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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

夢で聞いた番号 nw+355-0611

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知らない番号から電話が来ると、今でも出る前に息を止めてしまう。

最初の電話は、俺の携帯にかかってきたものですらなかった。

十九のころ、俺はまだ携帯を持っていなかった。金が惜しかったわけではない。ただ、いつでも誰かに捕まる道具を持つのが嫌だった。友達からは不便だとよく言われたし、当時付き合っていた彼女にも何度か呆れられた。

その夜も、俺の部屋で彼女とだらだらテレビを見ていた。コンビニで買った菓子の袋が畳の上に転がっていて、窓の外では原付が一台、細い音を残して通り過ぎた。

彼女の携帯が鳴った。

彼女は画面を見て、知らない番号だと言った。それでも何気なく出た。

「もしもし」

最初は普通だった。けれど、すぐに彼女の顔つきが変わった。相槌が減り、こちらをちらちら見る。やがて携帯のマイクを手で押さえて、小声で言った。

「なんか、あんたに代われって」

意味が分からなかった。

俺は携帯を受け取り、耳に当てた。

「もしもし」

受話口の向こうで、若い女の声が弾んだ。

『あ、代わってくれた。コーイチ君?』

俺は黙った。

『よかった。女の人が出たから、ちょっとびっくりしちゃった』

明るい声だった。友達に電話をかけて、ようやく本人につながったという感じの声だった。

「人違いです」

そう言うと、女は少し笑った。

『またまた。声、同じだもん』

「俺はコーイチじゃないです」

『でも、昨日もその声だったよ』

昨日。俺は女と話した覚えなどなかった。

彼女が不安そうにこちらを見ていた。俺はそれ以上聞く気になれず、「間違いです」と言って切った。

彼女はすぐに発信履歴を見た。

「誰?」

「知らない。コーイチってやつと間違えてる」

彼女は首をかしげた。

その直後、また鳴った。

同じ番号だった。

今度は彼女ではなく、俺が出た。

「もしもし」

『なんで切るんですか』

女は少しむくれていた。

「だから、人違いです。この携帯も俺のじゃない。彼女のです」

『でも、教えてくれたじゃないですか』

「誰が」

『コーイチ君が』

「知らないって」

『夢で』

返す言葉が止まった。

女は急に真面目な声になった。

『昨日の夜、夢で話したんです。コーイチ君が、この番号にかけたら話せるって言ったから、起きてすぐメモしたんです』

彼女が俺の腕をつかんだ。声は聞こえていないはずなのに、何かまずいものだと分かったらしい。

俺はできるだけ低く言った。

「俺はコーイチじゃない。もうかけてこないでください」

しばらく沈黙があった。

それから女は、少し遠慮がちに言った。

『じゃあ、友達になってください』

その言い方が嫌だった。

怖いというより、すでに話が決まっていて、俺だけが知らされていないような感じだった。

「無理です」

そう言って切った。

その夜、彼女はすぐに番号を着信拒否にした。しばらくは二人でその話をした。変な女だった、夢って何だよ、たぶん適当に番号を押したんだろう。そんなふうに笑おうとした。

けれど、笑いきれなかった。

俺には携帯がない。

それなのに、女は俺に代われと言った。

一年ほど経って、俺も携帯を持った。就職のことやバイト先の都合もあり、持たないわけにはいかなくなった。

番号を知っているのは、彼女と数人の友達と家族だけだった。

そのころには、あの電話のこともほとんど忘れていた。ある休日、彼女を助手席に乗せて、夜の国道を走っていた。ラジオから古い曲が流れていて、コンビニの看板だけがやけに白く光っていた。

携帯が鳴った。

知らない番号だった。

何も考えずに出た。

「もしもし」

受話口の向こうで、女が言った。

『コーイチ君?』

ハンドルを握る手が固まった。

俺は助手席の彼女を見た。彼女も、俺の顔を見ただけで分かったらしい。口だけで「コーイチ?」と動かした。

「違います」

俺はそれだけ言って切った。

すぐに、また鳴った。

無視した。鳴り止んだ。数秒してまた鳴った。三度目で、俺は路肩に車を寄せた。

「……もしもし」

『やっと出た』

女の声はうれしそうだった。

「どうやってこの番号を知った」

『コーイチ君が教えてくれました』

「また夢か」

『うん』

あまりに当然のように言うので、怒鳴る気力が抜けた。

『前の番号、もうつながらなくなったから。新しいのを聞いたんです』

「誰に」

『だから、コーイチ君に』

「そいつは俺じゃない」

『知ってます』

その一言で、車内が静かになった。

俺は聞き返した。

「知ってる?」

『コーイチ君は、あなたじゃないです。でも、あなたの声で話すんです』

彼女が小さく息をのんだ。

女は続けた。

『夢の中では、顔はよく見えないんです。でも声は分かるんです。だから、こっちにかけると会えると思って』

「会えない」

『電話だけでもいいです』

「無理だ」

その日はそれ以上話さず、切った。

彼女とはその後もしばらく付き合ったが、あの電話のことは互いに避けるようになった。ふざけて話せる種類のことではなくなっていた。

さらに二年が過ぎた。

彼女とは別れた。携帯会社も変えた。番号も変わった。就職が決まらず、酒屋で配達のバイトをしていた。

夕方、店の軽トラックで団地にビールケースを運んでいたとき、携帯が鳴った。仕事の客かもしれないと思い、荷台にもたれたまま出た。

『お久しぶりです』

その声を聞いた瞬間、団地の廊下を吹き抜ける風の音が消えた。

『覚えてますか』

俺は携帯を耳から離し、画面を見た。知らない番号だった。

「……何なんだよ」

女は初めて、自分の名前を言った。ミナだと名乗った。

『もうかけないつもりだったんです。でも、また教えてくれたから』

「誰が」

聞くまでもなかった。

『コーイチ君が』

俺はその場にしゃがみ込んだ。膝に力が入らなかった。

「何で俺なんだ」

『分からないです』

「俺はお前を知らない」

『はい』

「コーイチも知らない」

『はい』

「だったら、なんでかけてくる」

しばらく、向こうで衣擦れのような音がした。女は受話口を握り直したらしかった。

『夢の中で、コーイチ君が言うんです。この人なら分かるって』

「何を」

『私がここにいることを』

寒気がした。

それまで俺は、女がどこかで俺の番号を調べているのだと思っていた。知り合いづてか、偶然か、何か悪質な方法で。

けれどその声は、俺を探している声ではなかった。

何かに使われている人間の声だった。

「もうかけてくるな」

『はい』

女は素直に返事をした。

『これで最後にします』

その声は泣いていなかった。怒ってもいなかった。ただ、用事が終わった人のように落ち着いていた。

『でも、もし今度、そっちからかかってきたら』

「かけない」

『出てくださいね』

そう言って、電話は切れた。

それから七年、女から電話は来ていない。

番号は何度か変えた。仕事用と私用で分けてもいる。知らない番号は基本的に出ない。必要なら留守電に残すだろうと思うことにしている。

ただ、一度だけ妙なことがあった。

深夜に、知らない番号から着信があった。画面に番号が出て、すぐに消えた。ワン切りだった。

そのあと、留守電の通知が残っていた。

再生すると、何も聞こえなかった。

無音が十秒ほど続いたあと、最後に小さく、俺の声が入っていた。

「次は、この番号でいい」

俺はそんな電話をかけていない。

それ以来、知らない番号からの着信を見るたびに、指が動かなくなる。

向こうで誰が待っているのか分からない。

ミナなのか。

コーイチなのか。

それとも、俺の声を聞かされた誰かが、今度は俺を本人だと思っているのか。

最近は、着信がない日のほうが怖い。

夢の中で誰かが、まだ番号を聞き取っている最中なのかもしれないから。

[出典:597 :本当にあった怖い名無し:2009/04/04(土) 20:43:06 ID:i2Gv4ZvD0]

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