短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

義父【ゆっくり朗読】5130

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勝手に書く。

116 110 sage 2012/03/24(土) 15:18:22.76 ID:PTsjFvjL0

義父は昔からDVの傾向があって、義母にも一人娘である俺嫁にも事あるごとに手を上げたらしい。

外見はおとなしそうなので誰も信じなかったそうだが、嫁は結婚して実家を出られたので凄く感謝していた。

気の毒なのが義母で、二人分のDVを一人で受けるハメになったんだな。

これは義母が入院してから聞いたのだが、杖で殴るわ、お茶の出し方が気に入らないからって湯飲みを投げつけるわ、限度を超していたらしい。

で、去年の春に義母は、睡眠薬ごっそり飲んで自殺を図ったのだが、幸か不幸か未遂に終わって。

バカ義父はそれでもDVやめなかったもので、次に義母は酒の勢いで、夜中に某山の展望台から飛び降りた。

それでも死ななかったのだから凄い婆さんなのだが、さすがに頸椎にヒビが入って四ヶ月の入院。

それが去年の秋頃。

で、俺は警察からの電話で、大事な会合を途中退席するハメになって身元確認に行って、それから義父に報告に行った。

そしたら。

「バカめ、死んでも葬式なんか上げてやらん!」

DVのことを嫁から聞かされていたので、今まであんま好意を持って接することはできなかったのだが。

ここで完全に「人間のクズめ」と思った。

一人娘である嫁は軽いパニ障持ってて、免許もない上仕事を抱えているものだから。

仕方なく自営業で会社立ち上げたばっかの俺が、全ての面倒を見るハメになった。

まだヒマだったから…。

義父は体は動くけど、自分では何一つできない(やらない)人間なので、家政婦さんに来て貰って家事を頼んでいたのだが。

一ヶ月経ったあたりから全てがおかしくなった。

DV人間は身近に居る人を虐待していないと、気が済まないらしいんだな。

家政婦さんに対するセクハラ・暴力行為が始まったんだな。

しかも家政婦さんが帰って夜が遅くなると、酒を飲み出しあちこちに電話をかけて、意味不明のことをわめき散らす。

挙げ句の果てに、意味もなく警察や救急車を呼ぶ。

俺も何度か、救急病院に引き取りに行かされた。

それで周囲から諫められると、今度は「もうダメだ。自殺する」と言い始めた。

本人が言ってるだけならどーでも良いことだが、ケースワーカーが危険防止のために施設への入所を勧めてきた。

俺もその方が助かるのだが、義父は人工透析を受けているので、透析設備がある特養じゃないと無理。

しかもそんな特養は、県内に二箇所しかなくて常に空き待ち。

仕方ないから申し込みだけ行って、危険回避のために家政婦さんに夜間付き添いをお願いした。

そしたらやっぱり暴力にセクハラで、ほんと家政婦さんに申し訳ない日々が一ヶ月以上も続いた。

ここからよーやっと本題。

バカ義父は自分じゃ何もできないから、俺が通帳を預かって義母の入院代とかいろいろな支払いをやって、残りを義父の小遣いとして渡していた。

そしたらある日。

「少ないじゃないか」

「何が?」

「年金。もっとあるだろ」

「あるけど、あんたの奥さんの医療費とか家政婦さんの支払いがあるだろ」

「そんなことない。十五万よこせ」

市営住宅で爺い一人が暮らすのに、いくら必要だと言うのか。

バカ義父は、年金は全て自分の物だと言い張って仕舞いに怒鳴り合い。

バカは警察に電話までかけたが、言っていることが支離滅裂で相手にされなかった。

ある程度こうなることは予想していたので、親戚一同に、通帳類は全て預かることを承認してもらっていた。

バカ義父も、最初の時点では支払いの代行を頼むと口頭で言っていたので、その時に全て出させていた。

そうしているうちに、バカ義父の行いは目に余るようになり、何を考えているのか、家政婦さんに酒を買いに行かせた隙に家を出て、タクシーでわざわざ離れた私鉄の駅まで行って騒ぎを起こしたり。

もう一刻の猶予もなくなってきた。

幸い特養のベッドが短期間だけ空いたので、急いでそこへ放り込み。

そこから病院の心療内科に通わせることになった。

実家ネコを俺のところで預かり、さらに入院に必要な物を実家に取りに行った時なんだが。

居間のあちこちに、紙切れが挟み込んであるのに気がついた。

テレビ台の下とか、ソファの下とか、あちこちに手帳のページを破り取ったり、チラシを切ったものがあったんだな。

その全部に「○○(俺の名)は悪い奴」「金を盗まれた」「呪ってやる」と書き殴ってあって、何のつもりかシャチハタまで押してある。

誰に読んで貰うことを期待して書いたのか知らないが、もはや失笑レベルの哀れさを覚えた。

同時に、この期に及んで金のことしか頭にない、自分のせいで二度も自殺を試みた妻に対することが、何もないことに怒りを覚えた。

もっと怒りを覚えたのが「呪う」と書いてあったこと。

愚か者の分際で、簡単に呪いなんて言葉を使うな。

部屋中をひっくり返して、一枚残らず紙を探し出し、ベランダで一枚ずつ焼いた。

俺の名前をバカ義父の名に換えて読み上げながら。

そして灰を十二階のベランダから吹き飛ばした。

それから一週間もしないうちに。

急にボケが来たのか、義父は感情を失ったようにおとなしくなったが。口を開けば特養の職員を罵り、当然職員にも他の入所者にも嫌われていた。

そしてようやく、透析設備のある山の中の精神病院に入院が決まった。

移動は俺の車。

二時間ほどの間に、例の呪いの紙のことを話してやった。

「居間のさ、あちこちにメモ残してたよな」

「…ああ?」

「俺があんたの金盗んだとか、呪ってやるだとか…」

「知らん」

「忘れてるかも知れないけど、あれ全部見つけて焼いたから」

「ふーん…」

「知ってるか? 呪いって、呪った相手に見つけられたら、かけた本人に降りかかるんだよ」

「……」

病院へ半分ほどの所で、義父は急に具合が悪くなったようだった。

入院してわずか一ヶ月で義父は多臓器不全を起こして死んだ。

嫁を、今は退院して実家にいる義母のところに向かわせ、俺が搬送手続きなどを行って病院へ向かった。

霊安室は屋外のプレハブで、物置でしかなかった。

看護師が「お顔を…」と言ったが「必要ありません」と断った。

合掌も黙祷もしなかった。

一歩だけ遺体に近づき「地獄へ逝け」と言ってやった。

怖くない話で長々とスマン。

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