長編 洒落にならない怖い話 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

【長編・閲覧注意】裳抜けの妹【ゆっくり朗読】7800

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俺には、妹がいるんだけどさ。妹の顔は、雛形あき子にかなり似てる。

27:2008/03/17(月) 03:08:29.19ID:wHS5Cfto0

で、妹には彼氏がいたんだけど、その彼氏が問題でさ。

精神病を患ってるらしくて、境界なんとかってやつ……

で、半年ぐらい付き合ってたんだわ。その間、よく家に遊びに来とったよ。

ある日、妹が俺の部屋に来て突然俺に抱き付いてきた。

ワンワン泣いてる。

どうしたのか?って訳を聞いたら、「捨てられた」って言うのよ。彼氏に新しい女が出来たらしい。

俺的には、結構ガッカリでさ。

彼氏は俺より年下で、引き篭もりの俺に良く電話をくれたり、車を持って来て遊びに誘ってくれたりした。

俺は、妹と違ってブサメンで人に避けられる人生を歩んできたから、すごく嬉しかった。
そんな訳で、その話を聞いた時、なんか知らんが腹が立ってさ。

彼氏に電話したわけよ、「後日会って話さないか?」ってね。

そうしたら、無理ですって事を言う訳よ。

でも、粘り強く交渉した結果、今の彼女を同席させてくれるならって事で話が付いた。

予定日に待ち合わせの珈琲店に行ったのよ。窓から、彼氏の姿が見えるのよ。

隣にいるであろう美女はどんな人なのかな?って覗いたんだけど、いなかった。

トイレかどこかに行ってるんだろうなって思って、店内に入り彼氏の席に向かったのよ。
彼氏の顔を見て驚いたよ。顔から首にかけて傷だらけなのよ。

右腕には、ギプス巻いてるし。結構イケメンだったから、それはそれは驚いたよ。

すごくびっくりしたから何を話せば良いのか、何を話すつもりだったか思い出せなくてさ。

挨拶したりバイトの女の子に注文したりして何とか誤魔化しながら、落ち着こうとした。
珈琲が来てからも彼女の姿が見えないから、今日は彼女来ないのかな?って聞いたら、もうそろそろ来ますって事だった。

だんだん落ち着いてきたから、その怪我どうしたの?って聞いたら、俺の方は向かずに階段で転んだなんて事を言う訳。

これは、絶対に嘘だと思ったね。

階段で転んでも、そんな顔から首にかけて掻き毟られる様な傷は出来ないからね。

それとなく気付かれないように、話の角度を変えながら、尋問って云うのかな?そんな感じで聞いてみたのよ。

そうこうしない内に彼女が来た。

すっげえ美人だった。

女優で云えば誰だろ?藤原ノリカを若くしてちょっと細くした感じの美人だった。

最初笑顔だったんだけど、俺を見るなり不機嫌そうな感じになって、彼氏はビクビクしてる訳よ。

でさ、テーブルがさ、本当に小刻みだけど震えてるわけ、本当に小刻みに。

よく見ないと気付かないぐらいに。

実は彼氏の足が震えてたんだけど、彼氏は俺を目を合わそうとしないばかりか下をずっと見てるわけ。

この時俺はピンときたね。

彼氏の傷はこの彼女が付けたかもしれないと言う事に。

それでさ、その藤原ノリカが彼氏を代理して俺と喋ってる訳よ。

なんか悲しくなった。

俺は、彼氏と話をするためにここに来たというのに。

もしかしたら、と云う事も考えなければならない為に妹の話は極力しないようにした。

そういう訳だから、核心に迫るような話が出来んかった。

藤原ノリカは終始嫌そうな感じで俺と話してた。

「で?」「で?」みたいな感じで。

大した話も出来ないまま、その日は彼氏と別れたんだけど、別れる直前に藤原ノリカに言われた。

もう彼氏に連絡をするな、今度電話掛けたら許しませんよ、って。

結構大声で言われた。

だってその時、周りの客数人がこっち見てたんだもん。

帰る時に、彼氏は本当に済まなそうに俺に頭を下げてた。

俺は、直感的に、以降関わったらいけないなと思って、妹にもそんな感じで伝えたと思う。

それからしばらくして彼氏から電話があったのよ。

家に泊めて下さいって。それはそれは切羽詰るような声で。

今、どこにいるん?って聞いたらさ。家の近くにいるって言うのよ。

妹の手前、そんな事出来ないって事を言ったんだ。

そうしたら彼氏は電話先で泣き出してさ。

話を聞いてくださいって懇願してくるのよ。

只事じゃないなって思ったけど、それでも妹の許可がいるじゃん、常識的に考えて。

それで妹に代わったら、二、三分話してすぐに毛布をもって外に出て行くわけよ。

毛布だぜ、毛布。

なんと彼氏はトランクス一丁で家の近くまで来てたわけよ。

妹と寄り添いながら、毛布を体に巻きながら顔を涙でグショグショにしながら自宅の玄関に来たのよ。

俺を見て大声で、すみませんでした!って泣きながら土下座をしたのよ。

正直驚いた。

妹がその横で、「貴方は悪くない、悪くないから気にしないで」って泣きながら言ってた。

それでさ、なんかさ、玄関先が匂うのよ、臭いのよ。

体臭って云うのかな?彼氏を落ち着かせて、よくよく見るとすごく痩せてた。

背中とかも傷だらけになってるし。

見方によっては、拷問されたような傷があるし。

何となく察したね。ああ、藤原ノリカだなって。

このまま玄関に座らせるのもなんだし、家に泊めることにした。

妹の部屋に泊めるという事になった。

彼氏をお風呂に入れて御飯を食べさせてから、そのまま寝かした。

次の日、大分彼氏も落ち着いてきた事だし、事情を聞いたのよ。

彼氏は何かを思い出したのだろう、ぶるぶる震えながら、話を始めた。

彼氏が通っていた精神病院で藤原ノリカ(以下、徳子とする)と出会ったらしい。

徳子も患者の一人であり、よく待合室で会うものだから友達になったんだって。

ある日、彼氏が病院に薬を貰って帰る時、徳子が薬局で待ってたんだって。

時間も有る事だし珈琲でも如何?なんて言われて、ホイホイ彼氏は徳子に付いていったんだと。

で、どういう訳かその日にその女と肉体関係を結んでしまったらしい。

彼氏曰く、彼女が誘ってきた、らしい。

その日から、彼女から連絡が頻繁に訪れるようになり、ある日の朝、子供が出来たと連絡があったんだと。

彼氏の家はあまり裕福ではなく母子家庭だった。

その為に責任を取る事が出来ない、そうこうする内に彼女の父親から電話が来たんだって。

で、彼氏は妹と別れたくなくて、妊娠させた事とか何とかを隠しつつ、事態を収拾させるために、その父親と会う約束をしたのよ。

場所は徳子のマンション(分譲用)と云う事で、大学休んで向かったらしい。

そこで、彼氏はとんでもない事実を知る事になる。

徳子の父はヤクザの組長だったのよ。

組長曰く、娘を傷物にしたんだから責任取れ、今回は中絶しろ(どういうわけか)、娘のマンションに住め。

彼氏の卒業を機に結婚しろなんて言われたらしい。

彼氏はガクブルで思考停止のまま念書みたいなの書かされて、その日は解散したらしい。
次の日、知らない男達が、彼氏の部屋に来て勝手に荷物をまとめて、徳子のマンションに連行されたらしい。

徳子と会うなり、今の彼女(妹)と別れなさい、って彼氏に命令してきたんだと。

徳子の目の前で妹に電話して別れろって。

彼氏が、ひどすぎるって抗弁したら、徳子は人が変わった様に殴りかかってきたんだって。

彼氏は反抗出来なかったって。

徳子の父親が組長だから、怖いからって理由で。

殴られて気絶して、気付いたら徳子が彼氏に土下座して、ごめんなさいごめんなさいって謝ってきたんだって。

別れるのは来週で良いから、でも二度と会わないって事で合意したらしい。

で、彼氏は結局、妹と別れる事を決めて徳子の前で妹に電話して別れたと。

それからが地獄だったらしい。

彼氏が正当な批判を口にすると、すぐに殴ってくるんだって。

それどころか、母親がどうなっても知らないわよ?なんて脅されて、もう言いなりだったらしい。

暴力が無い日は無かったらしい。

徳子は家の家事とかはしなくて、全部彼氏にやらせてた。

掃除してないところがあると、問答無用で彼氏を殴ってたらしい。

時に、味噌汁がまずいって事で、熱々の味噌汁をかけられたりなんて事は普通だった。

普通だったらここまでの事されたら、別れるというか逃げるのが普通じゃない。

でも、上記のように母親や俺の妹をある意味人質にとられてたから、逃げたくても逃げられなかった。(その独白を聞いている最中に妹がワンワン泣いていた)

彼氏は大学に行く時以外は奴隷みたいな生活をしてたんだって。

話の途中で悪いけど、ヤクザ屋さんの情報網ってすごいね。

俺の家の情報、戸籍とか家族構成とか土地建物の所有者や俺の親父やおふくろの会社とか、彼氏の家の家族構成とか母親の勤務先とか勤務先の情報とかを全て逐一押さえてるのよ。

それを徳子に見せられて、もう何も言えなかったんだって。

ガクブルで思考停止だったんだって。

逃げ出すまでは。

それから、徳子としている映像まで撮られてて、もう逃げられないと確信したそうな。

で、決定的な事が起きた。

彼氏は自殺未遂を起こしたらしい。

リストカットしたらしい。

病院に行ってなんとか大丈夫だったけど、退院したら即日マンションに監禁された。

それが十日ぐらい続いたらしい。

すごいと思ったのは、縛って動けないようにするベッドって売ってるらしいね。糞しても大丈夫なように、常時ベッドに縛るのが目的みたいなベッド。

それに退院した日から逃げてくるまで続いたらしい。

彼氏は縛られて二日目ぐらいに決心した。絶対に逃げるって。

三日目から拘束を解くために、従順になったフリをし続けたらしい。

貴女がいないと生きていけませんとか、自分はクズだからもっと矯正して下さいとか何とか。

それを聞いて、徳子はブルブル震えてたんだって。寒いとか、怖いとかじゃなくて、もっと別次元のやつね。

それを聞いて、妹が更に大きな声で泣いていた。

それをそっから六日間耐えたんだって。

逃げ出す日の二日ぐらい前に拘束を解かれたんだけど、彼氏の首に首輪みたいなのを付けて、犬のように四つんばいで歩けって命令されたんだって。

で、彼女が買い物に行った隙を見計らって逃げて俺の家に来たと。

服は全て、逃げ出さないようになのか何なのか、部屋の何処を見ても見つけ出せなかったんだって。

それこそ十五分ぐらい調べたらしいのだけれど。

と、ここまでがプロローグ。

ここからが、本編。

俺の親父とおふくろは、貿易商をやってる関係で家を空ける事が結構ある。

最大で三ヶ月ぐらい空ける事があって、帰って来ても二、三日したらすぐに海外とか行っちまうんだ。

日本の正月とか、クリスマスとか、中国の旧正月の時は十五日ぐらい家にいるけど、それ以外は空けてる。

引き篭もりだった俺には、最高の環境だった。

逆にその所為で引き篭もりになったとも言える。

そういう訳だから、彼氏を泊めることとか、住まわせる事は比較的簡単だった。

ヤクザとの関わり、情報漏洩その他を考えて、俺は、関わり合いになりたくなかった。

というのは、最高の引き篭もり生活が出来なくなる恐れがあるからな。彼氏と妹には悪いけれど。

妹がその日、俺に相談してきた。っていうか決定事項だった。

彼氏を守るって言う訳。最初は反対したよ。上記の理由もあるし、妹の身に何か起きたらヤバイからな。

でも、妹が言った。

彼氏が死んだら、自分も死ぬって。

ならば、警察に言おうって言ったら、彼氏が自殺するなんて抜かすわけよ。

俺は悩みに悩んだ。そして結論を出した。彼氏を匿うという方向で。

その日の晩飯は、楽しかったな。

妹が普段作らない俺の好物のハンバーグを作ってくれた。

彼氏の為にだがな。

それと失恋した日から、見れなかった笑顔を久しぶりに見たのさ。

満腹になって、幸せな気分で引き篭もりを再開して色ゲをしてたんだ。

その日の晩、電話があった。

そう、徳子である。

「そこに弘道、いますよね?連絡取らないって約束した筈なのに困っちゃったなぁ。弘道に代わって下さい」

って開口一番言ってきた。

こう見えても俺は、ネット弁慶であり、常日頃鍛えられてきたからな。正にVIPの面目躍如、そうそうビビらんよ。

そういうわけで、しらばっくれた。

が、次の言葉で小便ちびりそうになった。

「おいブサメン、調子に乗ってんじゃねぇぞ、ゴルァァァァッ!」

女性の声がこんなに変わるんだって生まれて初めて知った。すごい声だったよ。

恐ろしくなって、電話切った。

そしたら、今度は俺の携帯が鳴ったのよ。

友達なんて一人もいない俺に電話するなんて、親類か妹の彼氏ぐらいのもので、かれこれ一ヶ月は鳴ってない、それが恐怖の電話の後に速攻掛かってきたのよ。

ビビりながら、ひざ小僧を躍らせながら電話を取ったよ。

「お願いだから弘道を出してぇ。お願いしますぅ」

ってさっきとは打って変わった可愛い声で泣きながら懇願してくるのよ。

声はそうだな。あれに似てた。ローゼンメイデンってアニメあるだろ?良くわからんけど。で、それに出る敵役のなんだっけ、水銀燈…なんとかっているだろ?あれの声を可愛くした感じよ。

「本当にこちらにはいないんですけど」

って丁寧に言ったら、「お願いだから代わって」って、そればかり言うから、そういうのが一時間ぐらい続いた。

だんだんとウザクなってきて、色ゲもやりたいし、ラノベも読みたいしで、こっちに来たらすぐに連絡しますって事で電話切った。

電話切ったにも関わらず、徳子も納得したにも関わらず、今度は妹の携帯に掛かってきた。

その時、妹はリビングに彼氏と一緒にいたんだけど、自宅の電話を取った時の俺の態度で判ってたらしい。

妹は電話取るなり叫んでた。

「知らねえって言ってんだろうが、クソアマがぁ!」って絶叫してんの。

隣で彼氏は頭を抱えてガクブルしてた。

普段温厚で優しい妹がすごく怖かった。

とりあえず、その日はそれで終了した。

次の日の朝、妹が大学行く時間に玄関先から叫び声が聞こえた。

妹の叫び声である。すぐさま俺と彼氏は外に出た。

その時の光景は、今でも忘れられない。

俺の自宅は、犬を飼ってるんだけどさ。

その犬が殺されてたのよ。

妹は気を失ってさ。彼氏はもうさ半狂乱さ。

壁を向いて独り言言ってんの。そこで正気なのは、俺ぐらいのもんよ。すぐに彼氏を怒鳴って正気に戻して、妹を家に担ぎ込むように言った。

警察に連絡しようか、と思ったんだけどさ。妹に聞こうと思ったから、保留にした。

妹が十分ぐらいして気付いてから、如何するかって聞いても目の焦点が合わないわけよ。

あぁ駄目だなと思って警察に電話しようとしたら、自宅に電話が掛かってきた。徳子だった。

「やっぱり、弘道いるじゃないですかぁ。嘘は付いたらいけないって小学生でもわかることですよぉ?」

みたいな事を言ってた。

俺は、足がガクブルでさ。あなたがやったのですか?って聞いたらさ、徳子が笑いながら、俺に言うわけよ。

「なんの話ですかぁ?」ってさ。

その時、気付いたね。

あぁ、こいつはやってない、やらせたんだなって。

アリバイは成立してるんだとね。

もうさ、怖くて怖くて。

妹の方をみたら、ガクブル彼氏を抱きしめてる訳よ。俺も抱きしめて貰いたかった。

明日、そちらに伺いますからって事で一方的に切られた。

警察に通報しようと再度電話を掛けようとすると、妹が気付いたのか電話しないでって止められた。

俺は言ったよ、なんでやねん!って。そうしたら妹はガクブル彼氏を抱きしめながら言う訳よ。

「そんな事したら彼氏の秘密とか何とかが晒されるじゃない。そうしたらどう責任を取る訳?お兄ちゃん」ってさ。

それを言われて俺は通報するのを諦めた。

しかも、警察に通報したら、親が帰ってきて俺の責任にされて、引き篭もりを続行出来なくなるって。

そんな風に思ったわけよ。

じゃ、別に警察に通報しなくていいかって、変に納得してしまった。

そこがいけなかった。

警察に通報しないけれど、出来る限りの事はしようって思ってさ。

デジカメで現場を撮った。最高画質で百枚以上撮ったと思う。

でさ、おかしな話なんだよね。

俺の自宅はさ、塀があるのよ。高さ2メートル10センチ、厚み50センチのさ。

私道に囲まれてるんだけどさ。どうやって入ったのかなって。

登って入れるような構造じゃないんだけどな。それで便利屋さんを呼んだ。

犬の死体を処理してもらう為に。

その時にも、俺は間違いを起こしてるんだよね。

探偵さんに頼めば良かった。現場を警察じゃなくても、プロに頼めば良かった。

そうこうする内に便利屋さんが来たんだけど、すごく驚いてた。

俺と話てても何だか、ドン引きして話してるわけよ。俺の目を見ないの。

警察に言ったほうが良いんじゃないですか?なんて事を言ったから、前金として余分に払ったらすぐにやってくれた。

色ゲが買えなくなった。便利屋さんに血糊とか散らばった内臓とか壊れた犬小屋の修理とかして貰った。

お金は十五万ぐらい払った。結構高かった。

で、妹は友達を家に呼んで、タクシーで大学に行った。

彼氏と俺の二人きりになった。二人で対策を考えた。

これから玄関先で何かが起きてもすぐには家を出ない事。

買い物は、妹に頼むか、コンビニか百貨店に出前を頼むこと。

家の外に出ない事が大事だと思ったわけよ。

映画で『ボディガード』観てたから、そこら辺は結構すぐに思いついたね。

安心したら、眠気が襲ってきてさ。俺が寝ようとしたら、彼氏も付いてくるわけよ。

何か用かって聞いたら、昨日寝てないから一人で寝るのは怖いから一緒に寝てくださいって言ってきた。

で、一緒に寝た。妹の匂いがした。

夕方になって、妹が友達の女の子二人と剣道やってる女の子二人、合計四人を連れて帰ってきた。みんな可愛かった。

妹に話を聞くと、怖いからみんなに合宿って事で泊まってもらう事にした、と。

道理でみんなたくさん荷物を持ってきたわけだ。結構家が賑やかになって楽しかった。

あ、そうそう、家に女の子が来ると良い匂いがするね。嬉しかった。

その夜は、カレーライス食べながら、自己紹介とかあって何だか修学旅行みたいな感じだった。

俺は中学と高校の修学旅行逝った事ないけどな。

その後、トランプとか桃鉄とかやった。朝は地獄だったけど、こんな感じの天国が続くと良いなって思った。

夜の十一時ぐらいだろうか?門扉のチャイムが鳴った。

門扉の所に行ってみると、ガタイの良い即ちガチムチ君が三人門扉の所にいたのよ。

俺は驚いてさ。

小学校、中学校、高校とガチムチの不良に金を巻き上げられてたから、トラウマが出そうになったけど、

「こんな夜分遅くに何の御用でしょうか?」って丁寧に聞いたら、ガチムチが言う訳よ。

「ここに弘道君、来てますよね?」って。

「いえ来てないですよ?」って答えたら、ガチムチ同士で小声で喋ってるわけよ。

どうする? とか、やばいだろ? とか何とか。俺は高速で頭を働かせて考えてみたのよ。徳子の差し金だろうなって結論したね。

案の定そうだったんだけどさ。そうしたらガチムチ共が門扉を開けて入って来ようとする訳。

自宅の門扉は結構頑丈でさ。そうそう簡単に壊れないんだけどさ。

ガンガン押したり引いたりしてる訳。

止めて下さいって大きな声で叫んだら、ガチムチが大きな声で

「弘道君を監禁している疑いがあります!」って叫ぶわけよ。それこそ隣近所に聞こえるように。

驚いてさ、俺は門扉を開けられないように全力で守ったね。

そうしたら、女の子が三人ぐらいパジャマ姿で駆けつけてくれた。

妹は、警察に通報してた。そんな事が五分ぐらい続いてた。

パトカーの明かりが見えたんだろうね。ガチムチが逃げるぞとか何とか言って、逃げて行った。

警察って酷いよね。逃げてるのが判ってんのに追わないで、俺の自宅に入ってきたの。

(おまえ、犯人追えよ。今逃げってっただろう?)

そんなわけで、警察が駆けつけてきたので、わけを話した。

何か変な男が門扉を勝手に開けようとしましたので阻止しました。

見覚えのある人でしたか?なんて聞くから顔見てないのにわかるわけないじゃん。そういうわけで知らないって答えた。

警察とは、玄関で立ち話した。彼氏の事は話さずに。妹から止められてたからな。

みんな興奮してて、夜の一時ぐらいまで話をして、俺を除いて二人一組になって割り当てられた部屋にしけ込んだ。

この時点で、親か警察に連絡するなり通報するなりしとけば良かったと今でも悔やむ。

でも、親に連絡取ったら、お前がいるのになんでこうなってる?とか何とか言われてややこしくなるし、警察に通報したら、妹自殺するっていうし。

彼氏じゃねえのかよ?って突っ込み入れそうになったな。

だから、とりあえず後で考えようと思ったのよ。

その日の夕食も楽しかった。ハンバーグとから揚げが出た。旨かった。

結婚したいと思った。一生出来ないんだろうがな。その夜から、無言電話が激しくなった。

夜の八時ぐらいから掛かってくるんだ。電話線を引っこ抜いて、携帯の電源を切った。

その日は、それぐらいで何も無く終った。

そんな感じで、二週間ぐらい過ぎた頃だった。

もう俺たちは安心しきってたんだ。

女の子達をそれぞれの家に帰して、又、俺と妹と彼氏の三人で生活してた。

彼氏は、休学する事に決めて俺の自宅で資格の勉強でもする事になった。

その間に母親と連絡はとっているみたいだった。

そういう風に徳子を甘く見て、忘れた頃に事件が起きた。

彼氏と妹が二人でデートに出かけたんだ。

今日は帰りが遅くなるからと、妹は俺の為に弁当を二食分用意して出掛けたんだ。

俺の記憶では、これが妹の最後のハンバーグである。

夜の八時ぐらいだろうか?俺のパソコンにメールが入ったんだ。

このメールアドレスを知ってるのは、親類だけだ。

妹からだった。彼氏が行方不明になったんだと。

妹名義の彼氏用の携帯を持たせていたんだが、それに掛けても電源がOFFになっている。

彼氏を探して、一時間になるが連絡が来ないって。

すぐに妹に連絡した。

そしたら、妹が泣きながら言うのよ。「あの女だ!」って。

妹の所在場所を確認して、すぐにタクシーで向かった。でも、妹が心配で心配で仕方なかった。

彼氏の事はどうでもいいにしろ、妹だけは無事で居て欲しいからな。

タクシーで七千円ぐらい払ったから結構時間が掛かってた。

妹が俺の姿を確認したら、すぐに抱き付いて来た。

顔が真っ青だった。今にも死にそうな顔してた。

「どうしよう。わたしのせいだ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

って何度も言ってた。

痛々しかった。そういうわけで、近くの交番に届け出たんだ。

でも、怪訝な顔をされた。

内縁関係ってだけでは、捜索願なんかは受け付けないらしい。

それもそのはずで、妹が嫌いになって蒸発したのかもしれないじゃないか?という事をあげられた場合、俺たちには反証が挙げられないからな。

彼氏の姿を見たのは、俺も妹もこれが最後だった。その事件があってから、四ヶ月が過ぎたんだ。

その間に両親が帰ってくることが何度かあったが、忙しいとの理由ですぐに海外に行ってしまった。

妹が大変なんだという事をオブラートに包みながら話したが、病院か心療内科に連れて行けと言われた。

何か悲しくてしょうがなかった。妹は、それを見えないところで聞いていた。

妹は、親に話すなって言って俺に殴りかかってきた。泣きながら抱きしめてやった。

それ以外に出来る事がある事を俺は知らない。妹にとっては、地獄の苦しみだったに違いない。

妹は、その日から電話が鳴るとき以外は抜け殻になってしまった。

大学にも行かなくなった。友達が迎えに来てたけど、会おうともしなかった。

ひたすらに自分を責めてたように思える。妹には、この苦しみ以外にまだ超えなければならない苦しみがもう一つ残されていた。

俺は、出来る限りの捜索をした。

探偵には頼めなかった。何故なら自分が依頼した探偵がヤクザ屋さんと知り合いだったら目も当てられないじゃないか。

そんなわけで、彼氏の母親や、彼氏の病院、彼氏の大学の友人や事務局、そして彼氏が住んでたアパートの大家や契約に関係した不動産屋に聞いて回った。

母親には会えなかったんだ。

弁当屋を辞めてた。彼氏の病院に聞いてみたが、答えてくれなかった。

法律の決まりでそうなっているらしい。

徳子の名前を挙げたが、そんな人知りませんって言われた。

次に彼氏の大学の友人を探した。

それこそ同じ学部の同輩の人達に聞いたら、そういえばそんな名前の人がいたように思えるなんて答えが返ってきた。

五十人以上は聞いたと思う。

結果は駄目だった。

意外にも彼氏は友達が少なかったらしい。

事務局に問い合わせたら、妹とのデートがあった日の大体一ヵ月後に自主退学の申請があったらしい。

でも詳しくは教えてくれなかった。

俺は自分のブサメンが悔しくなった。もし俺が彼氏みたいなイケメンだったら、事務局の女性従業員は喜んで情報を教えてくれたに違いない。

何故ジェームス・ボンドがいい男なのか痛感した。

彼氏の住んでたアパートの大家のところに行った。

大家はあの青年はどこかの御曹司だったのかね?なんて馬鹿なことを言うのよ。

脳味噌ヨーグルトなんじゃね、と思ったけど、訳を聞いたら、敷金は大家さんが全額頂いてくださいって女性が言いに来たらしい。

因みに女性の名前は覚えてないらしい。ただ、美人だったと。とんだ色ボケ爺だぜ。

大家さんはややこしい話は嫌いみたいだったから、それで了承したらしい。

しかも、その女性は内装もこちらの費用でやるというような、普通だったら在り得ない様なサービスぶりだったと。後にも先にもあんな賃借人は初めてだと。

その話を聞いた時、正直ゾッとしたね。

人間の存在が物理的にも書類的にもこんな簡単に消せるんだって。

不動産屋さんにも聞いたけど、何も知りませんって言われた。

最後に司法書士と行政書士っていうの?町の法律家なら何とかしてくれるって聞いたからそれを頼りに相談に行ったんだけど、最初はすごく良い先生だったのに、事の全てを話したら、出て行けって言われた。

「当職はそんな話は一切聞いていませんので」って、相談料も返された。絶望したよ。

俺は、帰り道公園に寄って、ブルブル震えながら声を出して泣いたよ。

近くでサッカーやっている少年少女達が近寄ってきて、お兄さんどうして泣いているって聞く、良いんだ良いんだ構うなって感じで追い払ったけど、近くにいたママさん連中がおかしいと思ったんじゃないか?ご丁寧にも警察を呼んでくれたみたいで警察が来た。

犯罪を犯したわけじゃなし、ただ泣いていただけだから、すぐにどっかいった。

俺は多分妹の為に涙を流したのだと思う。

そんな訳で、手懸かりは全く消えた。

徳子のマンションがわかっても入る事は出来ないし、むしろ危険だ。(その前にどこに在るか知らないんだが)

俺と妹は彼氏と徳子からすれば全くの赤の他人なのだから。

妹は精神を病み、俺は引き篭もりを再開した。

ある日の夕方、俺が買い物をしている途中に妹から電話が来た。

すごく明るい声だった。でも何かがおかしかったんだ。

ちょっと出掛けて来るからね。明日はハンバーグ作るから楽しみにしててね。なんてことを言ってきた。

俺は、電話越しに大声で止めた、どこに行くんだ?って聞いたんだ。

そしたら、「びっくりさせてあげるから」と言って電話が切れた。

電話をし直した。電源を切ってやがった。

嫌な予感が止まらなかった。

すぐに家に帰って、妹の部屋に入り妹の友達に連絡を取ったんだ。

今までの事情と経過を話して、妹を見つけたらすぐに確保してくれなんて事を頼んだ。

俺は俺で親父の車に乗って、妹が行きそうなところとかを探したが、見つからなかった。

この一年後に妹を見舞った友達から聞いたんだが、あの日彼氏から連絡があったらしい。

妹が心配で眠れない日を過ごした。

警察に届けを出した。

最初取り合ってくれなかったけど、土下座して頼んだんだ。近くにいた子供や高校生は笑っていたがな。

そんな訳で、俺が妹を目にしたのは、ある日の夕方から三日経った早朝だった。

今日も眠れなかったな、と思いながら門扉のところに新聞を取りに行ったんだ。

そうしたら、門扉のところに座り込んでいる女性の姿が見える。

妹だったんだけど。愕然とした。妹の変わりように。

顔は片目が腫れて、もう片方の目玉は真っ赤なんだ。

太ももとかはロープで縛られたような後があるんだ。

髪の毛が切られていた。

ふくらはぎやひざは赤くすりむいていた。

妹は俺を見て俺だと気付いていないらしい。

俺は半狂乱になって大声で妹に、しっかりろぉぉぉぉ!なんてことを叫んだ。

その声の大きさに隣の家がドアを開けたぐらいだもの。すごい大きな声だったと思われる。

すぐに妹の為に、お風呂を沸かした。

大体何をされたか予想が付く。

すぐに妹の友達に電話して家に来て貰った。

一緒にお風呂に入って貰い、被害の状況確認をしてもらった。

間違いなく犯されたようだ。

妹は人形みたいになってた。

胸は紫色に腫れ上がっていた。

耳も赤く腫れ上がっていた。

髪の毛もロングだったが切られてた。右腕に何本もの注射の後が見つかった。

お風呂場から泣き声が聞こえてきた。最初妹かと思ったけど、違った。

友達の泣き声だった。すごく悲しい泣き声だった。

怒りや苦しみの時に出すような声では決してない。

聞いていたら、こっちも泣きそうになる。

俺は、どういうわけか、怒りのあまりに気分が悪くなって、トイレで吐いてしまった。

その後、病院に行ったんだ。病院に即入院という事になった。

妹の友達が四人で変わりばんこで介護してくれた。それでも妹は人形みたいだった。

看護婦さんや医者が警察を呼びますか?って聞いてきた。

親告罪って云って、訴えても良いし訴えなくても良いらしいね。詳しい事はようわからんけど。そういうわけで、妹の友達四人を集めて聞いたんだ。

訴える事をみんな反対した。駄目だって?!俺は怒りで真っ青になった。

けれど、妹の友達が俺を責めるわけよ、お兄さんは妹さんの事を全然考えてないってね。
妹さんの名誉とかどうなるんです?って聞かれた。もう二度と結婚出来ないかも知れないとも言ってた。

お兄さんはエゴイストですねって言われた。(事件から二年半経った今、俺には妹の友達が言ってた事がすごく理解できる)

それから、二ヶ月後病院を転院することになった。

妹は最初に入院した病院では意識が回復する事はなかった。結局、精神病院に送る事になった。

俺の両親は、妹を見て泣いた。

俺は親父に殴られた、半殺しにされたと云っても過言ではない。

病院の看護師が親父を取り押さえて、注射を打ってたもん。

その一部始終を見ていた妹は泣き叫んだ。親父とおふくろは今まで以上に、家に帰らなくなった。

まるで逃げるかのように。

妹の面倒はもっぱら俺と妹の友達が見ている。

最近は、俺が質問をしたら、頭を上下左右にして意思を表示する事が出来る様になった。
まだ、俺の前では喋ってくれないがな。

友達とはほんの少しだけ喋るらしい。

幼児退行というのがあるのを知ってるか?

お医者さんの話によると、妹は小学校一年から幼稚園ぐらいまでの知能しかないんだって。

それが元に戻るか否かを現代の医学で確約する事はできませんって言われてな。

俺は情け無い事に妹に抱きついて何度も何度も泣いた。

妹は笑顔で俺の頭をなでなでするだけだ。悲しくて悲しくてどうしようもない。

ただ、妹は病院の食事にハンバーグやカレーライスやから揚げが出た時に何故か知らんが、泣き出すらしい。

そういう時、彼氏の写真を持って行ったらすぐに収まるんだと。

俺よりしっかりしてた妹が廃人になってしまった。

よく俺を説教してくれた妹が廃人になってしまった。

国立の薬学部に現役合格した妹が廃人になってしまった。

よく異性の同級生からラブレターを貰ったり、告白されたり、よくその話をブサメンの俺にしてくれた妹が廃人になってしまった。

国立の入試に失敗して、泣いていた俺を抱きしめて慰めてくれた妹はもういない。

お兄ちゃんはやれば出来るんだからと、励ましてくれる妹はもういない。

俺が2ちゃんねるで知った知識をニコニコしながら聞いてくれた妹はもういない。

俺がネットゲームに夢中で部屋から出てこない時は、いつも御飯をドアの前に置いてくれた妹はもういない。

俺がネットゲームで何日も風呂に入って無い事を知っていて、深夜俺が寝てる時に暖かいタオルで体を拭いてくれた妹はもういない。

あの時警察を呼んでればこんな事にはならなかったと悔やんでも悔やみきれない……

後日談

ある日遊園地に妹とその友達を連れて行ったんだ。

もちろん、妹は車椅子な。みんなで代わりばんこで押してたんだ。

そうしたら、徳子を見たんだ。

子供を連れてた。彼氏の姿は、あの日以来見ていない。

何のオチも無い話で済まない。長々と済まない。

長文を書くのは初めてだったので、すみませんでした。

世の中には表になってないだけで、結構恐ろしい話があるということだけです。

医者が

「極限の恐怖を味わったことでしょう。死ぬよりも辛いとは、正にこの事です」

なんて事を言ってた。その医者の目にうっすらと涙が滲んでたのを思い出す。

俺は、その後、公園で発狂した……

(了)

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