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金色の尾の家系 rw+8,253

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祖母が死ぬ三日前、枕元でこの話をした。

息は浅く、目は濁っていたが、声だけは妙に澄んでいた。昔話のようでいて、途中から急に現実の温度を帯びる。私は半ば聞き流しながらも、なぜか最後まで耳を離せなかった。

実家の床の間には、金色の尾が一本、硝子箱に収められている。隣には古びた槍。子どものころから「触るな」とだけ言われて育った。それが何なのか、祖母はその夜、初めて明かした。

「うちにはな、加護がある」

祖母は「呪い」という言葉を嫌った。

その加護を受けた者の周りでは、なぜか物事がうまく運ぶ。重い病が引き、商談がまとまり、出世が早まる。我が家と関わった途端に業績が伸びたと、礼状が届くこともあった。海外からわざわざ訪ねてくる者もいる。

だが、私たちは特別な暮らしをしていない。父は堅実な中小企業の社長で、質素だ。家系は代々、各地を転々としてきた。それも「加護のせい」だと祖母は言った。人が寄りすぎると、土地に居られなくなるのだと。

始まりは、与作という男だった。

祖母は何度も世代を数え損ねながら、やがて諦めたように言った。

「血のいちばん奥に、与作がおる」

与作は山村の百姓だった。ある日、山で金色の六尾の狐を見つける。罠にかかり、衰弱していたという。与作は迷わず担ぎ帰り、薬草を煎じ、手当てをした。狐は回復すると、礼もなく森へ戻った。

五年後の満月の夜、女が戸口に立った。

「私はあの時の狐です」

女はその場で六尾に変じた。与作は驚いたが、逃げなかった。

狐は言った。何でも願いを叶えると。

与作はしばらく考え、「皆が平穏に暮らせるように」と答えた。

狐は呆れた。

「自分の褒美に他人の幸福を願うのか」

「皆が笑っていれば、おらも嬉しい」

狐はため息をつき、与作の家に居ついた。贅沢を見せてやると町へ連れ出し、豪奢な料理や美しい女たちを並べた。与作はどれにも手を出さなかった。

「毎日こういう暮らしをしたくはないか」

「たまにだからいい。それより、村の皆にも食わせたい」

狐は怒った。人間は恩を仇で返す、と。

それでも与作は変わらなかった。

ある夜、与作は言った。

「おら、狐が欲しい」

美女ではなく、富でもなく、お前がいい、と。

狐は泣いたという。

「釣り合いが取れない」

「幸せになるために、おらはお前と夫婦になりたい」

狐は静かに応じた。

「それはお前の願いではない。私の願いだ」

二人は真作という子をもうけた。

だが村には、与作に想いを寄せていた娘がいた。想いを告げられぬまま年月を重ね、やがて憎しみに変えた。彼女は村長の放蕩息子と結託する。狐に返り討ちにされた恨みを持つ男だった。

満月の夜、狐は鉄の輪で力を封じられ、蔵に閉じ込められた。与作は狐を探して山を彷徨う。娘は涙ながらに寄り添い、やがて家に入り込んだ。

数年後、与作は娘と婚約する。

その報せを、蔵の中で狐は聞いた。

狐は男を誘惑し、鉄の輪を外させると、喉を噛みちぎった。満月の力を取り戻し、結婚式の日、式場に現れる。

娘を裂き、共犯の男を引き裂いた。

与作の目の前で。

「待っていた。お前が私を殺しに来るのを」

狐はそう言った。

与作は槍を取った。

「殺せ。でなければ真作も、村人も殺す」

夜通し戦い、与作は狐の胸を貫いた。

「……強かったよ、与作」

狐は笑い、尾をひとつ噛みちぎって投げ渡した。

「私は狐を捨て、神になる。お前達の子孫を守る」

それが金色の尾であり、加護の始まりだと祖母は語った。

「何代かの末裔の前に、あの子は現れた。金色の尾をなびかせてな」

祖母はそこで目を閉じた。

あれから、床の間の尾を見るたびに、私は考える。

守られているのは、誰なのか。

商談がまとまり、病が癒え、人が頭を下げる。その裏で、私たちは何を差し出しているのか。

尾は、今もわずかに温かい。

気のせいだと、自分に言い聞かせている。

[出典:156 :本当にあった怖い名無し:2008/07/26(土) 02:09:31 ID:01Jkg7lo0]

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