短編 洒落にならない怖い話

ヤクザに追われる女【ゆっくり朗読】10k

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俺の友人に一人だけ霊感があると言う奴がいる。

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仮に岩男とするがそいつは「どうせ信じないだろ」っていって俺以外の奴には霊感うんぬんの話は一切しなかった。

付き合いは長いものの俺が知ったのは一年ほど前の事。

ヤクザ絡みの金銭トラブルに巻き込まれた時の事を、ふとこいつならいいか…と打ち明けた時に「皆色々抱え込んでるんだな……」ってボソっというだけだった。

いくら俺が「信じるから!」といっても「知らん人間が語ったらあかんで……」と寒気を感じるような押し殺した声で呟くだけだった。

しばらくは俺たちのタブーとして一切触れずに過ごしてた。

だが、ある日の夜同級生の久子(仮名)からカラオケのお誘いを受けて、むこうはバイト先の友達、敬子(仮名)も連れてくるってんで俺は岩男を誘った。

4人で二時間ほどカラオケした帰りの車の中で敬子が、「私には小さい頃から霊感あって……」と突然話し出した。

俺は焦って岩男を見たが、助手席で「へー」とか「そっかぁ」って相づち打つ程度で目立ったアクションは無かった。

女の子を送った帰り岩男がドンキホーテに行きたいと言い出したので二人で向かった。

普段岩男はオシャレやファッションとは無縁の人間なんだが帽子が欲しいと言い出したので、俺は

「おっ、色気付いたか!もしやさっきの女のどっちかを気に入って!?」

と思い、あれやこれやと提案したが

「お前のセンスで決めてくれ」

と言うので俺のオゴリだとキャップを買ってやった。

岩男は買ったそばからその帽子を目深にかぶり終始無言……

帰りの車の中で俺は帽子も含めて気になって仕方なかったので

「なぁさっきの敬子ちゃんて……」というと

「ねぇよ!」と即座に食い気味に返された。

さらにまた押し殺したような声で「気持ち悪りぃ……」と吐き捨てたので

「なんか嫌な事でも言われたんか!?」と俺は焦って聞くが岩男は

「……あんな汚いもん久々に見たわ。お前に帽子まで買ってもらう始末になるし」

と意味不な事ばかり喋り続けた。

とりあえず普通じゃない気配に、俺はもうこの話題には触れず岩男を送ってその日は帰った。

しばらくお互い忙しかったのもあって岩男とは会ってなかったんだが、俺が寝てる時に携帯が鳴ったので寝ぼけて電話に出るといつぞやのヤクザだった。

「久し振りやのぅ、元気しとるんけ兄さん?なん…べん!も電話したんやけどの」

「……お宅らとは念書まで書いて縁切ったはずやけど……」

「え!?何!?もっとハッキリ喋ってくれ!!あのなぁ敬子っちゅう子知っとるやろぅ!?」

この時点でテンパリつつトラウマがっつり、フラッシュバックしつつお目めバッチリな俺は色々考えながら

「知らん。人違いちゃうんかいな、お宅らとは関わりたくない……」

と何とかしらばっくれるがヤクザはほとんど俺の話しなんか聞いて無い。

「わしらかてお前みたいなもんと関わりたくないがな!ところがやな、まぁ聞きいなぁ。
敬子っちゅうのを追っかけとったらな、うちの姪っ子の友達や言う事なんや、久子のな。
お前もようよう知っとるやろ!?久子はわしの姪っ子に当たるんや。
ほんで蓋開けて見たらわしの姪っ子のお友達がお前やったいうわけや!?」

……!!俺がトラぶったヤクザの実の姪っこが久子だという事実に俺驚愕。

「知らんわ…そんな事。初めて聞いた。とにかく敬子なんて奴知らんよ、もう切るで……」

「何!?電話遠いのぉ、お前今どこおんねん!?まぁええ、なんぞいい絵描けんかのぅ?」

すなわち敬子捕獲作戦に協力しろとこのヤクザは言いたいのだろうが、俺はとにかく関わりたくなかったので

「だから敬子なんて知らんゆうてますやん。お宅の姪っ子さんに聞いてくれ」

と言って電話を切ろうとしたが

「……まさかお前なんかわしの事いろて……またしょうもない絵描いてのと違うやろなぁ?」

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鳴り響くドスの聞いた声に半泣き&勘弁してくれ状態。

「敬子なんて女ほんまに知らんし……久子ともあれから会ってない」

「なぁ鈴木君や、あんたさえうんと言ってくれたらな、わしも安心なんじゃ」

上から下からこの上無いしつこさに俺ついに根負け……

「久子に聞いて、なんぞ言って見る…どうせお宅から久子に強く言えへん理由が……」

「そうか!?ハイハイわかったよ!!」

プチッ.……ツーツー……

相変わらずの理不尽さにトホホな俺。

すぐに久子に電話して事情を説明したら号泣。

久子いわく自分がヤクザの姪っ子である事はずっとひた隠しにしていたし、まさか俺と接点があった事など知らなかったとの事。

急に家に電話が掛かって来て敬子と俺と、もう一人でカラオケに行っただろう?とヤクザに言われ、敬子を今度連れて来い、それから俺の名前を出して、あいつとはどういう関係だ?関わるなと言われた事を泣きながら話した。

俺にその時点で連絡を入れなかったのは過去にヤクザ関係で家族一同、嫌な思いをして来たので何もかも信じられなくなってどうしたらいいかわからなくなったとの事。

とにかく俺は敬子を連れて行く必要は無い、親しくないを通せと言ったが、敬子はあまりいい噂聞かないし、俺に迷惑掛けるかもしれないし、自分で何とかすると言って電話は切れた。

数日後、ヤクザからガンガンに電話が掛かって来た。

初めは無視していたがいい加減怖くなって電話に出た。

「ハイ……」

「相変わらずお前はなん…べん!鳴らしても電話に出んの!!こらカス!!」

「なんでんねん……」

「あぁ?お前も黒いの!えぇ!?久子が敬子連れて来よったわ!!
お前に連れて行け言われたっちゅうてな!!うまい事絵描いてくれたやんけ!!!
相変わらずよう世間知っとるのぉ、クソガキが」

「……!?(言ってねぇ!!)俺何も言うてませんで、ただ久子にこんな事が」

「ハイハイ、ようやってくれた。またなんぞあったらよろしく」

ツーツーッ……

どうやら久子は敬子をヤクザの元へ連れていったらしい。

敬子に恨まれるのが嫌で俺に指示されたと嘘をついたのか、俺を守る為にそういう事にしたのかは定かでは無いがそれ以来久子とは音信不通で連絡出来なくなった。

この一連の流れを久し振りに会った岩男に話した。

ずっと黙って聞いてた岩男が話しを聞き終えてから

「あの敬子って子この前来たよ俺んとこ」

と呟いたので俺は「?幽霊…?死んでんの?」とおそるおそる聞いてみた。

「グチャグチャな顔してベーっと舌出してたよ。詳しくはわからんけどあの子多分人殺してるよ、カラオケの時そう思った」

「……久子はどうなってんの?」

「知らんよ…でも久子ちゃんは敬子ちゃんを恨んでたと思うよ、なんか敬子ちゃんに対してドス黒いもんまきついてた」

「久子は…敬子になんかされて、…それでヤクザに引き渡したんかな?俺のせいにして」

「知らんけど…あの久子ってのも、相当黒いよ。お前にもまきついてた」

「まきつくって何?」

「本体とは違う方…やらしい顔してな、ずっとお前の下半身に絡みながらお前の方見てたよ…… 自分が歌ってる時はずっとな……それ以外は敬子ってのに凄い形相でな」

今一要領を得ない受け答えばかりだったが岩男との関係にもヒビが入りそうで俺は話題を変えた。

「まぁいいや、帽子気にいったか?」

「帽子被ったら見なくていいもん見ずに済むかなって思ったんだけどさ……ほら久子ちゃんいるじゃんそこ」

……!!

「嘘だよ、まぁあの子も死んでる気ぃするけどな」

(了)

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