ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

掃除した場所 rw+4,116-0119

更新日:

Sponsord Link

俺が某飲食店で働いていた頃の話だ。

郊外にある全国チェーンの古い店舗で、内装も什器もほとんど開店当時のままだった。油と埃が長年染み込み、掃除しても完全には取れない匂いが常に漂っていた。それでもこの店は繁盛していた。三世代で通う常連がいて、週末には二時間待ちが当たり前になる。稼働率はいつも限界だった。

俺は主に調理場担当だったが、忙しければレジにも出る。初日に厨房へ足を踏み入れた時、床の油膜と棚の隅に固着した汚れを見て、嫌悪より先に「片付けなければ」と思った。仕事が終わると一人で残り、少しずつ掃除を始めた。雑巾に染み出す黒い汚れを見るたび、何か古い層を剥がしているような妙な感覚があった。

掃除を続けるうち、他のバイトも自然と手を貸すようになった。言葉は少なかったが、作業の流れだけで繋がっていく空気があった。今思えば、あれは店全体を覆っていた何かを薄くしていた時間だったのかもしれない。

異変はレジ裏の整理で起きた。
壁に作り付けられた棚の奥から、忘れ物箱が出てきた。白いテープに書かれた日付はかなり前で止まっている。箱を引き出そうとした瞬間、近くにいた古株の女性社員が小さく息を飲んだ。振り向くと、すぐに首を横に振り「なんでもない」と言ったが、その声は硬かった。

棚の奥を見ると、薄茶色に変色した紙が貼られていた。墨の跡と朱の印影。護符だとすぐに分かった。人目につかないよう、奥へ奥へ押し込まれるように貼られている。理由が分からない場所だった。

何人かに聞いてみたが、誰も要領を得ない。
ある日、その女性社員に冗談めかして「汚いし剥がそうかな」と言った。彼女ははっきりと「ダメ」と言った。理由は言わなかった。ただ、その言い方だけで冗談ではないと分かった。

後日、閉店後に二人きりになった時、彼女はぽつぽつと話した。
この店では、昔から社員が続けて怪我をしていたこと。偶然とは思えないほど重なった時期があったこと。誰かが神社でお札をもらってきて、棚の奥に貼ったこと。それ以降、大きな怪我は聞かなくなったこと。
確かな記録があるわけではない。ただ、そう言われている、という口調だった。

俺は信じていなかった。
だが、思い当たることはあった。深夜の店内で、誰もいないはずのフロアから呼び出しベルが鳴ったこと。事務所にいると、ドアノブが激しく回されたこと。確かめても誰もいなかった。それらが、急に同じ線上に並んだ。

それでも、俺は剥がした。
埃をかぶった紙を指で剥がすと、棚の奥には何も残らなかった。彼女は止めなかった。ただ、見ていなかった。

その週末、店は異常な混雑になった。
厨房は戦場で、俺はテンポに乗っていた。足りない食材を取りに、裏の冷蔵庫へ走った。軽いアルミ製のドアを押し開けた、その瞬間だった。
開いたはずのドアが、弾かれたような速さで戻り、顔面を打った。衝撃で視界が白くなり、左目の下が裂けた。鏡に映る顔は半分が血で覆われていた。

傷は残った。今も消えていない。

それだけなら、ただの事故で済んだ。
だが一ヶ月ほどして、店長が体調を崩し始めた。休みが増え、やがて病名を打ち明けられた。詳しいことは周囲には伏せられたが、彼自身は「抑えられる」と言っていた。その言葉を信じた者がどれほどいたかは分からない。

例の女性社員が、再び神社へ行った。
同じようなお札をもらい、同じ棚の奥に貼ったと聞いた。ほどなくして店長は現場に戻った。俺はその頃、別の店舗へ異動していた。

それ以来、その店で大きな怪我は聞いていない。

鏡を見るたび、顔の傷に触れるたび、思う。
あの紙は何を封じていたのか。
剥がしたことで何が帳消しになり、何が帳面に書き足されたのか。

あの古い店には、人の手で落とせる汚れとは別の記録がある。
掃除すれば薄くなるが、消えることはない。
そして、それに触れた者の分だけ、静かに書き足されていく。

[出典:716 :本当にあった怖い名無し:2011/10/07(金) 11:12:02.09 ID:BDZgnohm0]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
-

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.