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短編 r+ 洒落にならない怖い話

寸法の合わない場所 rw+1,648-0114

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霊体験という言葉がある。

だが、あれは体験というより、接触に近い。

一度なにかに触れてしまうと、世界の見え方が変わる。変わったこと自体には気づけない。ただ、以前なら気にも留めなかった違和感に、立ち止まるようになる。それだけだ。

俺たち三人が、最初にそれを踏んだ夜の話をする。

当時、俺は大学一年の冬だった。背の高いYと、常に落ち着きのないAとつるみ、夜な夜なくだらない遊びをしていた。深夜の神社や廃道を冷やかしに行く。誰もいない場所にわざと足を踏み入れて、何も起きないことを確かめる遊びだ。怖がるために行くというより、何も起きないことを笑うためだった。

問題の神社は、F県の山中にあった。舗装の切れた細い道の先、木々に囲まれた古い社だ。地元ではあまり近づかれない場所らしく、ネットにはいくつか曖昧な噂が転がっていた。若い女がどうしたとか、夜に笑い声が聞こえるとか。どれも具体性に欠けていて、逆に安心できる類の話だった。

夕方に着いたとき、雪がちらついていた。鳥居は色を失い、石段は歪み、境内は異様なほど静かだった。音が吸われるというより、最初から存在していないような静けさだった。それでも俺たちは笑っていた。ふざけて写真を撮り、適当にテントを張り、周囲を歩き回ったが、何もなかった。

暗くなってから、飯の準備を始めた。カセットコンロで米を炊き、鍋に具材を放り込み、カレーを作った。湯気が立ち、匂いが広がる。その生活感が、妙に場違いに思えた。

完成間近というところで、声がした。

「何してるの?」

上から降ってきたような声だった。驚いて顔を上げると、女が一人立っていた。いつからそこにいたのか分からない。気配も足音もなかった。

年は俺たちと同じくらいに見えた。長い黒髪、白い肌、伏せがちな目。登山装備でもなく、近所の人間にも見えない。場に馴染んでいないのに、違和感だけが薄い。

Yが「キャンプです」と答えた。Aが調子よく相槌を打ち、俺も「カレー作ってます」と続けた。女は小さく笑って、「いい匂い」と言った。

そのまま、近づいてきた。

距離が縮まるにつれて、胸の奥に冷たいものが溜まっていく。怖いというより、どこか判断を誤っている感覚だった。間違った返事をした直後の、取り返しのつかない感じに似ていた。

女が手を伸ばせば届く位置まで来たとき、ようやく理由が分かった。

顔に、影がなかった。

月明かりは十分にあったはずなのに、鼻の下も、目の窪みも、唇の縁も、すべてが同じ明るさだった。立体感がない。照らされているのではなく、最初から平面のようだった。

女は俺の隣に腰を下ろした。近くで見ると、距離感が狂う。目の位置が、さっきより低い気がした。いや、俺が座っているのに、視線が合わない。

首だった。

見下ろされているわけでもない。だが、首と胴のつながりが、頭の中でうまく処理できない。関節の位置が合っていない。人の形をしているのに、人としての寸法から少しだけ外れている。

誰も声を出さなかった。時間の感覚が薄れ、湯気が消え、鍋の音だけがやけに遠く聞こえた。

突然、女が笑った。

短い声だった。だが、それで十分だった。空気が壊れた。何かを続けてはいけないと、全身が理解した。

俺たちは一斉に立ち上がり、荷物もそのままに走った。車に飛び込み、エンジンをかけ、振り返らずに山を下りた。

コンビニの明かりに辿り着いたとき、初めて息ができた気がした。三人ともほとんど喋らなかった。ただ、黙って朝を待った。

翌日、明るいうちに神社へ戻った。置き去りにしたものを回収するためだ。境内は昨日と変わらず、何も起きていないように見えた。

だが、鍋は空だった。皿も、スプーンも、整えられていた。誰かが使った痕跡だけが、妙にきちんと残っていた。

それ以来、俺たちは以前のように笑えなくなった。何かを見たという自覚はない。ただ、見過ごしてきたものを、見過ごせなくなった。

そして一週間後、YとAが言った。

「あそこさ、もう一回行かないか」

理由は聞かなかった。聞く気にもならなかった。
俺は今も、その誘いを断れずにいる。

(了)

[出典:207 :本当にあった怖い名無し:2006/12/10(日) 00:48:31 ID:/WktQKKN0]

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