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短編 r+ 洒落にならない怖い話

足りない塊 rw+5,344-0120

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これは、友人の友人から聞いた話だ。

二年前の夏。高校三年生だった彼らは、受験勉強に追われる毎日に疲れ果て、最後の夏休みだけは現実から逃げようと、男五人で小旅行を計画した。海や有名な観光地はどこも満室で、ようやく見つかったのが、近畿地方の山中にある古い貸し別荘だった。周囲に民家はなく、多少騒いでも問題にならないという条件だけが、彼らの背中を押した。

現地に着いたのは昼過ぎだった。管理人だという老人は、彼らを見るなり困ったように眉をひそめ、「今日はまだ掃除が終わっていない」と告げた。長い間使われていなかったらしく、湿気と獣の臭いが抜けず、時間がかかっているのだという。代わりに、と言って差し出されたのが、なぜか県外にある水族館の割引券だった。「時間を潰してきてほしい」。そう言われ、違和感を覚えつつも、他に行く当てもなく、彼らは車を走らせた。

夕方、改めて案内された別荘は、森の奥に沈むように建っていた。洋風の古い建物で、壁は苔に覆われ、窓ガラスはどこか歪んで見えた。冗談半分に「廃墟じゃないか」と笑う彼らに、老人は笑わなかった。ただ一言、「夜は外に出ないでくれ。熊が出る」と、必要以上に念を押した。

一日目の夜は、何事もなく過ぎた。二日目の夜、酒も入って騒いでいた頃、誰かが言った。「今、太鼓の音しなかったか」。全員が耳を澄ましたが、風が木を揺らす音しか聞こえない。肝試しだと笑い、彼らは懐中電灯を持って森へ入った。獣道のような細い道を進み、特に何も見つけられないまま引き返した。

別荘に戻ると、玄関に男が立っていた。

背中を向け、ドアノブを握ったまま動かない。知らない顔だった。声をかけても返事はなく、近づいて肩に触れた瞬間、その腕が不自然に曲がった。手首から先が、関節の位置を無視して、ぐにゃりと垂れ下がった。骨がないような動きだった。悲鳴を上げる間もなく、その男はふらふらと森の中へ歩き去った。

逃げ込むように玄関を閉めた彼らは、しばらく誰も口を開けなかった。静まり返った室内で、ようやく呼吸が整い始めた頃、再び音がした。……ドン。……ドン。太鼓の音だった。今度は、はっきりと聞こえる。床下からではない。森の奥から、こちらへ向かってくる音だ。

窓の外を見ると、闇の中で何かが動いていた。最初は影にしか見えなかったそれは、徐々に輪郭を持ち始める。転がっている。いや、転がっているように見えるだけで、実際には複数の手足が絡み合い、無理やり前へ進んでいるようだった。

近づくにつれ、それが「人の集まり」であることが分かった。老若男女が、古びた衣装のまま絡みつき、顔や腕が塊のあちこちから突き出している。誰も目を合わせていない。ただ虚空を見つめ、口を開けたまま、同じ方向へ動いてくる。

逃げようとしても体が動かなかった。音だけが近づき、やがて玄関灯に照らされ、塊の表面に浮かぶ無数の顔がはっきりと見えた。その瞬間、ドアを叩く音が響いた。叩いているのは誰なのか分からない。ただ、外に「入ろうとしている」という意思だけが伝わってきた。

管理人に電話をかけると、数コールの後、低い声が出た。「……まだ、出るのか」。それだけだった。通話は切れた。震える手で、部屋にあった神棚のお札を剥がし、ドアや窓に貼り付けると、叩く音は次第に弱まり、やがて止んだ。

朝になると、管理人と神主が現れた。二人は何も説明せず、彼らを車に乗せ、山を下ろした。ただ、「ここで見たことは忘れてほしい」とだけ言った。

数ヶ月後、その別荘は取り壊された。理由は老朽化だという。

だが、彼らの中の一人は今でも言う。
あの夜、太鼓の音に混じって、確かに聞こえていたと。
「まだ足りない」。
そう囁く、複数の声を。

(了)

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