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短編 r+ 不動産・物件の怖い話

報告義務外 rw+4,470-0205

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これは、私が不動産会社に勤めていた頃、退職間際の先輩から引き継いだ記録をもとにまとめた話である。

引き継ぎと言っても業務資料ではない。社内では共有されない、けれど誰かが必ず読まされる「生活報告書」だった。

先輩は二十代のほとんどを、いわゆる心理的瑕疵物件で過ごしていた。理由は単純で、資格取得のために会社が用意した社員寮に入る条件が、それだった。家賃は全額会社負担。ただし住む部屋は、過去に人が亡くなっている物件に限られる。

心理的瑕疵は、一定期間誰かが住めば報告義務が消える。その「最初の一年」を社員が肩代わりする。帳簿上は合理的だった。

最初の物件は東京の集合住宅だった。独身の中年男性が亡くなった部屋で、記録上の異常は電気関係のみとされていた。
夜中になると照明が脈を打つように明滅し、電源を切ったはずの家電が不規則に動作する。ラジオはチューニングしていない局の雑音を拾い、部屋全体が薄い膜に包まれたような感覚になると記されている。

調査は徹底された。電力会社、管理会社、行政の車両まで入ったが原因は特定されなかった。
その後、外部の人間が部屋に入った。記録には日時と作業時間だけが書かれていて、内容は空白だった。
異常は止まった。止まったことだけが事実として残った。

二件目は埼玉の古い団地だった。一人暮らしの老人が亡くなっていた部屋だ。
ここでは水が問題だった。夜中、誰も触れていないシャワーが全開になり、蛇口を閉めても水滴が止まらない。玄関やベランダに、外的要因のない水たまりができる。
布団に入ると、上から押さえつけられるような重さを感じる日が続いたとある。

呼吸音の記録も残っている。
フゥゥゥフゥゥゥゥ。
耳で聞く音ではなく、頭の内側で鳴る低音だと書かれていた。

ここでも二度、外部の立ち入りがあった。二度目の後、水は止まった。
ただし報告書の末尾に、こんな一文がある。
「水が止んだあとも、乾いたはずの床を踏むと、わずかに沈む感じがする」

三件目が最後だった。埼玉県内の小さな一戸建て。十ヶ月前に孤独死があったとだけ記され、設備異常の記録はない。
その代わり、先輩はここで初めて「見える」ようになった。

朝、洗面台の鏡に顔を映すと、すぐ横に老人の顔がある。
昼間、勉強していると家の中を歩く足音がする。
夜、眠りに落ちかけると、枕元に気配が溜まる。目を開けると、白髪の老人がこちらを覗き込んでいる。

記録は淡々としていた。恐怖や感情の言葉は使われていない。ただ、回数だけが書かれている。
外部立ち入り、一回目。
二回目。
三回目。
四回目。

四回目の後、姿は見えなくなったとある。
だが最後の行は、こうだった。
「この家では、最後まで慣れなかった」

先輩はその後、別部署に異動し、寮を出た。報告書はそこで終わっている。
だが、引き継ぎの際に、彼は私にこう言った。

「あれな、たぶん物件ごとじゃない」

意味を尋ねると、彼は少し考えてから答えた。

「一年経つと、部屋の報告義務は消えるだろ。でもな、住んだ人間のほうは、どこにも提出しない」

私はその時、笑って受け流した。
合理的な制度だと思っていたし、実際に異動後は何も起きていないと彼も言っていたからだ。

その後、私も資格取得のために寮へ入ることになった。
配属初日、管理担当から渡された封筒の中に、例の生活報告書のコピーが入っていた。
物件名はまだ空白だった。

今夜から住む部屋の鍵を受け取り、玄関で靴を脱ぐ。
鏡があった。
何気なく顔を映す。

その横に、誰かが立っている気がした。
だが、報告書にはこう書く決まりだ。
異常なし。

そう書きながら、私は今も、この家に住んでいる。

[出典:562 :本当にあった怖い名無し:2005/08/14(日) 16:44:24 ID:B0+L6X1q0]

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