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短編 山にまつわる怖い話 n+2026

山の神の日 nc+

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毎年一月十二日は、その土地では「山の神の日」と呼ばれている。

山の神が山に生えている木の数を数える日であり、その日は理由を問わず誰も山に入らない。森林組合でも伐採や巡視は完全に止まり、林道の入口には簡単な縄が張られるだけだが、破られることはほとんどない。

山の神の日には不思議と雪が降らない、と昔から言われてきた。
神が木を数えやすくするためだという。実際、周辺では吹雪いていても、その日だけ山の上は乾いたままのことが多い。ただし、稀に例外もある。

ある年、一月十二日の夜にまとまった雪が降り、山全体が白く覆われた。
翌十三日の夜明け前、点検のために入山した者がいた。夜明け前なら問題ないと判断したのだという。

雪の上には、小さな裸足の足跡があった。
子どものものとも、大人のものともつかない。林道だけでなく、斜面や木立の奥にも、点々と続いている。獣の足跡とは形が違い、履物の跡もない。

不審に思い、日が昇ってからもう一度同じ場所を確認しに行った。
雪はほとんど溶けていなかった。だが、足跡だけが、最初から存在しなかったかのように消えていた。

それ以来、その山では十三日の朝も含めて、山の神の日は丸一日、完全に山を空けることになった。

吉野地方では、木材の搬出にヘリコプターを使うことがある。

急峻な地形では人や車が入れず、空から吊り上げるしか方法がないためだ。

その操縦士が、同じものを何度か見ている。
ヘリで山の上を旋回している最中、林道からも作業道からも外れた木立の中に、ひとり立っている女性だ。

冬でも白い半袖の服を着ている。
動かない。手も振らない。爆音を立てて飛ぶヘリコプターを見上げることもない。
視線だけが、伐採の進む斜面に向けられている。

最初は見間違いだと思った。
だが、場所を変え、日を変えても、同じような位置に、同じように立っていることがあった。
山に人が入っていない日ほど、見かける頻度が高かったという。

会社では誰もその話をしなくなった。
「ああいうのは、見なかったことにしたほうがいい」
それだけが暗黙の了解になっている。

杣人のKが聞いた話だ。

仕事を終え、仲間と林道脇で一服していたときのことだった。
上方の斜面を、知人のEが下ってくるのが見えた。妙な歩き方をしている。
そのすぐ後ろに、和装の女性がぴったりと寄り添っていた。

Eは杣道を使わず、斜面をまっすぐ突っ切ってくる。
足元がおぼつかず、ヒョコヒョコとした歩き方だった。
次の瞬間、急勾配の法面を転がり落ち、道路にどさりと倒れ込んだ。

女性は木立が途切れるあたりで立ち止まった。
KたちがEのもとへ駆け寄るのを見届けると、体を翻し、ヒラリヒラリと斜面を登って山の奥へ消えた。

Eは気を失っていた。
病院に運ばれ、足の骨折が判明した。
玉切り中に転がった大木に足を挟まれ、激痛で動けなくなり、その場で意識を失ったらしい。

医師の話では、その足の状態では平地ですら歩行は困難だったという。
それでもEは、数百メートルの斜面を下り、道路まで出てきていた。

E自身には、その間の記憶が一切なかった。
病室のベッドで、不自由な足をさすりながら、Eは山の方角に向かって黙って頭を下げていた。

誰も、何が起きたのかを確かめようとはしなかった。

[出典:561 :聞いた話 ◆UeDAeOEQ0o :2009/02/08(日) 22:49:44 ID:TJdslG2F0]

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