ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

死者の愛 nw+

更新日:

Sponsord Link

祖母が亡くなったのは、十年以上前のことだ。

私は大学の課題に追われ、コンビニでカップ麺を選んでいた。帰り道、母からの電話に出た瞬間、言葉より先に異様な静けさが耳に残った。声が震えていたのではない。向こう側が、やけに遠かった。

葬儀が終わって三日目の夜、母は私に言った。

「おばあちゃん、あなたの本当の祖母じゃないの」

育ててくれた祖母と、母に血のつながりはなかった。母を産んだ女性は、若くして未婚のまま出産し、三歳になるころ病に倒れ、遠縁の夫婦に子を預けた。その夫婦が、私の知る祖父母だ。

「一時的に」のはずだった預かりは、そのままになった。実母は亡くなり、葬儀もひっそりと終わったという。

祖母は母を手放さなかった。親族の反対を押し切り、自分の娘として育てた。

そこまでは、よくある話に聞こえる。

母が少し間を置いて、続けた。

「でもね、あの人、迎えに来たことがあるんだって」

まだ母が幼く、祖母と同じ布団で眠っていた夜のことだという。祖母がふと目を開けると、布団の縁に女が座っていた。

白い、としか言いようのない輪郭。顔は曖昧で、目だけがこちらを見ている。

祖母はすぐに悟ったらしい。この子の母親だ、と。

声は出なかった。ただ心の中で繰り返したという。

「この子は、私が育てます。私たちが、ちゃんと育てます」

女は何も言わず、立ち上がり、音もなく消えた。

母はその話を中学生のときに聞かされた。少し荒れていた時期だったらしい。

「ぐれたら連れて行かれるって思って、怖かった」

母はそう言って笑ったが、その目は笑っていなかった。

私はその話を、美談として受け取ることができなかった。迎えに来た、という言葉だけが妙に残った。

祖母の遺品を整理していたとき、小さな木箱の底から紙切れが一枚出てきた。黄ばんだ和紙に、震える文字でこう書かれていた。

――この子を、どうかよろしくお願いします。

筆跡は知らないものだった。少なくとも、祖母の字ではない。母の字にも似ていない。

けれど、奇妙なことに、その紙の裏にうっすらと別の筆圧が残っていた。透かして見ると、かすれた跡がある。

――返してください。

光の加減でしか読めない、押しつけたような痕跡。墨ではなく、紙そのものが凹んでいる。

祖母は、その紙をなぜ持っていたのか。誰から渡されたのか。どうして裏の跡に気づかなかったのか。

祖父は認知症が進み、何も覚えていない。母の実母の墓も所在不明だ。

祖母の死後、しばらくしてから、母が言い出した。

「夜になると、誰かが座ってる気がするの」

私は反射的に、あの話を思い出した。

「白い人?」

そう聞くと、母は首を振った。

「白くはないの。黒い。輪郭が、影みたいに濃い」

祖母が見たという女と、色が逆だ。

母は続けた。

「顔は見えない。でもね、手だけははっきりしてるの。皺があって、小さいの」

それは、祖母の手だ。

その夜、私は母の部屋の前に立った。扉の下から、明かりは漏れていない。静まり返っている。

ふと、気づいた。

廊下の壁に、二つ影がある。

一つは、私のもの。

もう一つは、扉の前に立つ誰かのものだ。

横向きで、腰をかがめている。まるで、布団の縁に腰かけるような姿勢で。

振り向いても、廊下には私しかいない。

影だけが、扉に寄り添っている。

その影の手が、ゆっくりと持ち上がった。

私は、扉を開けられない。

あのとき祖母が訴えた相手は、本当に「迎えに来た母親」だったのか。

それとも。

今夜も、母の部屋の向こうで、何かが座っている。

そして、廊下の影は、少しずつ私の足元に近づいている。

私は、どちらの側に立っているのか、もうわからない。

[出典:348 :可愛い奥様:2007/11/05(月) 22:41:02 ID:pRuKNY4d0]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.