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短編 r+ ほんとにあった怖い話

廃村にある異形の一軒家 r+8205

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あれは、去年の夏の話だ。

職場の先輩から、「肝試しにドライブ行かないか?」と電話があった。
肝試しもドライブも大好物な俺は、二つ返事で快諾し、浮き足立って迎えの車を待った。

やがて先輩の車が俺のアパートに着き、助手席には先輩の彼女だという信子さんが乗っていた。
後部座席のドアを開けた瞬間、俺の心臓が跳ねた。いや、テンションは最高潮に達した。
そこには、信子さんの友達だという芳子さんが、足を組んで静かに座っていたのだ。

芳子さんは俺より二歳年上で、小柄でどこか幼さを残す顔立ちながら、洗練された雰囲気の女性だった。
だが、ひとたび口を開けば、全てを見透かすような、それでいて人を食ったような笑みを絶やさない。その笑顔は決して不快ではなく、むしろ底知れない魅力となって俺を引きつけ、気づけば必死にアプローチを繰り返していた。

信子さん曰く、芳子さんは第六感が鋭く、霊感はもとより予知夢も見ることがあるという。
特別美人というわけではないのに、なぜか隣にいるだけで妙に意識してしまい、落ち着かなくなる。そんな不思議な色香を漂わせる女性だった。

俺は喜び勇んで車に乗り込んだ。
先輩が言うには、目的地はそう遠くない山中にある廃村だという。
正直、俺はそれよりも芳子さんをどう口説くかで頭がいっぱいだった。

そうこうしているうちに、廃村の入口らしき場所に立つ、荒れ果てた一軒家の前に車が停まった。
そこで芳子さんが、いつもの人を食ったような、それでいて何かを確信しているような笑みを浮かべ、「私は車で待ってるわ」とあっさり言った。
それを聞いた信子さんも何かを感じ取ったのか、「私も残る」と言い出し、結局、男二人でその一軒家へ向かうことになった。

玄関の引き戸は、もちろん鍵など掛かっておらず、ギシリと音を立てて簡単に開いた。
中は狭く、古びた二階建ての家屋だった。
玄関を入るとすぐ左手が台所、その奥は間仕切りのない居間になっている。台所の向かい、壁面の中央あたりに薄暗い階段が見えた。
しかし、なんだか妙な感じがした。
生活感があるのだ。

外観は今にも朽ち果てそうなほど寂れているのに、家の中は比較的片付いており、ぬいぐるみやカーペットなどが、ついさっきまで誰かがいたかのような気配を色濃く漂わせている。
空気が淀むのではなく、微かに乱れている、とでも言うのだろうか。
俺は初めて来たが、この廃村は界隈では割と有名な心霊スポットのはずだ。
そこに、人が住んでいる?
いや、室内は外よりもヒンヤリとしていて、むしろ心地良いほどだ。浮浪者のような人が住み着いていたとしても、おかしくはないのかもしれない。
先輩も同じことを考えていたのだろう、俺と顔を見合わせ、どこか白けたように「出ようか」と呟き、玄関へ向かおうとした、その時だった。

ギシッ!

階段から、木材の軋む音が響いた。
反射的に振り向くと、薄暗い階段の中ほどに、十歳くらいの女の子が、ただ無表情にこちらを見下ろしていた。

俺たちは声にならない悲鳴を上げ、とにかく家から出ようと身を翻した。その瞬間、女の子が甲高い声で二階に向かって叫び始めた。
「お母さん! お母さーあん!!」
その声は、助けを求めるというより、何かを知らせるような、切迫した響きを持っていた。
通報されたら、不法侵入で逮捕されるかもしれない!
そんな考えが頭をよぎり、俺と先輩はパニック状態で外へ転がり出ると、待っていた車に雪崩れ込むように乗り込んだ。
先輩も焦燥感もあらわに、慌ててエンジンをかけようとする。

だが、そこで芳子さんが、後部座席から落ち着き払った声で言った。
「大丈夫よ。女の子がいたでしょう?」
俺と先輩は弾かれたように顔を見合わせ、同時に芳子さんを見た。芳子さんは、そんな俺たちの狼狽ぶりをいかにも楽しむように、くすくすと肩を揺らして笑っている。そして、悪戯っぽく目を細めて続けた。
「大丈夫。あの子、生きてないから」

その言葉に、背筋が凍った。確かに、女の子があれほど大きな声で騒いだのに、家の中からは何の物音もせず、灯り一つ点かなかった。
「もう一回、見てきなよ」
相変わらず楽しそうな声で、芳子さんが促す。
芳子さんにそう言われると、まるで抗えないような、そうしなくてはいけないような奇妙な説得力があった。

俺と先輩は、まるで操られるように車を降り、恐る恐るもう一度あの一軒家へ近づいた。
そして、絶句した。
さっきまで見ていたはずの家は、そこにはなかった。いや、建物自体はあるのだが、まるで幻でも見ていたかのように、見る影もなく荒れ果てていた。
窓ガラスは割れ、壁は崩れかかり、玄関の引き戸は外れて傾いている。
恐る恐る中を覗くと、先ほどまで確かにあったはずのカーペットも、ぬいぐるみも、生活の気配を漂わせていたものは何一つなく、ただ埃と瓦礫が散乱する、廃墟そのものの光景が広がっていた。

車に戻ると、芳子さんはいつもと何も変わらない涼しい顔で座っていた。
俺と先輩は、ただ無言で放心状態だった。
信子さんは、そんな俺たちを面白そうにニヤニヤと眺めながら、先輩と運転を代わり、静かに車を発進させた。

帰り道、先輩がぽつりと言った。
「芳子さんと信子さんのコンビはさ、昔から色々面白い話があるんだよ」
確かに、芳子さんと出会ってから、俺自身もいくつかの不思議な体験をしたような気がする。

そもそも、この一連の出来事の始まりは、俺が妹から受けたある相談を、会社の先輩にしたことからだった。

相談というのは、妹の彼氏の身の回りに、やたらと不幸が続いているという内容だった。
彼氏の職場での事故。彼氏の兄の交通事故。彼氏の母親の急な病気。そして、彼氏の父親の理不尽な左遷。
一つ一つを見れば関連性はなく、不運な偶然が重なったとしか言いようがない。しかし妹が気にしていたのは、それだけではなかった。彼氏の実家で、霊のようなものが頻繁に目撃されているというのだ。
彼氏は実家住まいだが、家族仲は良く、彼の友人たちがよく遊びに来るオープンな家庭らしい。これまでに、彼氏の友人二人と、彼氏の姉が、その霊らしきものを目撃したという。

妹と彼氏は、まあ、どちらかというと少しやんちゃなタイプではあるが、彼氏自身は根はいい奴で、妹とは真剣に結婚も考えていると以前から聞いていた。だからこそ、何とか力になりたいと思い、オカルト話が好きな先輩に意見を求めたのだった。

先輩は最初、「俺はそういう話は好きだけど、何の能力もねーよ」と、いつもの調子で軽くあしらっていた。だがその日の夜、先輩から電話があり、「週末の夜、空けとけ。会わせたい奴がいる。妹も連れて来い」と、有無を言わせぬ口調で告げられた。
先輩曰く、霊感の強い女友達がいて、何かアドバイスをくれるかもしれない、とのことだった。

……それが、芳子さんだった。

約束の夜、時間は十九時過ぎだったと思う。
季節は初夏。生暖かい風が吹く、少し蒸し暑い日だった。
妹と共に先輩の車に乗り込むと、助手席には先輩の彼女である信子さんがいて、にこやかに挨拶してくれた。そして、これから芳子さんを迎えに行くのだと教えられた。信子さんと芳子さんは高校からの親友だという。

道中、信子さんが芳子さんの能力や、これまでに経験したというオカルティックな体験談を色々と話してくれた。芳子さんは強い霊感の持ち主で、軽い予知能力もあり、予知夢もよく見るらしい。
先輩が、「仕事終わりの芳子を拾って、そのまま彼氏の家に行く」と言った。

しばらくして車が着いたのは、きらびやかなファッションビルが立ち並ぶ、日本でも有数の大都市のど真ん中だった。
その街を代表するような、ひときわお洒落なファッションビルの前に、芳子さんは立っていた。
漠然とテレビで見るような、どこか神秘的な雰囲気の霊能者をイメージしていた俺は、正直、拍子抜けした。

車に乗ってきたのは、小柄で、どちらかといえば可愛らしい雰囲気の女性だったからだ。
そのビルのアクセサリーショップで店長をしているという芳子さんは、服装も洗練されていてセンスが良く、そして何より、季節柄やや薄着の胸元から覗く柔らかな膨らみに、思わず目が釘付けになってしまった。
こんな人が、本当に霊能力を持っているのだろうか?
疑いたくなるほど、意外なタイプだった。

全員が揃い、問題の彼氏の実家に着いたのは、二十一時近くだった。
あたりは山が近く、街灯も少ない、ひっそりとした暗い住宅街だった。

彼氏の家の前に車を停めるか停めないかのうちに、芳子さんが不意に二階の窓を指差して言った。
「あそこ。女の子が立ってる。金髪っぽい長い髪。まだ十代の、今風の子ね」
そして、隣に座る俺の妹を見て、小さく首を傾げた。
「あんたみたいな系統の女の子。でも、もう少し若いかも」

それを聞いた瞬間、妹が「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。
実は、彼氏の実家で目撃されていた霊というのは、まさに芳子さんが描写した通りの、若くて派手な今風の女の子だったのだ。彼氏の姉が見た時は、廊下の水槽の前に佇んでいて、一瞬、俺の妹がそこに立っているのかと思ったらしい。

だが、この話は俺も先輩も、芳子さんには一切していない。芳子さんが知るはずはなかったのだ。
そして、芳子さんが指差した窓は、まさしくその女の子が目撃されたという、水槽のある廊下に面した窓だった。
車内は、芳子さんと信子さんを除いて、全員が鳥肌総立ちだった。

しかし芳子さんは、落ち着き払った様子で、「でも、その女の子が直接、今の不幸に影響してるわけじゃないみたい」と言った。
そう言った後、芳子さんはしばらく腕を組み、無表情に目を閉じて黙り込んだ。車内には、重苦しい沈黙が流れた。

そして、唐突に、芳子さんは再び口を開いた。
「壁が板張りの部屋があるわね。床が見えないくらい、物が散乱してて汚い。アイドルのポスターか何か、異常なほどたくさん貼ってある。壁に、赤い傷みたいな……ううん、落書きかしら、そんなものが見える」
そして、妹の方を向いて、静かに尋ねた。
「……彼の部屋?」
妹は、こわばった顔で小さく頷いた。
「そうです」
芳子さんは、ふう、と小さく息を吐いて続けた。
「だらしない生活を送っている人は、心の中もだらしなくて、隙だらけなの。霊っていうのは、そういう心の隙間にスッと入り込んでくる。彼の部屋は、そういうものにとって居心地がいいみたいね。ポスターみたいな人の形をしたものも、霊は寄ってきやすいから」
妹はすでに半ベソ状態だった。

「だけどね」と、芳子さんは言葉を切った。「根本的な原因は、お兄さんの車みたいよ。事故車なのかどうかまでは分からないけど……男の人が乗ってる。その車が、すごく好きなみたい。その男の人が、この一連の出来事のリーダー格みたいな感じだから、まず車をお祓いした方がいいわね」

そして、こう続けた。
「一連の不運には、確かに霊の影響もある。霊が側にいると、知らず知らずのうちに運気とか、生気みたいなものが少しずつ削られていくから。だけどね、この家の人たちは、彼氏だけじゃなくて、みんながちょっとだらしないところがあるみたい。このあたりは山も近いし、良くない気というか、色んなものが流れ着きやすい場所でもあるの。だから、まずは身の回りを常に整理整頓して、明るく清潔に保つこと。庭があるなら、明るい色の花を植えるのもいいわ。玄関回りも綺麗に片付ける。車の彼以外は、それだけで自然といなくなる程度の、弱いものばかりよ。本当は、それだけで防げたことなのかもしれないわね」

そう言うと、芳子さんは不意に両腕をぐーっと上に上げて、気持ちよさそうに伸びをした。まるで、大きな仕事を一つ終えたかのように。

その後、彼氏の兄と姉だけに事情を説明し、すぐにお兄さんの車はお祓いをしてもらった。そして、彼氏のお母さんが入院している間に、彼氏の姉や妹も手伝って、彼氏の家全体を徹底的に大掃除したそうだ。
荒れ果てていた庭を手入れしたのがきっかけで、彼氏の姉はガーデニングにすっかりハマってしまったらしい。

後日、芳子さんはこう言っていた。
「身の回りを綺麗にすることは、変なものを寄せ付けないために確かに大事なことよ。だけど、彼のお母さんの病気は、たぶん精神的なもの……ノイローゼに近い何かだったんじゃないかしら。原因までは分からないけど。退院してきた時に、家が明るく綺麗になっていたら、気持ちも晴れて、良くなるのも早いと思ったの」

……その言葉には、芳子さんなりの優しさが滲んでいるように感じられた。

(了)

[出典:250 :本当にあった怖い名無し:2008/01/03(木) 23:19:12 ID:8iK5R4kZO]

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