ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 洒落にならない怖い話

曾祖父が僧侶を辞めた理由 rw+7,777-0213

更新日:

Sponsord Link

曾祖父の話をする。

直接の記憶はない。物心つく前に亡くなっている。ただ、祖父が酒を飲むときだけ、決まって口にする話があった。それを何度も聞かされているうちに、まるで自分が見たことのように思えてきただけだ。

曾祖父は僧侶だった。代々続く家で、生まれた時からその道を歩くことが決まっていたらしい。除霊や鎮魂を頼まれることが多く、特別に高名というわけではないが、厄介事を静かに片付ける人として知られていたという。

ある日、遠方から羽織袴の男が訪ねてきた。名主を名乗り、不幸な死を遂げた女性たちの供養を依頼した。

曾祖父は男を一目見て、妙だと感じたそうだ。祟られている、と言うより、何かを抱えたまま隠している顔だったという。だがそれを口にせず、数日間自宅に泊めた。準備がいると告げ、その間に知己の名前を各地に残した。自分の居場所がはっきりするように。

そして男の村へ向かった。

山間の村だった。道を進むほど、空気が重くなったと祖父は聞かされている。湿り気を含んだ匂いが鼻につき、村人の目はどこか揃っていたという。同じものを見ているようで、何も見ていない目だったと。

屋敷に通され、供養すべき女性は三人だと告げられた。しかし曾祖父は、三人だけではないと感じたそうだ。屋敷の床下から、土蔵の奥から、井戸の縁から、声にならない気配が滲んでいたという。

村では殺人が続いていた。だが外には出さない。犯人は村内で処理し、死因は整えられ、土に埋められる。警察も医者も、必要ないという顔で。

発端は先代の当主だった。冷酷で、誰の弱みも握り、三人の女性の死にも関わっていた。だがその男はすでに死んでいる。実の妹に殺されたと聞かされた。

それでも終わっていなかった。

先代は死ぬ前に、ある男に罪を着せ、私刑に処していた。三人の女性と関わりのあった男だという。その男が土蔵の裏に埋められていると、ひそひそ声で教えられた。

掘り返された遺体は、三年経っているはずなのに湿っていた。腐敗の匂いではなく、生ぬるい土の匂いだったと祖父は言った。身体は切り刻まれていたが、髪だけが不自然に長く、地面に張り付いていたらしい。

曾祖父はその場で経を上げた。だが祖父は、そこから先の話になると声を落とす。

「供養はな、収めるためじゃない。向きを変えるためのものだ」

曾祖父は墓を整え、当主に告げたという。

子々孫々、この男の供養を続けること。三人の墓には近づくな、と。

そして遺体の髪を一房切り取った。それを持ち帰り、自宅の裏山に小さな塚を築いた。誰にも触れさせず、月命日に必ず経を上げた。

村の異変は収まったとされている。殺しも止み、静かな山村に戻ったという。

だが曾祖父は、ほどなくして僧籍を離れた。破門でも追放でもない。自ら辞めた。理由は語らなかった。

祖父が子どもの頃、裏山の塚に近づいたことがある。好奇心だった。土の盛り上がりに触れた瞬間、指に絡みつくような感触があったという。根ではない。湿った髪の束のようだったと。

その夜、曾祖父は祖父を叩いた。理由も言わず、ただ「近づくな」とだけ告げたそうだ。

曾祖父が亡くなった後、塚はそのまま残った。供養は誰も引き継がなかった。祖父は寺を継がなかったし、父も何もしなかった。

数年前、裏山を造成する話が出た。重機が入る前夜、祖父は久しぶりに酒を飲み、あの話をした。

「向きが変わるだけだ。消えたわけじゃない」

翌日、重機は故障し、作業は延期になった。原因は分からないと聞いた。

塚は今も残っている。草に埋もれ、場所を知る者も少ない。

祖父はもういない。曾祖父の話を知るのは、たぶん俺だけだ。

月命日も分からない。経も読めない。ただ、雨の夜になると、裏山から湿った匂いが降りてくることがある。

髪が、まだ伸びているのかもしれないと考えることがある。

供養を止めたのは、俺たちのほうだ。

だから向きが、また変わるのかもしれない。

――曾祖父が僧侶を辞めた理由を、俺はまだ聞いていない。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 洒落にならない怖い話
-

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.