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葉を戻したのは誰か rw+4,400-0217

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部の奥山に、小さな集落があった。

あたしはそこで生まれたわけじゃない。幼いころ両親を亡くし、庄屋に引き取られた。二つ年上のお嬢さんの世話役として、同じ屋敷で暮らした。礼儀も読み書きも教えられたけれど、本当に覚えているのは、縁側で一緒に笑った時間だ。

あの人は、山の雪解け水みたいに澄んだ声で笑った。

あたしが十四になった頃、村で妙なことが続いた。

神仏を馬鹿にしていた男が山中で首の骨を折って死んだ。慣れた道で転ぶ者が増え、木から落ちる者もいた。大怪我ではない。だが続いた。

祟りだ、という声が広がった。

最初は誰も本気にしなかった。だが夜の灯りが増え、戸締まりが早くなり、子供が外に出なくなると、祟りはもう噂ではなくなった。

やがて、誰かが言った。

「鎮めるしかない」

若い娘を。

あたしは、その場にいた。

奉公人も村の男も、誰もあたしを見なかった。けれど視線はあたしのほうへ流れていた。両親のいない娘。よそ者。庄屋の血でもない。

そのとき、あたしは一度だけ、お嬢さんを見た。

あの人は、何も言わなかった。ただ、あたしを見ていた。

その夜、あたしは眠れなかった。布団の中で考えた。生きたいと思った。怖いと思った。お嬢さんは庄屋の一人娘だ。村の宝だ。あの人が選ばれることはない。絶対にない。

絶対に。

翌朝、あたしはお嬢さんの部屋へ行った。

雨戸の閂は下りていなかった。

布団は温かく、着物と草履が消えていた。枕元には山奥にしか生えない葉が一枚落ちていた。

あたしは、それを見て、すぐに気づいた。

昨夜、あの人はあたしの部屋に来た。

「怖い?」と聞かれた。

あたしは答えなかった。

あの人は、しばらく黙っていた。それから言った。

「大丈夫」

何が大丈夫なのか、聞かなかった。

あたしは、あの人の手を握らなかった。

止めなかった。

止められなかった。

朝、騒ぎになったとき、あたしは葉を拾い、袖に隠した。それを布団に戻したのは、あたしだ。

山から連れて行かれた証が必要だった。

祟りは神の仕業でなければならなかった。

拝み屋の婆さんが来て、神隠しだと言ったとき、あたしは何も言わなかった。婆さんは一度だけ、あたしを見た。何も聞かなかった。

社が建ち、お嬢さんは神になった。

生贄は消えた。

あたしは生き残った。

あたしは嫁に行き、子を産み、孫に囲まれている。

だが、あの葉の感触だけは忘れられない。

もしあのとき、あたしが「怖い」と言っていたら。

もし手を握り返していたら。

あの人は、山へは行かなかったかもしれない。

それとも、あたしを連れて行っただろうか。

社には今も参る者がいる。若い娘が祈る姿を見ると、胸がざわつく。

あの人は、今も守っているのだろうか。

それとも、待っているのだろうか。

あたしは、まだ答えを言っていない。

――誰を差し出したのか。

本当に、神様が選んだのか。

それを決めたのは、あの日そこにいたあたしたちだ。

そして、読んでいるあなたも、もし同じ場所に立ったら、きっと考えるはずだ。

誰なら差し出せるか、と。

[出典:婆ちゃんの話:2013/11/27(水) 13:17:24.18 ID:RILHj3XU0]]

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