自分の住んでいる町は、田舎の中核都市。
田んぼは徐々になくなり、新しい家もほとんど建たない。駅前の小売店はシャッター街と化し、郊外にできる大型店がかろうじて賑わいを見せる、そんな場所。
実家の周りも昔は田んぼだったが、ある日、県立大学の新キャンパスが来ることになった。そこだけ急にアパートや飲食店が建ち並び、町の様子が一変した。ただ、その中で「蛇田」と呼ばれる田んぼだけは違った。
蛇田の一角には、竹と藁で作られた簡素な祭壇があった。そこには月に数回、アルミホイルに載せた鶏肉などのお供え物が置かれていた。普通ならカラスに荒らされるはずなのに、不思議と手つかずのまま消える。
「蛇田は特別なんだ」と小学校の頃から母が何度も言っていたが、詳しいことは教えてくれなかった。蛇田の持ち主だった老夫婦は、近所でも特に寡黙な人たちで、あの田んぼだけは自分たちで稲を手植えし、収穫した米も市場に出さず全て家に持ち帰っていた。
だが、老夫婦が相次いで亡くなり、蛇田を含む土地が売りに出された。そして蛇田は、スーパーの駐車場になった。
スーパーは開店早々、奇妙な事件に見舞われた。駐車場で車両火災が起き、その後には大学生が焼身自殺。そしてついには、スーパーを営む夫婦が駐車場で首を吊った。その場所は、蛇田の祭壇があったところだった。
この一連の事件以来、スーパーには誰も近寄らなくなり、心霊スポットとして噂されるだけになった。地元民は「蛇田だから仕方ない」と言うが、なぜ「蛇田だから」なのか、詳しく知る者はいない。
調べてわかったのは、蛇田の場所がかつて村の「蛇穴」だったこと。分家筋の家が蛇を使った薬を作り、その死骸を捨てていた場所だった。そして、その家の娘が川で流されたことから始まった呪いの話――。
蛇田にまつわる事件は偶然ではない。現代の開発に押し流された土地の記憶が、静かに怒りを表しているのかもしれない。先生の言葉が今でも頭に残っている。
「蛇田には近づくな。それが一番だ」