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短編 後味の悪い話

白血病の幼い息子【ゆっくり朗読】4200

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1990年代最後の年に、飲み屋で知り合った女の子が語ってくれた話。

このサイトで『残念ですが……』って話を読んで思い出した事がある。

けっこう長くなったんで、分割して書き込むことにする。

彼女の姉には4才になる息子がいたんだけど、ある時、白血病を患って入院してしまった。

小児白血病ってのは進行が速い。

昔に比べれば死亡率は飛躍的に下がったとは言え、まだまだ恐ろしい病気なんだって。

だから姉と夫は、祈るような気持ちで毎日病院へ通っていたそうだ。

そこへ現れたのが彼女の叔母さんって人。

この人が霊とか呪いとかを信じているうえにお節介な人で、自称霊能者って人を病院に連れてきて、病室で霊視っぽい事をさせた。

その霊能者曰く、

「この子には悪霊が憑いている。今すぐ除霊しないと連れて行かれる」

両親は半信半疑ながらも、藁にもすがる思いで除霊を依頼した。

ただ、病院から息子を連れ出すわけにはいかなかったので、家で除霊の儀式を行った。

しかし、子供の病状は一向に良くならない。

するとまた叔母さんがやって来て、その霊能者の言葉を伝えた。

「悪霊の力は思いのほか強い。一刻も早く連れ出して除霊しないと、子供は地獄に堕ちる」

その直後、子供の容態が急変した。

まだまだ甘えん坊だった息子は、母親の手を握りしめ

「ママ怖い……ママ怖い……」

と言いながら息を引き取ったそうだ。

このことが原因で両親は離婚してしまった。

母親(語り手の姉)は下の娘を引き取って、一旦実家に戻った。

しかし、彼女の心には『子供は地獄に堕ちる』って言葉が重くのしかかっていた。

地獄で苦しむ我が子の姿を想像すると、気が狂いそうになる。

それこそ地獄のような日々……

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そんなある日、荷物を整理していたら、死んだ息子が使っていた落書き帳が出てきた。

子供が描き殴った乱雑な絵ばかりだったが、ページをめくるたびに涙がこぼれたという。

と、彼女の目が最後のページに吸い寄せられた。

病院から落書き帳を持って帰った時、そこには何も書かれていなかったと記憶している。

だが、今見るとそのページには文字が書かれている。

鉛筆書きの拙い字でたった一言。

『だいじょうぶ』

それを見た瞬間、彼女は、これは息子があの世から送ってくれたメッセージだと思ったそうだ。

「それでお姉ちゃん、一念奮起して大型免許を取って運送会社に入ったんだ。今は実家を出て女手一つで娘を養っている。つくづく母親って強いなぁって思うよ……」

それっきり、語り手の女の子はテーブルの上に俯いたまま黙ってしまった。

冷静に考えれば、彼女が最後のページを見逃しただけなのだろう。俺はそう思う。

でも、目の前で半泣きになっている女の子にはあえて言わなかった。それ言っちゃあ野暮だろうって思ったから。

だって、子供を失った親というものは、僅かな希望にでもすがりたくなるもんじゃないか?

自分は霊なんて信じていないけれど、そんな俺だって妻子を失った時は、せめてあの世で幸せに暮らしていて欲しいって、しばらくはそればかり願ってた。

それを糧に今日を生き延びる事ができるなら、死後の世界を信じても良いって思ったんだ。

だから、そんな希望をうち砕くような自称霊能者の無神経な言葉には本当に腹が立った。

ぶん殴ってやりたい。今でもそう思う。

で、最後に頭に戻るけど、『残念ですが……』って話……コメント読んだら「後味悪い」って感想が多かったけど、ホントそう思うよ。

少なくとも、俺にとってはマジで洒落にならないくらい恐い話だった。

(了)

 

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