福岡県にあるT山は、地元民にはよく知られた場所だ。
特に麓にあるS霊園は心霊スポットとして有名で、多くの若者が興味本位で訪れる。
自分もその例に漏れず、何度か霊園に足を運んだが、不思議な現象に出会ったことはなかった。しかし、高校生の時、「綺麗な場所でキャンプをしよう」という話が持ち上がり、友人たちとT山の頂上付近にある小屋でバーベキューをすることになった。
その小屋は誰でも利用可能で、中には囲炉裏と椅子があるだけの簡素な建物だ。計画は無謀そのもので、テントや寝袋は持参せず、夜中に霊園を経由して登るというものだった。
当日、夜10時頃に登山を開始。直前まで釣りをして過ごし、釣った魚や買った食材をリュックに詰め、暗闇の山道を進んだ。30分ほど歩いた頃、友人の一人が「怖い話でもしながら行こう」と言い出し、全員が賛同。それぞれが聞いた話や体験談を語り、怖さと興奮が入り混じった妙な雰囲気のまま、小屋に到着した。
小屋に着くと、全員で薪を集めることにした。しかしあたりは真っ暗で、懐中電灯の光も頼りない。薪になりそうな木を探していたが、小屋の周囲では見つからず、じゃんけんで負けた自分と友人二人がもう少し遠くへ行くことになった。
暗い山道を歩いていると、一人が「こんなところに社がある」と声を上げた。向かってみると、確かに小さな社がひっそりと佇んでいる。何かが祀られているようだったが、怪談話で盛り上がっていた自分たちには、その光景は不気味にしか見えなかった。薪をいくつか拾い、慌てて小屋に戻ることにした。
戻る途中、背後からキーッという音が聞こえた。反射的に振り向いてしまうと、社の前に人影のようなものが立っているのが目に入った。懐中電灯で照らしても、そこには人の気配はない。影の正体を突き止めようと友人がライトを動かしたが、何もない。恐怖に駆られ、全員で一目散に小屋へと逃げ帰った。
小屋に戻ると、中では別の友人たちがすでに囲炉裏で火を起こし、肉を焼いていた。
「なんで勝手に始めてるんだ！」と波田野が怒ると、「拾った枝と、そこにあったボロボロのカレンダーを燃やした」と友人が答えた。問題はそのカレンダーだった。十年以上前の日めくりカレンダーで、破れたページの隙間から黒い斑点が見える。気味が悪いと思いながらも、波田野がめくり始めると、中に不気味な文字が書かれていた。
「二十日 この日は私が初めて手首を切った日 これ見た人呪うね」
その場の空気が一気に凍りついた。他のページをめくると、「まゆみちゃんの頭から血が出てる」「カレンダーに垂らしてみたら黒くなっちゃった」といった異常な内容が続いている。ページをめくるごとに、黒い斑点は赤黒く広がり、内容はさらにおぞましいものになっていった。
最後のページには、「十二月二十五日 まゆみちゃんの足を切って社の後ろに隠したよ」と書かれていた。その言葉が指し示すのは、先ほど見たあの社だ。誰かが「これはただの悪戯だ」と笑ったが、次第に全員の表情が曇り始めた。その時、外から「おーい、おーい」という声が聞こえた。
全員が静まり返り、耳を澄ますと、小屋の裏からバンバンと激しく叩く音が聞こえてきた。
次の瞬間、ドアが開き、古びたバットを持った男が立っていた。
「お前ら何してんだ！ここは俺が住んでるんだ！」と怒鳴りつけられ、全員が慌てて荷物をまとめて小屋を出た。その際、男は「食い物を置いてけ！」と叫び、焦げた肉を指差して怒り続けていた。
外に出ると、暗闇の中、懐中電灯の光だけが頼りだった。足元を照らしながら進んでいると、後ろからまた「おーい」と声が聞こえた。振り返ると、遠くに小さな人影が見える。その人影が徐々に近づいてくるように感じた瞬間、全員で一斉に走り出した。
途中で波田野が「まゆみって誰だよ」と呟いた。誰も答えられない。ただ、それを考えるのが恐ろしかった。やがて山道の端に地蔵が現れた。安心しようと手を合わせたが、伊藤が「これ、地蔵じゃなくて足切り地蔵だ」と言い出した。
地蔵の足元を照らすと、確かに右足が途中で途切れている。その横に立つ風車が突然カラカラと回り始め、風車の根元に「まゆみちゃん」と書かれた文字が見えた。
再び全員で走り、山を下り切った頃にはアスファルトの道路が見えていた。その瞬間、ようやく全員が安堵の息を漏らした。
それ以来、あのT山には一度も近づいていない。後日、友人が調べたところ、特にその山で事件や事故があったという記録は見つからなかった。ただ、あのカレンダーや社が本当に何を意味していたのか、それは今も分からないままだ。
（了）
[出典:235 本当にあった怖い名無し 2007/09/13(木) 22:40:43 ID:9+35Nh+E0]
