短編 山にまつわる怖い話

白丸ダムの怪【ゆっくり朗読】3700

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俺は友人の田端と一緒に東京の奥多摩にある白丸ダムってところに釣りに出掛けた。

そこは釣り場にたどり着くには、ちょっとしんどいけど、結構いい釣り場で、地元の人間くらいしか来ない場所だ。

夜中に着いて、日が昇るくらいまで釣るつもりで装備もバッチリだったんだけど、その日はなんか釣果(ちょうか)がよろしくなくて、竿に鈴付けて放置して田端とお喋りしながらまったりと過ごしてた。

その時、放置してあった俺の竿から鈴の音が

「ちり……ちり……ちりーん」

俺は慌ててあわせたんだが、どうやら逃げてしまったようで引きがない。

とりあえず餌の付けかえをしようとリールを巻き上げ始めると、微妙に何かの感触を感じた……藻でも絡んでるのかな?

絡んでたのは藻なんかじゃなかった。

30cmはある、人の髪の毛がごっそりついて来た!!

俺と見守っていた田端は声にならない悲鳴を上げ、俺は思わず竿を放り投げた。

しかし、気持ちが悪いとはいえ竿はかなり高価なものなので、仕方なくラインを切って竿だけは確保した。

まだまだ夜明けには時間があったけど、とても続行する気にはなれなくて、その後はもう逃げるようにして立ち去ったんだけど、逃げ切れてはいなかったんだな。

帰りの車の中で、俺たちはさっきの髪の毛について話し合い、いつの間にかお互いの怪談の持ちネタを披露しながら走ってた。

そのうちに、なんだか恐怖心も薄らいできて、俺もさっきの事は面白いネタになったくらいにしか考えなくなってた。

しばらく車を走らせてたんだけど、助手席の友人が喋らなくなったんで

「おい!?俺に運転させといて寝てるんじゃねーよ」

と隣を見ると友人は寝てるわけじゃなく、なんだか青白い顔をしながら窓の外を見てる……

「おい!?気持ち悪いのか?」

「え!?い……いや……あのさ……変なこと聞くけど……」

「なんだよ!?」

「歩道に女が立ってるんだよ……」

「はぁ!?こんな時間にか!?どこだよ?」

「どこっていうかさ……ずっと居るんだよ……」

「え!?」

「さっきから何回も同じ女が立ってこっち見てるんだよ!!」

俺は田端がまた俺をびびらせようとしてるんだと思いながらも、自然に歩道にやって背筋が凍りついた。

本当にいる……確かに田端の言ったとおり歩道に女が立ってこっちを見てる。

俺が思わず田端のほうを見ると田端は黙って頷いた。

その後、日が昇り町へと出るまでに二十回以上その女を見た。

もう二人とも無言のままで、地元に帰り着くと俺は田端を家の前で降ろしバックミラーを気にしながら(かなり臆病になってた)

家まで辿り着き、道具も放りだしてそのまま布団に包まった。

いつの間にか寝込んでいた俺を、お袋がすげぇ怖い顔して起こしに来た。

「あんた!!あのクーラーボックスなに!?」

「へ!?いや、ちっこいのがチョロチョロ釣れただけだから今日は何も入れて帰ってきてないよ?」

そう言いつつクーラーボックスの中を覗くと、俺が釣り上げた「あの髪の毛」がごっそり!

ラインを切って置き去りにした髪の毛が……

(了)

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