ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

きよめたまひ、はらいたまへ n+

更新日:

Sponsord Link

窓の外に差し込む夕焼けの光を思い出すと、今でも胸の奥がざわめく。

あの出来事は夢ではなかった、と確信しているのに、どうしても現実味が薄れてしまうのだ。
私の家系には、少しばかり不思議な勘が働く血が流れている。母は人の嘘を見抜いたり、未来を暗示するような夢を見たりする。兄たちもまた、妙な体験を繰り返していた。ただし、父だけはまるでそういう力がなく、頑固に現実しか信じない人間だった。

その中で私自身は、特に何も感じることなく成長した。兄が「この部屋は眠れない」と青ざめて訴えても、私は平気で眠れたからだ。自分には関係ない領域だと、どこかで高を括っていたのかもしれない。

しかし高校に上がる頃、実家の隣に寺が建った。その日を境に、私も金縛りに遭うようになった。
最初は些細なものだった。夜中にふと意識が浮かび上がり、身体が動かなくなる。クスクスと笑う女の声が闇の中で響き、近づいてくる。耳元で自分の名前を囁かれた時、全身の毛穴が総立ちになった。必死に目を閉じたまま母の部屋に駆け込み、布団に潜り込んだ夜を今でも鮮明に思い出す。

その後も、塩を置いたりお札を貼ったりしたが、金縛りは何度も訪れた。中でも忘れられないのは、夕暮れの部屋での体験だ。
テレビの音が急に大きくなり、身体が硬直した。窓から何かが入り込む気配。そして、全身にドスンと重みがのしかかる。息が詰まりそうな苦しさの中で、私は頭の中でお経を必死に唱えた。だがそれに呼応するように、大きな手が顔を覆い、さらに強く押さえつけてくる。

長い……長すぎる……。焦りに駆られた私は、禁じ手だった目を開けてしまった。
そこにあったのは、髭だらけで髪を結い上げた浪人のような顔だった。大きな指の隙間から覗くその相貌を見た瞬間、恐怖よりも強い怒りが湧き上がった。私は「うおおおおお!!」と叫び、吠えるように男を睨みつけたのだ。圧迫は解け、顔はすうっと消え、身体は自由を取り戻した。跳ね起きた私は、なおも「待てこの野郎!」と叫んでいた。

その後も似た体験が続き、私はうんざりしていた。ある日、友人と電車で金縛りの話をしていると、不意に六十代ほどの女性が声をかけてきた。
「それはね、助けてほしいからなのよ」
突然の言葉に呆気に取られる私に、女性は続けた。
「あなたは巫女の血筋。だからみんな救って欲しくて来るの。『ここは違うよ、お帰りなさい』って言ってあげればいいのよ」

友人は面白がって質問を重ねた。女性は神妙な顔で告げた。
「先祖に神主がいるはず。寺ではなく神社に関係する血よ。危険はないから心配いらない。守護が強いの」

家に帰って母に話すと、母も驚いていた。調べると、祖父がかつて神主を兼業していた事実が明らかになり、さらに祖父の家には家系図が残されていた。その最上段には、朝廷に仕える巫女の名が記されていた。

祖父は私に白い紙を差し出した。墨で「きよめたまひはらいたまへ」と書かれたものだった。
「これを唱えろ。守ってくれる」

それ以来、金縛りに遭うことは一度もない。
嫌な場所に足を踏み入れた時も、その言葉を心の中で繰り返すだけで、不思議と恐怖は薄れていく。

けれども――あの電車で声をかけてきた女性は誰だったのだろう。柔らかな笑みを浮かべ、私の背後でずっと話を聞いていたという彼女。再び出会うことはなかった。住所を受け取っておけば良かったと、今でも悔やむ。
もしかすると、あの人自身もまた、この世の者ではなかったのかもしれない。

[出典:616 :本当にあった怖い名無し:2010/03/27(土) 21:59:28 ID:Ia1evdyp0]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.