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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

遠い世界に行った生徒 nw+400-0201

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俺が通っていた中学校は、もう存在しない。

校舎は数年前に取り壊され、今は更地になっている。夕方になると、近所の老人が犬を散歩させ、ゲートボールの音が乾いた地面に響く。そこがかつて学校だったと知っている者は、もうあまり多くない。

だが俺の記憶の中では、あの学校は今も残っている。
いつも薄暗い夕焼けの中に沈んだまま、時間だけが止まっている。

中学二年の途中から、俺は学校へ行けなくなった。
理由を問われるたび、うまく答えられなかった。「雰囲気が気持ち悪い」としか言えなかったからだ。言葉にした瞬間、それは途端に軽く、嘘めいたものになる。実際、誰も理解しなかった。怠けだの、反抗期だの、心の問題だのと片付けられた。

医者にも通った。精神科、内科、紹介された病院をいくつも回った。
検査の結果は、どこも同じだった。異常なし。問題なし。
その言葉を聞くたび、俺の中では別の不安が大きくなっていった。説明できないものが、確かにそこにあるのに、誰にも触れられない。その感覚だけが残った。

何がそんなにおかしかったのか。
今でも、はっきりとは言えない。

ただ、校舎の中はいつも夕暮れだった。
朝でも昼でも、外は明るい。窓からは青白い光が差し込み、校庭では生徒が走り回っている。それなのに、教室に入った瞬間、空気だけが茜色に沈む。時間がずれているような感覚。黒板の前に立つ教師の声も、どこか遠く、膜を一枚隔てた向こう側から聞こえてくる。

放課後、友達と話しているときも同じだった。
笑い声が続いているはずなのに、ふと視線を上げると、教室は静まり返っている。誰もいない。帰った気配も、足音もない。ただ、最初から存在しなかったような空虚さだけが残る。そういうことが、一度ではなく、何度も起きた。

俺の中で何かが擦り切れていった。
やがて、校舎に近づくだけで体が動かなくなった。息が浅くなり、足がすくむ。理由は分からない。ただ、入ってはいけないという感覚だけがあった。

俺は学校を休むようになった。
最初は仮病だった。だが次第に、本当に外に出られなくなった。布団に潜り、時間が過ぎるのを待つ毎日。窓の外では蝉が鳴き、近所の子供の声が響いていた。それらは現実の音のはずなのに、俺にはどこか別の世界の出来事のように聞こえた。

その頃のことだ。
学校で、一人の後輩が死んだ。

詳しい話は、誰も語らなかった。
理由も、きっかけも、結局分からないままだった。ただ、ある朝、いなくなり、そのまま戻ってこなかったという事実だけが残った。

その知らせを聞いたとき、俺の体の奥がひどく冷えた。
そして奇妙なことに、それ以降、学校にまとわりついていたあの夕暮れの気配が、すっと消えた。

あれほど重く、どす黒く沈んでいた空気が、嘘のように軽くなった。
校舎は校舎に戻り、時間は正しく流れ始めた。誰もそれを不思議がらなかった。最初から、何もなかったかのように。

俺は、学校に戻った。
遅れを取り戻すように勉強し、周囲に合わせ、何事もなかった顔をした。そのまま進学し、就職もした。今の生活は、特に不自由はない。あの頃のことを「一時的な心の不調」だと説明することもできる。

それでも、ひとつだけ、どうしても説明できないことがある。

俺が学校を休んでいた時期、教師たちがクラスでしていた説明だ。
久しぶりに地元の友人と酒を飲んだとき、冗談めかしてこう言われた。

「先生さ、お前のこと『遠い世界に行きました』って言ってたぞ」

笑い話として語られたその言葉が、俺の中で引っかかった。
仮病で休んでいる生徒に、そんな説明をするだろうか。しかも訂正もされず、誰も疑問に思わなかったらしい。その表現は、まるで最初から用意されていた言葉のようだった。

遠い世界。
それは、どこだったのか。

校舎はもう消えた。
だが、夢の中で、俺は今もあの学校に立たされる。

廊下は長く、奥が見えない。
窓の外は夕焼けで満ちている。時間はやはり、あの色の中で止まっている。どこかから、誰かの笑い声が響く。懐かしいようで、思い出せない声だ。

そして最後に、必ず聞こえる。
後ろから、静かに。

「先輩、もう交代でいいですよ」

振り返る前に、目が覚める。
心臓が激しく打ち、全身が汗で濡れている。夢でよかったと息をつく。だが、どこかで分かっている。

あの場所には、役割がある。
誰かがそこに立ち続けなければならない。

俺は、ただ順番を待っているだけなのだ。

[出典:193 :本当にあった怖い名無し:05/02/03 03:50:35 ID:UlPW/a/l0]

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