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狐の尾が金色だった理由 r+8,253

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あれは、祖母が死ぬ直前にぽつりぽつりと語ってくれた話だ。

妙に生々しいのに、途中からおとぎ話のようになっていくその内容に、最初は冗談だろうと思っていた。

けれど今では、実家の床の間に飾られた金色の尾と、古びた槍を見るたびに、あれは真実だったのではと錯覚するようになった。

我が家には「呪い」――いや、祖母は「加護」と呼んでいたが、そんなものが代々受け継がれているという。
それを受けた者の近くでは、不思議なことに人が出世したり、大病が癒えたり、恋が成就したりする。
商談がまとまらない時期に、我が家と取引するようになってから急に業績が伸びた、などと礼状が何通も届くようになった。
海外からわざわざやってくる人もいたし、大企業の社長が父に頭を下げて仕事を依頼したこともある。

だが当の我が家は、派手な暮らしなどしていない。
父は中小企業の社長だが、地味でまっすぐな人間だ。
そして、我々の家系は昔から各地を転々としており、その理由も「この加護が原因」だというのだから、不条理だ。

――与作、という名を聞いたのは、祖母がまだ正気を保っていた頃だった。

「お前のひいひいひい……いや、もっと前だ。うちの血を引く者の始まりに、与作という男がいた」

そう語り始めた祖母の目は、どこか遠く、しかし切実だった。

与作は昔、ある山村に住んでいた百姓だったという。
ある日、山で倒れていた金色の六尾の狐を見つけ、哀れに思って家に連れ帰り、薬草を煎じて看病した。
狐は驚くほどの回復力で元気になり、与作に礼も言わず森へ戻っていった。

与作は、それっきり忘れてしまったつもりだった。

だが五年後の満月の夜、見目麗しい女が与作の元を訪れ、「私はあの時の狐です」と言った。

信じられるはずがない。だがその場で女は姿を変え、確かに六尾の狐に戻ったという。

狐は恩返しに、何でも願いを叶えてやると言った。
だが与作は考え込んだ末、「皆が平穏で、幸せに暮らせるようにしてくれ」と願った。
狐は呆れていたらしい。

「お前は馬鹿か、自分の褒美に他人の幸福を願うとは」
「だって、皆が幸せなら、おらも嬉しいだ」

狐は深くため息をつきながら、「そんな馬鹿なお人好し、初めて見る」と言って、与作の家に居ついた。
そしてある日「贅沢を教えてやる」と、与作を大きな町に連れて行った。

金箔のように光る料理、妖精のように美しい女たち。
与作は何一つ手を出さなかった。
狐は口に料理を運んでやり、与作は一口ごとに感嘆の声を漏らした。

「毎日こういう飯を食いたくはないか?」と狐は聞いたが、与作は首を振った。
「たまにだから美味いんだ。それより、村の皆にも食わせてやりたい」

狐は激昂した。

「恩を仇で返す奴らに与える必要はない」

狐は人間に深い不信を抱いていた。
それでも与作は、どこまでも善良で、頑なだった。

――そんな日々の中で、与作はある夜、とうとう言ったのだ。

「おら、狐が欲しい」

狐ははじめ冗談だと思ったらしい。
「美女が欲しいのなら、私以上の者を与えよう」

「ちがうだ。おらは、お前が良いんだ」

狐は泣いたという。
「恩返しにならない。釣り合いが取れない」

けれど与作は、「幸せになるために、おらはお前と夫婦になりたい」と言った。
狐は、「それはお前の願いだからじゃない、私の願いだからだ」と答えた。

そして二人は一子をもうけた。真作、と名づけた。
静かで、やさしい月日の中に身を置いていた。

だが村には、ひとり、そんな二人を憎々しげに見つめる娘がいた。
与作に想いを寄せていたが、告げられずにいた女だった。

娘は、村長の放蕩息子――狐に夜這いを仕掛け返り討ちにされた男と結託し、満月の夜に狐をおびき寄せ、鉄の輪で力を封じた。
狐は村長家の蔵に幽閉され、与作は行方不明になった狐を探して彷徨い歩いた。
娘は涙ながらに協力するふりをして、やがて与作と真作の心に入り込んだ。

数年後、与作は彼女と婚約を交わす。

その報せを、狐は蔵の中で聞いたという。

その夜、狐は自ら男を誘惑し、鉄の輪を外させると喉笛を噛みちぎり、その血肉を啜った。
満月の力を取り戻した狐は、結婚式の日、式場に姿を現した。

娘を八つ裂きにし、共犯の男を引き裂いた。

与作の目の前で。

「待ってたんだよ、お前が私を殺しに来るのを」

狐はそう言ったらしい。

与作は槍を手に取り、対峙した。
狐は巨大な姿になり、村の森を薙ぎ払うような咆哮を上げた。

「殺せ!お前が私を殺さないというのなら、真作を含め、村人全てを殺す!」

――だから、与作は槍を握った。

戦いは夜通し続いたという。
与作は血を流しながらも立ち上がり続け、最後には狐の胸を槍で貫いた。

「……強かったよ、与作」

狐は嬉しそうに笑ったという。

「お前に嫌われるのが怖かった。でも本気でぶつかり合えて、良かった」

与作も笑っていたそうだ。

そして、狐は自らの尾をひとつ噛みちぎり、与作へ投げ渡した。

「私は罪を償う。狐としての生を捨て、神になる。……だからお前達の子孫を守っていくよ」

与作は、嗚咽しながら狐の名を呼んでいたという。

それが、我が家に伝わる「金色の尾」の由来であり、「加護」の始まりだと祖母は言った。

狐はその後も、何代かの末裔の前に姿を見せたという。
金色の尾をなびかせて。

あの尾は、いまだに温もりを感じるように思える。
気のせいだとわかっているけれど。

(了)

[出典:156 :本当にあった怖い名無し:2008/07/26(土) 02:09:31 ID:01Jkg7lo0]

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