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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

あの犬が知っていた場所 nc+

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犬を散歩に連れ出したのは、ほんの気まぐれだった。

高校生の頃、実家では雑種の犬を一匹飼っていた。弟がどこかから連れてきた犬で、血統も年齢もわからない。二年も一緒に暮らせば、もう拾い犬という感じはなく、家族の一員になっていた。世話は主に弟だったが、時間があるときには、俺が散歩に連れていくこともあった。

その日は休日の朝で、目が覚めたのはいつもよりずっと早かった。特にやることもなく、家の中は静まり返っていた。ふと、犬を散歩に連れていこうと思った。正直に言えば、当時少し気になっていた女の子がいて、その子の家の近くまで歩いてみようという下心もあった。距離にして二キロほど。いつものコースとは逆方向だった。

犬は最初から落ち着かなかった。何度も足を止め、振り返り、耳を立てて周囲をうかがう。知らない道だからだろうと気にも留めず、リードを引いて先へ進んだ。だが、ある場所に差し掛かったとき、犬は完全に動かなくなった。地面に踏ん張るようにして、じっと前方を見つめている。

しばらく様子を見ていると、犬は自分から歩き出した。向かった先は、取り壊し途中の古い家だった。外壁は半分剥がされ、瓦礫が敷地に積み上げられている。犬は宙に向かって吠え始めた。何もいないはずの空間に向かって、執拗に、楽しそうに。

おかしいとは思ったが、不思議と怖さはなかった。犬が鼻を地面につけ、クンクンと嗅ぎながら瓦礫の中へ入っていく。引き返そうとしたが、リードが引っ張られ、そのまま敷地内に足を踏み入れてしまった。半壊した家の中は、思ったよりも静かだった。

犬がある一点で立ち止まり、同じ場所を嗅ぎ続けた。瓦礫の隙間を覗き込むと、そこに小さな箱があった。クッキーの缶のような形で、土埃をかぶっている。人の気配はない。俺は周囲を確認し、箱を取り出した。

蓋を開けた瞬間、息が詰まった。

中には、歯がぎっしり詰まっていた。最初は白い石だと思った。だが指でつまみ、光にかざして、すぐにそれが人間の歯だとわかった。大人の歯もあれば、明らかに子どものものもある。何百本もあるはずなのに、血や肉の痕はなく、乾いていた。

反射的に蓋を閉め、元の場所に戻した。犬を見ると、しっぽを振りながら、やけに嬉しそうに吠えていた。まるで褒められたかのような様子だった。

それ以降、犬の様子が変わった。

散歩のたびに、同じ方向へ行こうとする。別の道でも、突然立ち止まり、あの時と同じように宙に向かって吠えることがあった。家に戻っても、玄関で振り返り、外を気にする仕草を見せる。まるで、何かを待っているようだった。

数週間後、その家は完全に取り壊され、更地になった。何もないはずの場所を通るとき、犬は必ず立ち止まり、鼻を地面につけた。リードを引いても動かない。吠えもしない。ただ、そこに何かがあると確信しているようだった。

俺は次第に、その道を避けるようになった。

それから一年ほどして、犬は急に弱り、死んだ。原因はわからない。老衰と言うには早すぎた。最後の日、犬は玄関から外へ出たがり、あの方向を見つめていた。俺はリードを手に取ったが、結局、散歩には連れていかなかった。

今でも、朝早く目が覚めると、ふとあの道を思い出す。更地になったはずの場所を通る夢を見る。夢の中で、犬はいない。それなのに、リードの先が重く、何かが引っ張っている感触だけが残る。

あの箱を見つけたのが、犬だったのか、俺だったのか、もうわからない。

[出典:907 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/12/01 10:15]

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