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視られる森と、帰らない視線 r+3,779

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俺がまだ大学生だったころの話だ。

真っ赤な制服を着たキャンペーンレディが、紙袋にモデムを入れて配ってた時代。フレッツADSLって知ってる? まあ、そういう時代だ。

俺はWEBチャットに入り浸ってて、そこにDさんって呼ばれてる男がいた。自称・霊能力者。長老、あるいはBOT扱い。平日だろうが休日だろうが、常にチャットルームにいたからだ。

Dさんは生活のすべてをネットに移した人だった。外に出ると、見えるらしい。あらゆるものが、って意味で。

バイトもできず、年齢的に大学にも居場所はない。親とも疎遠。履歴書は真っ白。つまりは、孤独だった。パソコンの前にしか居場所がなかった。

そんなDさんとダベってるうちに、「本当は言っちゃいけないんだけどさぁ」と前置きして始まった、あの話。

Dさんのもとに舞い込んだ依頼。青木ヶ原樹海でおかしくなった大学生たちの除霊だという。

話はこうだ。

ある大学のゼミ生、男3人女2人のグループがいた。軽いノリでキャンプを計画。場所は、よりによって、青木ヶ原。理由は簡単。怖いもの見たさと、霊感を自称する女子の提案。

もうひとりの女の子は反対した。「趣味が悪い」って。でも多数決で押し切られた。

青木ヶ原に到着したのは昼過ぎ。森は意外にも明るくて、木漏れ日が地面に絨毯を敷いてるみたいだった。緑の香りが鼻に心地よくて、誰かが言った。

「全然怖くねぇ。期待外れだな」

そこから、調子に乗ったのがまずかった。

みんなで奥へ奥へと足を踏み入れた。歌ったり笑ったりしながら。それでも、心のどこかで「もう帰りたい」と思ってた。でも誰も言い出せなかった。変な見栄で、バカみたいに深くまで進んだ。

太陽が傾き、森は色を変える。影が長くなり、冷たさが増してくる。

「引き返そうか」と誰かが言った。

「無理」って言ったのは、霊感を自称する女子だった。

「見られてるから」

周囲に目をやると、ただ木と影。けど、どこからともなく気配がした。前からも後ろからも。右も左も、上からも。森が生きてて、息をしているみたいだった。

怒鳴り声が響く。「なにジロジロ見てんだよ、オラァ!」って。空元気。涙ぐみながら「どうしよう……?」って呟く女子もいた。

「帰る!!」って叫びながら男が走り出した。けど転んだ。

足が何かに引っかかったと、みんなが感じた。

そこから先の記憶はバラバラだという。彼ら5人、それぞれの証言が食い違う。

一致しているのは、たった三つ。

ひとつ、昼に入った樹海から出られたのは深夜だったこと。

ふたつ、ひとりの男がずっと叫び続けていたこと。

みっつ、足元を誰かに掴まれ、まともに歩けなかったこと。

無事帰ったあとも地獄だった。ラップ音、金縛り、誰かの気配。夜中に目を覚ますと、黒い目が何対も、自分の顔を覗き込んでいたとか。もちろん全員が同じ体験をしていた。

お寺に駆け込んでも効果はなく、次第に噂が回って、Dさんのところへ依頼が来たわけだ。

Dさんは彼らの話を聞きながら、うん、うん、と頷いていた。

「霊はついてるよ」とDさん。でも、悪意のあるやつじゃないらしい。幽霊にとっちゃ、人間なんてただのテレビみたいなもんだと。

ただ、ひとりだけ本当に危なかった。

それは、最初に反対していた女子。彼女には、男の霊が何体もついていたらしい。

「なんで?」って俺が聞くと、Dさんは苦笑して「顔が可愛くて、性格が優しそうだったからじゃね?」と答えた。

霊にも性癖があるんだな……と呆れた。

Dさんの除霊方法は、神頼みでも呪文でもない。新宿、渋谷、原宿、銀座、そして最後はディズニーランド。とにかく東京中を歩き回らせて、霊を疲れさせ、迷子にさせるという方法。

「要は、お化けの迷子作戦だよ」と笑ってた。

確かに、ディズニーランドの夜のパレードを見てる頃には、ついてきた霊のほとんどが消えていたらしい。色と音と人混みのカオスに巻き込まれて、帰る道を忘れるのだとか。

統率のない遠足。そんな感じ。

終わったあと、Dさんは「霊の話は今後しないこと。三か月は新宿より東に行かないこと」と、5人に約束させた。

そして、5人は霊現象から解放された。

俺は最後に訊いた。「じゃあ、なんでこんなことになったの?」

Dさんは静かに答えた。

「自分たちで話しすぎたんだよ。幽霊の目の前で、幽霊の話を。そりゃ調子乗るって」

……そりゃそうだ。

ちなみにこの件で、Dさんは百万円以上もらったそうだ。「税務署が怖い」って言ってたけど。

最後に、俺が一つだけ不思議だったのは……その5人の大学生、除霊のあと、なぜか誰一人、チャットには顔を出さなかったってこと。

ほんの一度も。

まるで、誰かにネットの向こうから見られるのが、怖くなったみたいに。

……今も、どこかで視線を感じる気がする。

俺の背中にも、何かがくっついてたりしてな。

[出典:1493 :2019/07/24(水) 00:40:42.39 ID:36iZg3Ca0.net]

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