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友人のひろゆきと居酒屋で飲んでいた夜のことだ。

ありきたりな話題から、ふと「一日だけ過去に戻れるとしたら、いつに戻りたい?」という問いに移った。
酔いに任せた軽口のつもりだったのに、返ってきた答えは妙に生々しく、胸に重く沈んだ。

ひろゆきは、大学時代に未練があると常々言っていた。
「大学一年とか二年の頃に戻って、もっと遊んでおきたい」
口癖みたいに繰り返していたのに、その夜だけは違った。

「中二の最初に戻りたいかな」

唐突な答えに驚いて、「大学時代じゃないの?」と訊いた。
ひろゆきはグラスの氷をカランと揺らして、短く答えた。

「一日だけでしょ。だったら、やりたいことがある」

「何を?」と促すと、間髪入れずに返ってきた言葉はただ一つ。

「復讐」

冗談には聞こえなかった。声に余計な揺れがなく、氷のように澄んでいた。

そこからひろゆきは、自分が中一の頃に受けていたいじめのことを語りはじめた。
学年全体から無視され、友達という友達が誰一人いなかったこと。
廊下で肩をぶつけられても、机にゴミを突っ込まれても、教師すら見て見ぬふりをしていたこと。
彼の記憶は、十年以上前のはずなのに、今起きていることのように克明だった。

中二に進級して、首謀者とクラスが別になった。
やっと息がつけるようになったある日の放課後、担任から呼び出された。
「ちょっと来い」と言われてついていった先は、小さな個室。
そこには、あの首謀者がいた。

「ほら、言いたいことあるんだろ?」と、教師が促した。

すると、そいつは突然泣き出した。
大きな声で、わざとらしいほどに。
「ごめんなさぁぁい!」と、嗚咽をまじえながら頭を下げ続けた。

教師は耳打ちした。
「アイツ、小学校の頃いじめられてたんだってさ。だから、こんなに反省してるし、許してやってくれないか」

状況はあまりにも急すぎて、ひろゆきは混乱した。
咄嗟に口から出た言葉は「泣かないで、もう気にしてないから……」だった。

その日を境に、首謀者とは一切口をきかなくなった。

――ひろゆきはそこでグラスを飲み干し、低く言った。

「当時は分けが分からなくて、あんなこと言っちゃった。でもな、俺だって小学校の六年間、ずっといじめられてたんだよ。けど、誰かをいじめたことなんて一度もない。なのに、あいつは同じ理由で他人を壊しておいて、ちょっと泣くだけで赦される。そんなの、間違ってるだろ」

彼の言葉は淡々としていたが、奥底に積もった怒りは消えていなかった。
それは十年以上の歳月を超えて、今も彼の中で生き続けている。

「だから、もし一日だけ過去に戻れるなら、あの日に戻って言ってやるんだ」

そう言って、彼は目を細めた。

「『本当に反省してるなら、これから一年間、誰とも喋るなよ』って。だって、俺はそうさせられたんだから。他人に強いたことなら、自分でもできるはずだろう」

語尾には笑いを装っていたが、その笑いは空虚だった。
「教師が止めに入るだろうけどな」などと軽く付け足したが、冗談のようには響かない。

酔いのせいではない、重たい沈黙がその場を支配した。
十年以上前の記憶を語っているはずなのに、その生々しさはむしろ今も彼の胸を切り裂いている証のようだった。

――彼の言葉を聞きながら、ふと気づいた。
あれは単なる「もしも話」ではなかったのではないか。

ひろゆきの視線は、確かにその時だけ「どこか別の場所」を見ていた。
テーブルの向こうではなく、十年前のあの個室を。
そして、彼の言葉は未来へではなく、過去に突き刺さっていた。

語り終えた後、ひろゆきは不自然なほどに饒舌になり、別の話題に移ろうとした。
だが、その夜、帰り道で振り返ったとき、彼がまだ誰かと並んで歩いているように見えたのは気のせいだったのか。
街灯の下で一瞬、彼の肩に手をかけるように立っていた細身の影――あれは、あの首謀者の輪郭に酷似していた。

私は目を凝らしたが、影はすぐに闇に溶けた。
振り返ったひろゆきは、何事もなかったかのように「またな」と手を振った。

ただ、その笑顔の奥に、どちらのひろゆきが立っていたのかは今も分からない。
十年前に取り残された彼自身か、それとも――。

[出典:2015/07/18(土) 00:42:36.74 ID:4LT2bBiI0.net]

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