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短編 山にまつわる怖い話 n+2026

白いワンピースの母娘 nc+

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俺が大学二年の夏、大分に戻っていた頃の話だ。

福岡の大学に通っていたが、長期休みになると決まって地元へ帰った。理由は単純で、地元には時間を同じ速度で持て余している連中がいたからだ。

昼間はコンビニの駐車場で煙草を回し、夜になると意味もなく車を走らせる。
ビリヤードもダーツも、何度も同じ球を突き、同じ音を聞くうちに、指先に残る感触まで予測できるようになっていた。

その夜もそうだった。
深夜一時。空気は昼の熱をまだ含んでいるはずなのに、山へ近づくにつれて窓越しに伝わる冷たさが増していった。

「熊本まで行かね?」
運転席のYが、何の前触れもなく言った。

理由はなかった。
あるいは理由が要らないほど、俺たちは若かった。

大分から熊本へ抜ける道は、竹田から阿蘇の山中を越える県道を選んだ。
街灯は途切れ、アスファルトの先はヘッドライトの円の中だけに存在していた。

両脇には杉林。
高く、黒く、均等な幹が続く。窓を閉めていても、湿った木の匂いが鼻に届く。
ラジオは消した。音があると、逆に不安が増幅する気がしたからだ。

タイヤが小石を踏むたび、乾いた音が車内に響く。
その音だけが、こちらが生き物である証拠のようだった。

山道を走るうち、俺は妙な感覚に包まれていた。

何かを見落としているような、しかし何も起きていないという事実が、逆に落ち着かない。

視界の端で、木々が人の形に見える。
影が影を連れて揺れる。
そういう錯覚を、笑って流せるほどの余裕はなかった。

そんなときだ。
ライトの先、道の左側に、人影が浮かんだ。

歩いている。
こちらへ向かって。

「お、女じゃね?」
後部座席から声が上がる。

速度を落とす。
ヘッドライトが影をはっきりと切り出した。

二人組だった。
白い服。
ワンピースの裾が、風もないのにわずかに揺れている。

近づくにつれ、年齢がわかった。
四十前後の女と、中学生くらいの少女。親子だろう。

二人とも前だけを見ていた。
車が近づいても、顔を上げない。
視線が、こちらを一切認識していないように見えた。

すれ違いざま、肌が粟立つのを感じた。
理由は説明できない。ただ、夜気とは別の冷えが背中を這った。

「なんだよ、親子かよ」
誰かが言い、車内に軽い笑いが落ちた。

だが、その笑いはすぐに霧散した。
山道に、また静寂が戻る。

「こんな時間に歩くか?」
俺はそう言ったが、誰も答えなかった。

そのまま車は進み、杉林は変わらず続いた。
同じようなカーブ、同じような下り。
時間の感覚が曖昧になっていく。

どれくらい走っただろう。

体感では二十分ほどだったと思う。

再び、ライトの先に影が現れた。
道の左側。
二人組。

白い服。
同じ高さの影。

「また女じゃん」
誰かが言ったが、声にさっきの軽さはなかった。

俺は無意識に、シートに背中を押しつけていた。
喉が乾く。
手のひらがじっとりと湿る。

近づく。
顔が見える距離になる。

親子だった。
年齢も、服装も、歩き方も——同じ。

同じ方向を見つめ、同じ速度で歩いている。
こちらを一切認識せず、ただ前へ。

車内が、完全に無音になった。
エンジン音だけが、異様に大きい。

通過した瞬間、俺は息を吸った。
そして、口を開きかけた。

「なぁ……さっきのって——」

「言うな」

運転席のYが、低く遮った。
「それ以上、言うな」

その声は、冗談の余地を一切含んでいなかった。

俺は黙った。
視線を前に固定し、熊本市内まで、ただ走った。
ハンドルを握る手が震えているのが、自分でもわかった。

市内に入り、ファミレスの明かりを見たとき、ようやく現実に戻った気がした。
店内の明るさが、逆に目に痛い。

水を一口飲んでから、俺は言った。

「……二十分前に見た親子だよな」

Yは、深く頷いた。
怖くて、確認したくなかったのだと言った。
もし口にしたら、何かが確定してしまう気がした、と。

俺も同じだった。
偶然、似た親子がいただけ。
そう言い聞かせる余地が欲しかった。

それから数年後。

俺は社会人になり、帰省の頻度も減った。

ある冬、久しぶりに大分へ戻り、同じ道を昼間に走った。
あの山道を、確かめるように。

昼の杉林は、ただの観光ルートに見えた。
途中に、石碑があった。

交通事故慰霊碑。
母子死亡。
白いワンピース着用。

日付は、俺たちが通った夜より、ずっと前だった。

俺は車を降り、石碑に近づいた。
写真はなかった。
ただ名前と年齢だけ。

そのとき、背後で砂利を踏む音がした。

振り返ると、道の向こうから、二つの影が歩いてきていた。
昼なのに、妙に白く浮いて見えた。

彼女たちは、前だけを見ていた。
俺の存在を、最初から数に入れていないように。

その瞬間、理解した。
あの夜、俺たちは「追い越した」のではなかった。

同じ時間を、同じ道を、
ただ、少しだけ早く走っていただけだったのだ。

今も、あの県道では、深夜になると二人連れを見たという話を聞く。
そして決まって、目撃者はこう言う。

「二回、すれ違った」と。

(了)

[出典:518 :本当にあった怖い名無し:2019/06/05(水) 01:48:55.92 ID:/1jGZNks0.net]

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