をして子どもを脅かそうとしている感じでもない。ただ、昔あったことを思い出しているような口調だった。

俺は怖がるどころか、胸が躍った。

漫画やゲームの中にしかいなかった悪魔が、急にこちら側の世界に出てきた気がした。

「悪魔って、本当におるん?」

「さあな」

「何してもろたん?」

そこで初めて、じいちゃんが俺を見た。

「成功はさせてやる。ただし、お前の命は今回まで。次の命はないぞ、ってな」

それ以上は聞いても教えてくれなかった。

どうやって呼び出したのか。
どんな姿だったのか。
何をしたのか。

何を聞いても、

「それ以上は話すなと言われとる」

で終わった。

今なら、そこまで話したなら最後まで話せよ、と思う。

でも子どもの俺には、それで十分だった。

悪魔はいる。

じいちゃんは悪魔に会った。

その話を、秘密の宝物みたいに何度も頭の中で繰り返していた。

じいちゃんの家は、古い和風の屋敷だった。

壁には表彰状や新聞の切り抜き、何かのメダルのようなものが無造作に飾られていた。何の賞なのか、どんな記事なのか、当時の俺にはわからなかった。

それでも、この人は昔、何かですごかったんだろうな、ということだけはわかった。

本人は過去の話をほとんどしなかった。

そんなじいちゃんが、ある日突然、こんなことを言った。

「わしは七十六になった日に死ぬよ」

俺は笑えなかった。

「それまでに、お前みたいなええ子と遊べてよかった」

急に怖くなった。

じいちゃん、死んじゃいやん。

そう言って、俺は本気で泣いた。

その日のことは今でも覚えている。

畳の匂い。
窓から差し込んでいた夕暮れの色。
そして、じいちゃんの静かな声。

それから二年と少し経った。

じいちゃんは死んだ。

七十六歳の誕生日だった。

前の日まで普通にしていたという。朝になって家族が見に行くと、もう冷たくなっていた。

死因は心不全。

そして、火葬の日。

骨が出なかった。

俺は子どもだったから、詳しい事情までは知らない。

ただ、葬儀屋の人が困っていたことだけは覚えている。

何度も炉を確認し、別の人を呼び、遺族に頭を下げていた。

骨が脆かったのかもしれない。
炉の温度の問題だったのかもしれない。
何か技術的な事情があったのかもしれない。

今なら、そう考える。

でも当時の俺の頭に浮かんだのは、別の言葉だった。

――次の命はないぞ。

その後、何年か経った。

中学生になった俺は、進路や友人関係で悩んでいた。

ある夜、じいちゃんの話を思い出した。

ガラケーを開いて、

「悪魔 召喚 方法」

と検索した。

今なら笑ってしまうような個人サイトが出てきた。

そこに書かれていた通り、夜中に部屋を暗くして、塩を置き、蝋燭を灯した。意味のわからない言葉も読んだ。

何も起こらなかった。

風も吹かない。
声も聞こえない。
悪魔も出てこない。

少しがっかりして、それで終わった。

そのうち、じいちゃんの話そのものを忘れた。

大学へ行き、働き、家庭を持った。

普通に歳を取った。

ところが最近、妙に気分の塞ぐ日が続いていたとき、どういうわけか、じいちゃんのことを思い出した。

悪魔の話。

七十六歳の誕生日。

骨の出なかった火葬。

そして、それにつられるように、もうひとつ、ずっと沈んでいた記憶が浮かんできた。

母の事故だった。

俺がまだ小学生だった頃、母が交通事故に遭った。

緊急搬送され、意識不明になった。

面会謝絶だった。

それでも母の顔が見たくて、夜中、こっそり病室に入った。

母はベッドに横たわっていた。

その胸の上に、人が座っていた。

亡くなった祖母だった。

祖母は、ちょこんと母の胸の上に座って、俺を見た。

そして言った。

「お母さんはまだ必要だから、あと三十年、迎えに来るのを延ばすよ。今回は戻らせるからね」

そう言って笑った。

翌朝、母は意識を取り戻した。

後遺症も残らなかった。

子どもの見た夢だったのかもしれない。

夜中の病院で、疲れていた俺が見た幻だったのかもしれない。

その記憶も、いつの間にか忘れていた。

母が亡くなるまでは。

あるとき、ふと思った。

あの事故は、いつだったんだろう。

兄に聞いた。

「あの日は二月十三日だったよ。バレンタインの前だったから覚えてる。チョコもらえんくなるって焦ってたから」

何気なく日付を数えた。

そこで、手が止まった。

母が亡くなった日も、

二月十三日だった。

事故の日から、ちょうど三十年後。

同じ日だった。

偶然だと思う。

そう考えるのが、一番まともだ。

じいちゃんが七十六歳の誕生日に死んだことも。

火葬で骨が残らなかったことも。

祖母が「あと三十年」と言った記憶も。

その三十年後、母が同じ日に亡くなったことも。

全部、あとから記憶の中でつながっただけなのかもしれない。

人間の記憶なんて、案外あてにならない。

だから、今でも嘘か本当かはわからない。

ただ、一つだけ、どうしても引っかかっている。

じいちゃんは、

「七十六になった日に死ぬ」

と言った。

祖母は、

「あと三十年」

と言った。

そして二人とも、

一日も違わなかった。

[出典:796 :本当にあった怖い名無し:2017/12/15(金) 21:40:08.87 ID:3wyetZKL0.net]

📚 この怪談の続きは、Kindleで

伝聞怪談コンプリート合冊

サイト未公開の話を多数収録。Kindle Unlimitedなら追加料金なしで読み放題。

【合冊版】558ページ・100円のお得セットあり

伝聞怪談1 伝聞怪談2 既刊6冊

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.