よくあるイジメってやつ受けてたんだ。
お陰で俺は先生から忘れ物が多いと怒鳴られたりビンタされたりな。
体育から帰ったら着替えるまではあった宿題のノートがなくなってて、ありのままの説明を五限の古典の先生に言ったら、嘘つき呼ばわりだからたまんないよ。
このまんまじゃもうダメだヤるしかない!って思ったのは、いきなり廊下で飛び膝蹴りくらった時さ。
すげえ痛くてものすごい頭来て、裏拳したら運悪く通りがかった女の子にあたっちゃったのさ。
すぐ先生とんできて事情を説明しようとしたら、俺をいじめてたやつらが俺がいきなり暴れたっていうのね。
一方的に俺が怒られる流れ。
助けを求めて女の子を見たよ。
俺の方を見ずに黙って頷いた。
こいつらヤらないと俺もうやばいって確信した。
決行するまで二ヶ月俺は我慢したよ。
どんどん物がなくなっていった。
教科書もノートもばんばん無くなる。
親に相談もせずに捨ておいた。
教師の側もなんかおかしいと気がついてはいたんだろうな。
俺の忘れ物についてとやかく言う先生は減ってった。
屋上の給水塔近くに捨てられてるのを見つけても回収せずにおいた。
やっと来たと思ったよ?マジで取り返しのつかない罪きたーって。
すげえ嬉しくて被害受けた夜は嬉しさのあまり寝られなかったわ。
俺の財布が体育の授業の最中にロッカーから消えてなくなった。
先生は俺の言うことを信用しなかった。
ひょっとしたらしたくなかったのかもな。
なので俺は即座に公衆電話にはしって警察呼んだ。
午後の授業が全部潰れたよ。
教科書ってほら、高いだろ?そういうものがどんどんなくなって、ついに財布までなくなってるわけだから被害金額大きいんだよね(笑)
最初は警察官もハイハイってかんじで一人しかこなかったのに、いつものイジメグループはめちゃくちゃ挙動不審になってて、それみてからレシーバーで応援頼んで作業着みたいなの着た人たちとかも来た。
その日は俺のロッカーの指紋採取とか中心で終わった。
いじめグループが示し合わせて屋上に向かうの見たときは、笑った笑った。
だって俺が回収してたんだから。
なくなってるのみて嬉しかっただろうなあ。
用務員あたりが掃除したから証拠がなくなってるとでも思ったんじゃないの?
実際その翌日連中結構平静だったし。
ま、その日に俺が回収したものを全部警察に届けたんだけどね。
あとはすごかったわ。
いじめてた連中は借りて返しただけと口裏合わせて知らないの一点張り。
あっちの親もタッグ組んでて数の暴力すぎて笑えた。
こいつは頭おかしいから信用するなっていうのさ。
教頭も俺が嘘つきだって報告が多いってあっちの味方してんの。
俺が警察呼んだ事でめっちゃ機嫌悪くしてたんかもね。
けどさ不思議なもんだよな。
あの時立場悪くなってるのになんだか楽しかったんだよ。
イジメがあった、イジメなんかない、そこの頭のおかしいガキの妄想だ。
こんなやりとりが一ヶ月近く続いた。
ものがなくなったりすることなくなったんで、このあたりでいいかなと思ったり思わなかったり。
これはもう偶然としかいえない。
ある日女子トイレの一つが詰まった。
なんかトイレ付近立ち入り禁止になったんだけど教頭がそこにたってたんだよね。
なんかそういうのって怪しいじゃん?
ひょっとして財布が見つかったりするかもしらないなって思ったのさ。
このままいったら教頭が俺の財布がでてきても消すかもと思ったのさ。
授業サボって署までいってさ。
どうにか親身にしてくれてたお巡りさんにきてもらった。
教頭はお巡りさん追い返そうとしてるんだけど、工事の連中はお巡りさんの言うとおりにしたよ。
俺の財布がマジで糞尿にまみれて出てきた。
ぐっちゃぐちゃのそれの中の定期の名義みて担当のお巡りさんの顔が赤く染まっていったよ。
教頭は真っ青だったかも。
警察を交えた学級集会が何度も開かれて、その途中で一人の女の子が泣き出した。
トイレに詰めたの自分だと自白。
俺が裏拳いれちゃった子だった。
俺が悪くないの知ってて、先生に嘘ついたじゃない?
その件でイジメっ子たちに脅されて、別口のイジメのターゲットに転落してたらしい。
それやめてほしかったらこの財布捨ててこいといわれて、泣く泣くやらされたそうだ。
その子からの聞き取りにはOKな部分だけは立ち会わせてもらった。
あいつらが工作用の軍手で自分の指紋つかないようにして財布渡した事とか聞いたよ。
子供のうちからすっげえ悪党ぶりで笑い出しちゃったよ。
そんな俺を警察官さんがすっげえ悲しそうな目で見てたから、ああ、俺変になってりゅって自覚がその時に芽生えた。
そっから先は俺は特になんも自分からはしてない。
女の子の親がなんか理由があったかしらんが強烈に怒り狂った。
そんで父兄の間からイジメっ子達の陰湿な手口とかが広まった。
二週間くらいすると学校中知らない奴がいない状態。
あっちの親チームが連日学校にのりこんできて、教員室で怒鳴り散らす声が珍しくなくて、とうとう学校も悲鳴あげて校長が親乗り込んできたら警察呼ぶとこまでいった。
警察の方でも教科書から大量の連中の指紋が出たらしいんだが、この情報も学校中に広まった噂の後を追った。
俺の覚えてる限りどの先生もあいつらを点呼の時以外名前で呼ばなかった。
授業で指名もしないしわからないと手を上げても無視してた。
八人組だったんだけど、そんなのが続いていくうちに二人が転校が決まって、そのついでに全部自白してうちに詫びに来た。
きもちよかったよ。
両親ともども土下座させたんだけどさ。
最初にまずガキのほうの頭ふんずけてさ。
その後に両親の頭もふんずけたんだよ。
許してくださいの連呼をそれでも続けるのには参ったね。
更生させるからどうか穏便に話をおさめてくださいって言い続けるんだわ。
何それってかんじ(笑)
それきいてるうちにイジメっ子がぼろぼろ泣きだすの。
親ふまれたほうがつらそうだからさ。
そいつの父親の頭に尻で腰掛けたら、うちの親父にもう十分だろうってはりとばされたけどな。
その時はなんでか理由がわからなかった。
そのあと残る六人の中から三人が自白&詫び。
最後まで俺と女の子を嘘つきだとしてた連中も、三人がもってた女の子いじめの証拠ってやつでちゅどーん。
全部終わった後、被害者合同で警察から説明されてる時、自分のイジメの内容で事実認定がほぼ警察で固まったものきいてたら、なんかもうおっかしくってげらげら笑ってた。
親がめっちゃ引いちゃってたの。
でも婦警さんが泣きそうな顔でやってきてな。
ぎゅっと抱きしめられたんよ。
なんか、ほっとしたんかな。
イジメの最中は涙もでなかったのにめっちゃくちゃ泣いた。
鼻水もずるずる制服につけるくらいないたあとで、すんげえやわらかかったからちょっと下心でひっついてた。
……バレルのな(笑)
婦警さんがおどけてきゃーせくはらよーっていうから、やっとはなれて本心から笑えた気がする。
八人組の末路だけど、最後までやってないと白切り通してた連中は聞いた限りじゃ全員家族揃って転居までおいこまれたらしい。
小さな町だったから外道は許さねえと村八分状態だったみたいだ。
大人になって思う。
あと一歩でもどちらかが間違えたら、俺とんでもないことしでかしてただろうな。
少なくともあの一件以来、俺は俺が辛い目にあうとへらへら笑うようになった……
(了)