中編 洒落にならない怖い話

恐怖郵便【ゆっくり朗読】3600

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これは僕が高校の頃の話です。

369 :2005/10/20(木) 14:06:11 ID:tKVQKarJ0

髪被喪(かんひも)」に関わって以来、微妙な霊感に目覚めてしまったわけですが、友人たちからその系統の相談を受けるようになっていました。

まあ、霊感といっても僕の場合はただ見えるだけなので、本当に話を聞くだけなんですが。

それでも中には気のせいだったり、話を聞いてあげるだけで解決したりする場合も多く、意外と役に立っていました。

十月二十五日

その日の夕方、僕は友人の純一に近所の喫茶店に呼び出されました。

純一はサッカー部に所属しており、そのマネージャーの洋子さんが奇妙な事で苦しんでいるとの事でした。

喫茶店に着くと、すでに純一と洋子さんは来ていました。

恥ずかしながら帰宅部で自由を謳歌していた僕は、純一の試合の応援などで何度か洋子さんとは顔を合わせた事がありました。

洋子さんは大きな目をした表情豊かな可愛らしい子で、サッカー部のマスコット的な存在でした。

しかし、久しぶりに会う洋子さんはいつもの明るさは影を潜め、やつれ果てていました。

「すまん、島田」(僕の事です)

僕の顔を見ると、純一が心底困り果てた様子で話しかけてきました。

「どうも、本気でやばいらしいんだ……」

「どうしたの?」

僕は純一に頷くと、洋子さんに話しかけました。

洋子さんは泣きそうな顔でゆっくりと話し始めました。

ここからは分かりやすいように洋子さんから聞いた話を洋子さんの視点でお話しします。

 

時間軸は今から一ヶ月ほど前にさかのぼります。

九月二十三日

洋子さんは自分のアパートの部屋で夜中に目を覚ましました。

洋子さんは高校に通うため、親元から離れて学校近くのアパートで一人暮らしをしています。
アパートといってもそこは女性の一人暮らし。一階には大家さんたちが住み込み、玄関はオートロックという中々のアパートです。

元々は古いアパートなのですが、後からセキュリティ関係を強化してあるようでした。

洋子さんがふと時計を見ると、夜の二時四十五分。

妙な時間に起きてしまったものだと、トイレに行こうとベッドを出ました。
すると、玄関の向こうの廊下で何か音がします。

カッ、コッ、カッ、コッ

良く聞くと、それは足音のようでした。

革靴やハイヒールのような、かかとの硬い靴の音です。

(こんな夜更けに誰か帰ってきたのかしら)

洋子さんは同じ階の誰かが帰ってきたのだと思いました。

眠い目をこすりながら気を取り直してトイレに行こうとすると

カッ、コッ、カッ

足音がちょうど洋子さんの玄関の前あたりで止まりました。

「……?」

洋子さんは不審に思いながら息を潜めていました。

すると、

カコンッ

ポストから何かが投函されました。

このアパートの玄関のドアは下部に穴が開いており、そこに郵便が投函される昔ながらのポストでした。

ポストに投函された「何か」はそのまま玄関の靴の上に落ちていました。

「郵便です……」

ドアの向こうからか細い男性の声が聞こえました。

そしてまた足音をさせて去っていきました。

(なんだ、郵便屋さんか)

洋子さんは一瞬安心しかけたものの、そんなわけがありません。

もう一度時計を確認しました。

二時四十九分。

間違ってもこんな時間に配達をする郵便局員がいるわけがありません。

洋子さんは恐ろしくなりベッドに潜り込むと、震えながら朝になるのを待ちました。

 

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朝、ようやく辺りが明るくなってくると、洋子さんはベッドから出て郵便を確認しに行きました。

見ると、普通の官製はがきです。恐る恐る拾い上げて宛先を確認してみると

『横山秀夫 様』

洋子さんはほっとしました。宛先が自分宛でない事にまずは安心したのです。

そして手紙をひっくり返して文面の方を確認しました。

「……!」

洋子さんは心臓がすくみ上がるのを感じました。

はがきの縁が一センチくらいの幅で黒く縁取られているのです。

そして空白が大部分を占める中、真中に無機質なパソコンの字で1行だけ、

「九月二十七日、十九時三十一分。死亡」

と記されていました。

洋子さんは誰かのたちの悪いいたずらだと思い、そのはがきを捨ててしまいました。

そして洋子さんはそのままはがきの事など忘れて普通に生活を送っていました。

その九月二十七日も、別段何事もなく過ぎていきました。

九月二十八日

その日は休日で、洋子さんは友達とファミレスで昼食を取っていました。

今度の休みの計画や好きな歌手のライブの話など、いつものように話は弾んで楽しいランチのひと時でした。

「……!」

洋子さんは友達と話しながら見るとはなしに見ていたテレビの画面に、信じられないものを見つけました。

「……昨晩午後七時三十分ごろ、○○市に住む『横山秀夫』さん三十八歳が、自宅で死んでいるのが発見されました。死因は……警察では事件と事故の……」

それはまさしくあのはがきに記入されていた名前でした。

洋子さんは恐ろしくなり慌てて家に帰りました。はがきの名前を確認するためです。

家に着くなり洋子さんは玄関の隅に置いてあるごみ袋の中を探しました。

あのはがきが来てからまだごみを出していないのでこの袋の中にあるはずなのに、全く見当たりませんでした。

でも、あれは間違いなくあのはがきに書かれていた名前だったのです。

「う~ん」

話を聞き終わって、僕は思わずうなってしまいました。

「まあ、でもその後はなんともないんでしょ?」

僕が口を開くと、純一が首を振りました。

「それだけじゃないんだって。それからもう四回、同じことがあったって。もう五人死んでるって……」

「でも、それだったら変質者か悪質ないたずらじゃないの? 警察に行った方がいいんじゃない? 下手したら殺人犯からとかって事も」

すると、僕と純一が話すのを黙って聞いていた洋子さんが

「違うの。だってみんな死に方が違うの。調べてみたけど心臓麻痺の人や交通事故の人、病気の人。殺されたとかじゃないしみんな住んでるところがバラバラなの」

僕は途方に暮れてしまいました。今までそんな例は見た事も聞いた事もありません。

「それに、ゆっくりもしてられないんだ」

純一はそう言うと洋子さんに目配せをしました。

洋子さんは少しためらうと、バッグから何かを取り出しました。

「……!」

それを見た瞬間、僕の背中にひやっとした感覚が通りました。

いつもの嫌な感覚です。

今までそこのバッグに入ってたのに何故気が付かなかったのかというほどの嫌な感覚。

それは、縁を黒く塗られたはがきでした。

「十月二十六日、二時分。死亡」

と書かれていました。

「まさか……」

僕が聞くと、洋子さんは頷いてはがきの宛名面を出しました。

『藤田洋子 様』

宛名には洋子さんの名前が書かれていました。

「このはがきだけは消えないの、他のはがきはみんなどこかに行っちゃうのに、このはがきだけはずっとあるの……」

洋子さんは震える声でそう言いました。

「いつ来たの!?」

僕はそのはがきの嫌な感覚に思わず声を荒げてしまいました。

「おとといの、夜」

「なんでもっと早く相談しなかったの!? こいつは本物だよ!」

「島田! 島田! ちょ、声が大きい」

僕の声に周りがこちらに注目しているのが分かりました。

僕は中年のおっさんみたいに机にあった手拭で額を拭き、

(落ち着け、落ち着け)

深呼吸すると、どうすべきか考えました。

僕には霊をどうこうする力なんてありません。

警察に行ってもまともに取り合ってもらえる内容でもないし、警察でどうこうできる内容でもありません。

しかし話の流れから、なにもしなければ洋子さんは今夜二時になにかしらの理由で死んでしまいます。

「ちょっと待ってて」

僕は純一と洋子さんにそう言うと、喫茶店から外に出ました。

こんな時に頼りになるのは一人しかいません。

携帯を取り出すと、僕は爺ちゃんに電話し今までのいきさつを話しました。

「……というわけなんだ、どうしよう爺ちゃん!」

「ふ~む。そりゃ、いかんわなあ」

爺ちゃんはしばらく何かを考えるように黙りこくったあと、

「あれじゃ、前に大畔(おおぐろ)の坊主に書いてもらったお札があるじゃろ。あれをポストとドアのノブ、部屋の窓という窓に貼るんじゃ。たぶんそいつは招かれ神の類じゃ。中から招かんかぎり悪さはできんはずじゃ」

「夜中、部屋に戻らないようにしてもダメ?」

「だめじゃな。外じゃ余計にいかん。四角く封ずる門がないぶん連れていかれ放題じゃ」

僕は純一と洋子さんに先に洋子さんの部屋に戻るように言い、家にお札を取りに戻りました。

大畔の坊さんというのは「かんひも」の時に僕と昌平を祓ってくれた坊さんです。

普段は酒飲みで肉も食べるわ嫁がいてバツイチだわ生臭さがプンプンする坊主ですが、霊験はあらたかなようです。

僕が変なモノを見るようになってから、魔よけのお札を書いて送ってくれていました。

僕はお札を取ると、教えられた洋子さんのアパートへ向かいました。

時刻は夜の八時でした。

部屋に入ると青ざめた純一と洋子さんが待っていました。

僕は爺ちゃんに教えられた通り、部屋中の窓と玄関のドアノブにお札を貼りました。

そして、落ち着かないまま三人で時間を待ちました。

緊張していたせいか時間が経つのはあっという間でした。

時計の針は一時五十五分を指しています。

「……!」

一番最初に異変に気付いたのは洋子さんでした。

「来た!」

震えながら洋子さんは自分のベッドに潜り込みました。

カッ、コッ、カッ、コッ

足音です。

同時に僕の背中に冷たい電流が走りました。ものすごく嫌な感じがします。

カッ、コッ、カッ

足音が部屋の前に止まりました。

そこで僕は重大な事に気が付きました。

なんと間抜けな事でしょう! 一番肝心なポストのフタにお札を貼ってありません!

かといって今から貼る勇気はありません。

僕と純一は何が投函されるのかとポストを凝視していました。

コンコン、コンコン

しかし意表をついて、ポストではなくドアがノックされました。

「藤田さ~ん、郵便で~す」

ドアの向こうから張りの無い無機質な男の声がしました。

「藤田さ~ん、郵便ですよ~」

ノックと声は続きます。僕たちは声を潜めて様子を伺いました。

しばらくノックと声が続いた後、ふっと音が止みました。

そして、

カッ、コッ、カッ、コッ

足音が歩き出しました。

そしてそのまま小さくなり消えていったのです。

ほっとして僕らはその場にへたり込んでしまいました。

布団に潜っていた洋子さんも顔を出し、安堵で泣きじゃくっていました。

「ふう」

僕はため息をつくと、立ち上がりながらなんとはなしに目をドアの方へ向けました。

「……!」

僕は恥ずかしながら腰を抜かしてしまいました。

僕のただならぬ様子に純一と洋子さんもドアの方を向きました。

ドアのポスト。

フタが上がり、ギラギラした二つの目がこちらを睨みつけていました。

「なんだ、いるじゃないかよお」

先程とは打って変わって野太いしわがれ声が部屋の中に向けて放たれました。

ガンガンガン!
ガンガンガン!

激しくドアを殴りつける音。

ガチャガチャ!

ドアノブがもげてしまいそうな勢いで激しく上下しています。

同時に部屋中の窓という窓がガタガタと音を立てて震えだしました。

「キャーーーーーー!」

洋子さんは悲鳴を上げると気を失ってしまいました。

僕と純一は洋子さんの上に覆い被さったまま何もできずにいました。

――どのくらい時間が経ったでしょうか。

気が付くと、あたりは明るくなってきていました。音も止んでいます。

「洋子さん!」

僕と純一は慌てて洋子さんを確認しましたが、洋子さんは気を失っているだけで命に別状はなさそうでした。

あれほどの騒ぎにも関わらず、一階の大家さんも隣の部屋の住人も全く夜中の事は気付いていませんでした。

洋子さんはその後アパートを引き払い、別の場所に引っ越しました。

それからは何もないようです。

 

後日談

なぜ変なモノが洋子さんのところに来たかというと、おそらくこれが原因でないかと思うのですが……

僕は知りませんでしたが、僕らの高校では変な、お呪いが流行っていたようです。

場所は詳しく書けませんが、ある場所のあるポストに、夜中の二時四十九分に憎い相手の名前を書いて縁を黒く塗って投函すると、その相手に不幸が起こるというものです。

洋子さんもそのお呪いをやってしまったようです。相手は洋子さんの好きな先輩の彼女。

僕はあんな屈託のない明るい洋子さんがそんな事をしたのに驚きを隠せませんでした。

よく言われることですが、「一番怖いのは人間の心だな」と。

みなさんもお気をつけください。

人を呪わば穴二つという事です。

(了)

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