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ヒサルキ r+6,505

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最近、保育園で保育士をやっている友達から、妙な話を聞いた。

その子が勤めているのは、寺が経営している保育園で、敷地の隣には苔むした墓地が広がっている。古い石碑の間に咲く無名の白い花、鳴く鳥の影を落とす卒塔婆、どこかしら常に湿気を帯びた空気──それらすべてが、子供たちが遊ぶカラフルな遊具と絶妙に噛み合わない風景だった。

墓地には、子供が入らないよう柵が設けられていた。鉄の杭に結ばれた木の格子。その柵が、最初に異変の兆しを見せた場所だった。

友達の話によると、その杭の先端──とがった金属の突起部分に、虫や小さなトカゲが串刺しにされていることが、たまにあるというのだ。ひと目で、それが自然なものではないとわかる配置だった。串刺しになったまま風にさらされて、乾いていく蜥蜴の細い脚。ぱっくりと割けた甲虫の背中。

最初は「子供のいたずら」だと思っていたらしい。実際、小学生がその広場でよく遊んでいるし、近所の人の出入りも多い。保護者が夜に墓地に入ることもあったとかで、特に問題視はされなかった。鳥かもしれないし──と誰も本気で考えようとしなかった。

だが、ある日、杭に突き刺さっていたのはモグラだった。

まるで誰かが刃物で胸を裂いて突き刺したかのように、赤黒く変色した内臓が外に飛び出ていた。皮膚の柔らかさや、つぶれた眼球の異様なリアリティが、生き物が死んでいるというより、殺されていることを示していた。

「これはさすがに……」と、園長でもある住職がすぐに片づけたらしい。

けれど、それが終わりではなかった。

次は猫だった。

黒と白の毛が混じった首輪付きの猫が、杭に首から串刺しになっていたという。

友達は、その場に立ち尽くして動けなかったらしい。子供たちの目につく前に、必死で他の保育士たちと協力して、園長に知らせ、死骸を布で包んで撤去した。寺の奥にある火葬場で、他の供養と一緒に焼かれたようだった。

誰がこんなことをするのか。外部の人間か、それとも保護者の中に異常者がいるのか。会議が開かれたが、結局、決定的な対策もなく、どこか腫れ物に触るような雰囲気で終わった。

だが数週間後──

今度は、ウサギが杭に刺さっていた。

園で飼っていたウサギだった。子供たちに大人気で、朝になると小さな手で人参を差し出す光景が日課になっていた。あの日、友達がいつものように園の裏手にある小屋に向かうと、柵の前で立ち尽くす子供がひとり、静かにこちらを見ていた。

視線の先には、白く丸々としたウサギの胴体が杭に貫かれていた。血の滴る音はすでに止んでいて、地面の砂に暗い模様を描いていた。

「誰か見た?」と子供に尋ねると、子供は小さく言った。

「ヒサルキだよ」

……ヒサルキ?

聞いたことのない名前だった。キャラクターか、妖怪のような何かなのか。けれど、その子も、説明はできないという。「どんなの? どこで見たの?」と聞いても、言葉が出てこない。

興味本位で他の園児たちにも尋ねてみた。

すると──みんな「ヒサルキ」の名前を知っていた。だが、その正体を誰一人、説明できなかった。

怖がっている様子もなかった。ただ、妙に達観したような顔をして、「しかたないよ」と言うだけだった。

不思議なのは、保護者たちに訊いても、誰も「ヒサルキ」などという言葉を聞いたことがないという。子供たちがそんな名前を使っているところも、誰一人として思い出せない。

それで一人の保育士が言い出した。

「昔、そんな名前の絵を見たことがある」と。

園児が描いた絵のひとつに、「ヒサルキ」と書かれたものがあったという。だが子供の絵は、返却の際に手元に残らない。それでも絵を描いた子の名前は覚えていた。なぜなら──その子がその保育士の家の近所に住んでいたからだ。

「じゃあ、訊いてみよう」と友達が言うと、保育士は少し口ごもって、「引っ越した」と答えた。

「それが、変な引っ越しだったから、覚えてるの」

聞けば、その家族は突然引っ越していったという。誰にも挨拶をせず、夜にトラックに荷物を積んで、音もなく姿を消した。

引っ越しの日、たまたま窓からその様子を見ていたらしいのだが──

トラックの助手席に座っていたその子が、両目に眼帯をしていたのを見た、というのだ。

それが怪我だったのか、それとも別の理由があったのかは、今もわからない。

それからしばらくして、最後の事件が起きた。

今度はニワトリが刺さっていた。

園で飼っていたものではない。どこから来たのかも不明だった。けれど、その死体は他のどれよりも鮮やかに、赤いトサカと白い羽根の対比があまりにも現実離れしていて、絵画のように見えた。

それを最後に、「ヒサルキ」の騒動は、何事もなかったかのように収束した。

杭に虫が刺さることは、今でもたまにあるという。だが、あれほどの「生き物」が串刺しにされることは、もうない。

だが……わたしの友達は言う。

「子供たち、まだ『ヒサルキ』の名前、使ってるんだよね」って。

名前を、誰かに教えられたわけでもないのに。何を意味するのか、誰も知らないのに。

そう言って、彼女はふっと笑った。

「きっとね、誰かの中に、いるんだよ。ヒサルキって」

その時、彼女の目の奥に、光でも闇でもない、何か色のないものが揺れていた気がした。

それからわたしは、園の近くにあるその墓地の前を、どうしても通れなくなった。

[出典:114: あなたのうしろに名無しさんが…… :2003/02/13 13:06:12]

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