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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

異世界偽家族 r+6454

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これは、俺の弟が小学三年生の時に体験した、今でも忘れられない出来事だ。


その日、弟は学校から帰宅後、友達と近所の公園で遊ぶことにしたらしい。いつもと変わらない午後、鬼ごっこやかくれんぼで盛り上がっていた。だが夕方、家族全員がそろって公園に迎えに来たことが、弟には妙に嬉しかったようだ。普段はそんなこと滅多にない。だから、かくれんぼを途中で切り上げて友達に一声かけ、俺たちと一緒に帰ることにした。

帰宅後、珍しく俺が弟の宿題を手伝った。普段なら適当に流してしまうところなのに、その日はなぜか弟のそばにいて、勉強やらゲームの話やらで大いに盛り上がった。弟は上機嫌で、その後の夕食も笑顔でハンバーグを頬張っていた。父親も寡黙な人間の割に、弟の皿に自分の分を分けてやったりして、何かが少しおかしかった。

ただの平凡な日常が、次第に奇妙な色彩を帯びていく。


テレビをつけたら砂嵐だった。何度チャンネルを変えても「ザーザー」と雑音だけが響く。母親がリモコンを取り上げてテレビを消した。その時の微笑みは不自然なほど満面だった。やがて、「ケーキ買ってあるの」「一緒に風呂に入るか?」「新しいゲーム買ったんだけど」と、それぞれの提案を投げかける家族。普段なら弟が喜ぶ言葉ばかりだったが、その時、弟は小さないたずら心を思いついた。

「トイレ行ってくる」と言い残し、戻らない計画。うちのトイレは鍵をかけるとノブが動かなくなる仕組みだ。開けっ放しの状態で鍵をかけて閉めると、トイレは“開かずの間”になる。弟はその方法でトイレを封じ、自分はトイレ向かいの地下倉庫に身を潜めた。そこから家族がトイレを開けようとする姿を見て、驚かせるつもりだったという。


しかし、実際にはその時、弟は公園で友達と別れた後、どこかへ消えていた。かくれんぼ中に突然「帰る」と言い出し、姿を消したままだった。俺たちは警察に捜索願を出し、町内放送で呼びかけもした。友達の家を片っ端から訪ねる父親の焦りようや、泣き崩れる母親の姿は忘れられない。俺自身も公園周辺を必死に走り回り、まさに地獄だった。


一方、弟は地下倉庫の中で、町内放送が流れるのを聞いていた。その瞬間、いたずらは取り返しのつかないものになったことを悟ったという。困惑していると、ダイニングの扉が急に開く音。そこから「家族」が現れた。

「ケーキ買ってあるの」

「一緒に風呂入るか?」

「新しいゲーム買ったんだけど」

トイレの前に立つ三人は、同じ言葉を繰り返していた。その声のトーンや表情が不気味なほど均一だったらしい。ノブをガチャガチャと回し、ついにはドアを叩き始めた。その音は次第に狂気じみ、ついにはドアが破られそうな勢いの振動が響いたという。

弟は地下倉庫の暗がりで凍りつき、心臓が張り裂けそうになった。次の瞬間、トイレのドアが「バン!」と音を立てて破られた。だが、不気味な沈黙が流れる。彼らは再び「ケーキ買ってあるの」「一緒に風呂入るか?」「新しいゲーム買ったんだけど」とつぶやきながら、階段を上がっていった。


恐怖に駆られた弟は、地下倉庫を飛び出して裸足のまま家を飛び出した。公園まで全力で走り、パトカーのそばにいた警官に泣きついた。俺もすぐに駆けつけ、弟は無事保護された。

だが、家に戻った弟の異常な様子は続いた。到着するなりテレビを点け、砂嵐の映像をじっと見つめ、チャンネルを次々と変え始めた。その顔は真剣そのもので、作り話をしているようにはとても思えなかった。

[出典:2011/03/01(火) 12:31:03.96 ID:5HHjRcQb0]

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