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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

夕焼けの中学校 n+

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俺が通っていた中学校は、今はもう存在しない。

取り壊されて更地になり、今では地元の老人たちが犬を散歩させたり、夕方にゲートボールをしたりしているだけの場所だ。
けれど俺の記憶の中では、あの学校は今も、薄暗い夕焼けの中に沈んだまま残っている。

中学二年の途中から、俺は学校へ行けなくなった。
理由をひとことで言えば「雰囲気が気持ち悪い」だったのだが、それを誰に伝えても理解されなかった。
ただの怠け、ただの思春期の不安、そう言われるのが関の山だった。
医者にだって通った。精神科や内科を何軒か回ったけれど、どこも「異常なし」と診断された。
それでも俺の体は、どうしてもあの校舎に近づけなかった。

何が気持ち悪かったのか、言葉にしようとすると難しい。
ただ、朝でも昼でも、校舎の中はいつも「夕暮れ」だった。
窓の外には確かに朝日が差しているのに、教室の空気は茜色に染まっている。
放課後、友達と他愛のない話をしていても、ふと気づけばシンと静まり返り、視線を上げた時には誰もいない。
消えたのではなく、最初から存在しなかったような空虚さが残る。
そんな出来事が何度も続き、俺の心は徐々に摩耗していった。

「病気かもしれない」
そう思い、医者に助けを求めたのに何も見つからなかった。
逆に「問題ない」と言われれば言われるほど、俺の不安は膨れ上がった。
そしてついに、仮病を使って自分の部屋に閉じこもるようになった。
布団に潜り、時間をやり過ごす毎日。
窓の外では蝉が鳴き、近所の子供の声が響いていたが、俺にとってはどこか別の世界の音のように思えた。

そんな俺が部屋に閉じこもっている間に、一人の後輩が命を絶った。
明るくて人気のあるやつだった。冗談ばかり言って、周りを笑わせるムードメーカーだった。
いじめもなく、家族も仲が良かったと聞いている。
誰も理由を説明できなかった。
ただ、首を吊ったという事実だけが残った。

その知らせを聞いたとき、体の奥底が冷たくなった。
そして不思議なことに、それ以降、学校に漂っていたあの「夕暮れの気配」がすっかり消えたのだ。
どす黒くまとわりついていた空気が、嘘のように軽くなった。
まるで、誰かが俺の代わりにその夕暮れを連れて行ったように。

その後、俺は学校に戻った。
遅れを取り戻すように必死に勉強し、なんとか大学に進学できた。
就職も決まり、今こうして振り返れば「ただの思春期の一時的な心の病」と言われても仕方ないかもしれない。
だが、ひとつだけどうしても説明できないことがある。

それは、俺が不登校だった時期に、学校の教師たちが生徒に伝えていた説明だ。
久しぶりに地元の友達と再会したとき、彼らは笑いながらこう言った。
「先生がさ、お前のこと『遠い世界に行きました』って言ってたんだぞ」
仮病で休んでいる生徒に、そんな説明をするだろうか。
ただの気遣い? 冗談? でも、それを中学の教師が、クラス全員に対して言うものだろうか。
「遠い世界」――その言葉を思い出すたびに、背筋が冷たくなる。

俺はあの夕暮れの中で、本当に「遠い世界」に足を踏み入れていたのかもしれない。
そして、帰れなかったのは俺ではなく、あの後輩だったのかもしれない。

校舎はもう消えた。
けれど、夢の中でときどきあの学校に立たされる。
廊下の奥から、誰かの笑い声が響く。
振り返れば、窓の外はまた夕焼けで満ちている。
そして決まって最後に、あの後輩の声が混じるのだ。
「先輩、もう交代でいいですよ」
その言葉を聞いた瞬間に目が覚める。心臓は早鐘のように打ち、汗で全身が濡れている。
夢でよかったと胸を撫でおろすが、どこかで理解している。
いつか交代の時が、本当に来るのだと。

[出典:193 :本当にあった怖い名無し:05/02/03 03:50:35 ID:UlPW/a/l0]

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