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この道に慣れている rw+1,969-0109

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大学三年の夏休み、俺たちは“逆に回る”ことにした。

四国八十八箇所。
順打ちではなく、最後の札所から最初へ戻る逆打ちだ。

言い出しっぺが誰だったかは覚えていない。
ただ、きっかけがホラー映画だったことだけははっきりしている。
『死国』。死者が蘇る、という設定のやつだ。

信じていたわけじゃない。
少なくとも、口ではそう言っていた。
だが、地元の年寄りが「逆に回ると罰が当たる」「死んだ者が戻る」などと真顔で言う話を聞くと、完全に冗談として切り捨てることもできなかった。

禁忌。
その言葉が、俺たちにはちょうどよかった。

俺とYとAの三人で、自転車に荷物を積んで四国に渡った。
徒歩は現実的じゃないし、車では味気ない。
自転車なら、身体も疲れるし、逃げ道も少ない。その中途半端さが、逆に気分を盛り上げた。

八十八番札所、大窪寺から出発した。
うどんを食い、写真を撮り、最初は完全に旅行気分だった。

炎天下。
坂道。
パンク。
蚊と汗と、白衣姿の巡礼者たち。

二十ヶ所ほど回ったあたりで、愛媛に入った。

ある寺の境内で休んでいたとき、Yが言った。

「なあ……あの人、前の寺にもいなかったか?」

指さされた先に、中年の女が一人立っていた。
大きな鞄を抱え、白衣は泥で黒ずみ、裾は擦り切れている。

正直、俺には覚えがなかった。

「巡礼なんて、似たようなのいくらでもいるだろ」
「でもさ……なんか、気になって」

それ以上は言わなかった。
その場では、気のせいということにした。

だが、その後も、似た場所で、似た距離感で、何度もその女を見かけた。
追い抜いたはずの寺。
時間的に合わない場所。

自転車で走っている俺たちと、徒歩の巡礼者。
計算すれば、ありえない。

四十番台のB寺で、俺たちは野営することにした。
シートを敷き、星を見ながらだらだら過ごす。
Aは即寝。
俺とYは、なぜか眠れなかった。

日付が変わる直前だったと思う。

境内の奥、山門の方に、動く影が見えた。

人だ。

白衣。
大きな鞄。

あの女だった。

こんな時間に参拝する人間はいない。
それだけで、空気が変わった。

「……やっぱ、あの人だよな」
Yが低い声で言った。

俺たちは、なぜか止められなかった。
怖さよりも、確認したい気持ちの方が強かった。

Yが声をかける。

「すいません、ちょっと」

女は振り返った。
逃げない。
ただ、こちらを見ている。

目が、どこを見ているのかわからない。

「こんな時間に、参拝ですか」
「逆打ちを……しているんです」

かすれた声だった。

「急いでるんですか」
「ええ……どうしても」

「僕らも逆打ちで回ってて。何度か、前に見かけた気がして」
「この道には……慣れていますから」

その言い方が、妙だった。
長く歩いた人間の言葉じゃない。
道そのものを知っている、みたいな言い方だった。

それ以上、女は答えなかった。
本堂の方へ、ゆっくり歩いていった。

「な?変わってるけど、普通の人だろ」
Yはそう言ったが、声が少し震えていた。

その直後だった。

カツーン……
カツーン……

乾いた音。

本堂の奥から、何度も。

釘を打つ音だ。

俺たちは走った。
音は、途中で止まった。

本堂の柱に、木札が打ちつけられていた。
禁止されているはずの木札。
紙ではなく、古い木。

女は、槌を持ったまま立っていた。

そして、俺たちの横を、何事もなかったように通り過ぎた。

すれ違いざま、小さく呟いた。

「今度は……違うはず……」

その瞬間、ぞっとした。

違う、という言葉。
何と比べているのか。
何が、何度も、同じだったのか。

女の背中。
白衣の背に、墨が滲んだような跡があった。

文字だと思った。
だが、擦れて読めない。
何度も洗われ、何度も汚れ、削れた痕跡だけが残っている。

その夜、俺は眠れなかった。

翌朝、Yが言った。

「あの人さ……俺たちが話しかけたこと、覚えてない感じだったよな」

Aは何も聞いていなかった。
だが、出発前、ぽつりとこう言った。

「昨日さ、夢見たんだよ。
白い服の人に、道を聞かれてさ。
俺、教えた気がする」

その時点で、俺たちは逆打ちをやめた。

四国を離れてからも、あの女のことは忘れられない。

今でも、思う。

あの女は、誰かを戻そうとしているのか。
それとも、戻るべきものを、増やしているのか。

俺たちは、ただ見ただけだ。
話しかけただけだ。
それでも、道の中に、少しだけ足を入れてしまった。

もし、四国で逆に巡る人を見かけたら、気をつけてほしい。
白衣の背中を。

そこに文字がない場合もある。
すでに削れ落ちているだけかもしれない。

そして、その人が「この道に慣れている」と言ったなら、
それは道を知っているという意味ではない。

その道を、何度も通らされている、という意味かもしれない。

気づいたときには、もう順番は戻らない。

[出典:294 :本当にあった怖い名無し:2006/12/11(月) 19:41:11 ID:euciTnRP0]

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