これは、友人の友人から聞いた話だ。
二年前、高校三年生の夏、受験勉強で疲れ切った彼と友人たちは、最後の夏休みをどこか遠くで過ごそうと計画を立てた。しかし、観光地はどこも満室。なんとか見つけたのは、近畿地方の山中にある貸し別荘だった。周囲に民家がなく、多少騒いでも迷惑にはならなそうだということで、彼らはそこに泊まることに決めた。
現地に到着したのは昼過ぎ。ペンションの管理人が言うには、貸し別荘はかなり長い間使われていなかったらしく、清掃に手間取ったということで、すぐには案内できないらしい。暇を持て余していた彼らに、管理人は不自然に県外の水族館の割引券を渡し、「時間をつぶしてきてほしい」と頼んできた。そんなことに疑問を感じつつも、彼らは言われるがまま水族館で時間を潰し、夕方になってようやく別荘へ案内された。
そこは森の奥深く、建物は古びた洋風で、薄暗い山の中にひっそりと佇んでいた。彼らが「これじゃ廃墟だろ」と冗談を言い合っていると、案内してくれた老人が「熊が出ることがあるから、夜中は外に出ないでくれ」と、やけに念入りに忠告してきた。
最初の夜、特に何も起きなかったが、二日目の夜中、友人の一人が「太鼓の音が聞こえた」と言い出した。その晩も彼らは肝試しのつもりで森へと入り込み、しばらく散策して戻ってきた。すると別荘の玄関に、見知らぬ男が立っていた。こちらに背を向け、ドアノブを握ったまま微動だにしない。近寄って声をかけてもまるで反応がなく、さらに彼が友人に腕を引かれた瞬間、手首から10センチほど上が不自然にぐにゃりと曲がり、まるでゴムのように伸びたのだ。
その男は、どこか焦点の定まらない目で、ふらふらと森の奥へ消えていった。不気味さに震えながらも、恐怖が去ったわけではなかった。その後、静まり返った別荘内でふと耳をすますと……どこからか、太鼓の音が聞こえてきた。……ドン……ドン……ドン……音のする方へ視線を向けると、森の奥から、異様な物体がこちらに向かって転がり来るのが見えた。まるで、数十人の人間が絡みつき一つの塊と化したような、歪で巨大な塊だった。
近づいてくる「人塊」に、彼らは息を呑んで立ち尽くした。その塊は、口をだらりと開けた無数の人々が、誰も見ていない目で虚空を見つめながら、転がり続けているように見えた。見た者全員が凍り付き、身動きもできないままに見守るしかなかった。
やがて、「それ」が玄関のライトに照らされ、姿がはっきりと見えたとき、彼らの恐怖は絶頂に達した。その「人の塊」は、古びた衣装に身を包んだ老若男女が、不可解な形で絡まり合い、時に腕や顔を宙に突き出し、異様な動きで……彼らに迫っていた。
その後、ドアを激しく叩く音が建物全体に響き渡り、彼らは何とかして管理人に助けを求めようと電話をかけた。受話器の向こうから聞こえた管理人のかすかな独り言……「まさか、まだ出るなんてな」。別荘の神棚に貼られていたお札を使って、どうにかその夜をやり過ごした彼らだったが、夜が明けるとすぐに、神主と共に駆けつけた管理人が彼らを助け出し、ここに泊まったことを黙ってほしいと頼んできた。
後日、別荘は取り壊され、今はもう跡形もないという。
(了)