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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

泣きぼくろ nc+

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私の祖母はいわゆる「みえる人」だったらしい。

少なくとも、祖母自身はそう信じて疑わなかった。私は祖母に育てられたようなもので、幼い頃から怖い話や不思議な話を、昔話の延長のように聞かされてきた。その多くは結末が曖昧で、理由も説明もなく、ただ「そういうことがある」とだけ残される話だった。

その中でも、今になっても頭から離れないのが、「しるし」の話だ。

私は生まれつき、右目の下に小さなほくろがある。いわゆる泣きぼくろだ。幼い頃は近所の人や親戚に「かわいい」と言われたり、「よぅけ泣いて育ったんやろ」とからかわれたりした。悪い意味で言われることは少なく、私自身もそれなりに気に入っていた。

祖母は基本的に孫を無条件に褒める人だった。勉強ができなくても、運動が苦手でも、とにかく「ええ子や」と言う。しかし、このほくろに関してだけは違った。

「いらんもんを持って出てきた」
「大人になったら、それ、取ってしまいなさい」

理由も言わず、強い口調でそう言うのだった。私は不満だった。小学校高学年のある日、ついに聞いた。

「なんで、そんなにこのほくろが嫌なん」

祖母はしばらく黙っていたが、やがて観念したように話し始めた。

「ばあちゃんが子どもの頃、隣の家に、いとさんちゅう人がおってな」

いとさんは祖母より十近く年上で、田舎では珍しいほどの美人だったという。働き者で、いつも穏やかに笑っていて、祖母にとっては憧れのお姉さんだった。ときどき遊んでくれ、年の離れた子どもにも丁寧に接してくれたそうだ。

年頃になると縁談が相次いだ。最初は隣町の和裁教室の跡取り。いとさん自身もそこに通っており、腕も確かだったため、誰もが良縁だと喜んだ。だが祝言のひと月前、相手が事故で亡くなった。

周囲は慰めた。「あんたが悪いんやない」「結婚する前でよかった」。祖母自身も、正直に言えば、いとさんが嫁に行かなくなったことを少し嬉しく思ったという。

だが祖母の祖母、私の高祖母だけは違った。

「あん子は、他に見初められちょん」

幼かった祖母には、その意味がわからなかった。

半年後、次の縁談が持ち上がった。町内でも有数の農家で、畑仕事をさせず、和裁の教室を開いていいという好条件だった。話は順調に進んだが、また祝言の直前で破談になった。相手の博打による借金が発覚し、家は夜逃げ同然で消えた。

三度目の縁談も、直前で終わった。相手が大怪我を負い、片足を失ったのだ。

この頃から、周囲の空気が変わった。いとさんに落ち度はない。だが、不運が重なりすぎた。人は理由のない出来事に耐えられない。誰も口には出さないが、「何かあるのではないか」という視線が向けられるようになった。

いとさんは次第に元気を失っていった。それでも不思議なことに、その美しさは衰えるどころか、増していったという。肌は白く、瞳は潤み、髪は絹のように艶やかだった。

ある満月の夜、祖母はふと目を覚ました。誰かに呼ばれた気がして、布団を抜け出した。外に出ると、道に人影があった。

高祖母だった。その隣に立つ祖母の視線の先に、いとさんがいた。

夜なのに、晴れ着を着ていた。以前「嫁に行くときに着る」と見せてくれた婚礼衣装よりも、はるかに上等な着物だった。満月に照らされ、非現実的なほど美しかった。

いとさんは笑っていた。深く頭を下げ、何も言わず歩き出した。

呼び止めようとした祖母の口を、高祖母が塞いだ。いとさんは林の中へ入っていき、やがて見えなくなった。

翌朝、いとさんはいなくなっていた。着物も草履も、すべて家に残されたまま。

高祖母は言った。

「あん子は、人じゃないもんのところに嫁に行った」

神とも、物の怪とも呼ばれるもの。山に棲む何か。生まれる前から見初められ、成長を待たれていたのだと。

「特別な人には、生まれたときから、しるしがついちょる」

いとさんの左目の下には、ほくろがあった。

その後、山狩りをしても、いとさんは見つからなかった。神隠し、拐かし、駆け落ち。噂は散ったが、真実は誰にもわからない。

祖母は言った。

「でもな、あんとき、いとさんは笑いよった」

それが救いなのか、諦めなのか、祖母自身もわからない様子だった。

話を聞き終えた私は、自分のほくろに触れた。

「私のも、しるしなん」

祖母は首を振った。

「わからん。わからんけん、怖い」

それから二十年以上が経った。ほくろはまだ右目の下にある。除去を勧められたこともある。だが私は取らなかった。

いつか、どこかで、祖母と再び会うことがあるなら。そのとき、このほくろがあれば、すぐに気づいてもらえるかもしれない。

そう思ったからだ。

それが、安心なのか、不安なのかは、今もはっきりしない。

[出典:怖い話&不思議な話の投稿掲示板/投稿者「凪 ◆gRc5iHyE」 2018/12/15]

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