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【泣ける!!感動名作心霊物語】ショートケーキの約束 r+7,466

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俺の妹は、俺が十七の時に死んだ。

今からもう八年も前のことになる。

まだ六歳だった。
末っ子で、上も下も男ばっかりの兄弟の中に生まれた唯一の女の子。俺も兄貴も弟も、全員が可愛がった。
ちっちゃくて病弱で、いつも「兄ちゃん、兄ちゃん」って泣きながらついてくる。
街にあるケーキ屋のショートケーキが大好物で、俺はバイト代で週に一度は買ってやっていた。食べているときの「おいしいー!」って笑顔が、たまらなく愛しかった。

ある日、学校にいると、紫乃が発作で倒れたと連絡が来た。
俺はバイクを飛ばし、中学校にいた弟を拾って病院へ駆け込んだ。
病室には、機械につながれて眠る妹。母さんもばあちゃんも泣き崩れて、亡くなったじいちゃんに向かって必死に祈っていた。
「紫乃を連れてかんといて……お願いや」
じいちゃんは、紫乃が生まれる直前に亡くなっていた。ずっと「抱っこしたい」と言いながら果たせなかった人だった。

俺が妹の名を叫ぶと、奇跡みたいに目を開いた。
「にーやん……紫乃、ショートケーキ食べたい」
その一言で、俺はケーキ屋に走り、あるだけ全部を買い込んできた。
病室のドアを開けると、妹が微笑んだ。
一口食べさせると「おいしい……ありがと、にいや」って笑って、そのまま静かに目を閉じた。
ピーという機械音が響き渡り、二度と戻ってはこなかった。

棺には、母さんが作った紺色のフリルのドレス。
ばあちゃんのお手玉。お気に入りのテディベア。
妹の小さな世界が、ぜんぶ詰め込まれた。

俺は一年ほど、まともに立ち直れなかった。
壁には、妹がくれた兄弟の絵が掛かっていた。
拙い線で描かれた俺と兄貴たち。その間で、カチューシャをつけた妹が笑っていた。
その絵を見るたびに、喉の奥が焼けるように痛んだ。

けど、家では不思議なことが起こるようになった。
ある晩、ばあちゃんの部屋から誰かと話す声が聞こえた。
覗くと、ばあちゃんは嬉しそうに相槌を打って、テーブルにお茶と妹の好きなサイダーを置いていた。
「じいちゃんと紫乃が来とる。挨拶せぇ」
ばあちゃんは平然と言った。
俺も湯呑を差し出されて、半信半疑のまま頭を下げた。

それから台所では、焼いておいたホットケーキの半分が消えることがあった。小さな歯形が残っていて、どう見ても妹のものだった。
声もよく聞こえた。「にーやん」と呼ぶ、あの声を。
父さんは「この家が好きで出ていかないんだろう」と笑っていた。

やがて俺は就職で東京に出た。
好きな人もできて、告白するか迷っていたある夜、夢を見た。
妹とよく行った公園のベンチに並んで座っていた。
紺色のドレスを着た妹が、向かいのベンチで本を読む彼女を指さして言った。
「にーやんは、あの人すきなの?」
俺がうなずくと、「大丈夫、紫乃がなんとかしたげる」って、笑った。

数日後、本当に彼女の方から告白されて、俺たちは付き合うことになった。
やがて結婚して、実家に帰ったとき、妻が言った。
「告白する前、不思議な子に会ったの。紺色のドレスを着た小さな女の子。『おねーさんは、にーやんのこと好きですか』って……」
妻は最初、誰かのいたずらだと思ったらしい。けど、消えた後、俺の顔が浮かんで仕方なかった、と。
実家の茶の間に飾られた妹の写真を見た瞬間、妻は凍りついたように叫んだ。
「この子……!」

そして数年後、妻が妊娠した。
だが容態が思わしくなくて、俺は病院に泊まり込んで看病した。
ある夜、眠っているとまたあの公園にいた。
隣には大きなお腹を抱えた妻。その向かいに妹。
「にーや、おとーさんになるの」
「そうだね」
妹は微笑み、「紫乃、にーやの子供、守る」と言った。
妻が「お願いね」と言うと、妹の体が光って、そのまま妻の腹の中へ溶けるように消えていった。

朝目覚めて妻に話すと、同じ夢を見ていたという。
その後、無事に生まれたのは元気な女の子だった。
三歳になった今、しぐさも笑い方も喋り方も、幼い妹と瓜二つだ。
ショートケーキを見つけると、目を輝かせて「おいしい!」と笑う。

あれから俺は、麻雀もパチンコもやめて、まっすぐ家に帰るようになった。
ばあちゃんは孫娘を抱いて大興奮し、父さんは初孫のために最新のカメラを買った。
母さんは抱きしめて離さない。
実家は、笑い声でいっぱいになった。

きっと妹は、この家にずっといるんだろう。
形を変え、俺の娘として。
あの時、ショートケーキを最後に頬張って逝った妹は、今また「おいしい」と言いながら笑っている。

俺は、その笑顔を見るたび、胸が震える。
もう二度と失いたくないと、心の底から思う。

[出典:811 :本当にあった怖い名無し :2005/06/21(火) 04:50:02 ID:IRe7pysPO]

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