短編 洒落にならない怖い話

特殊清掃員【ゆっくり朗読】6200

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特殊清掃の仕事をしていたことがあった。

560 :本当にあった怖い名無し:2016/07/02(土) 15:22:36.22 ID:gNaAzMnV0.net

自分の働いていた会社は死人の出た部屋のそうじやペットの死体処理、ゴミ屋敷の撤去まで受注していた。

ゴミ屋敷の撤去、とりわけゴミの処分方法は地域によってかなり差がある。

法人が家屋内のゴミをトラックに積むっていう作業自体に自治体の許可が必要だ。

けれどこの許可は地方自治体によって紙切れ一枚とトラックがあれば誰でも取れる地域から、どんなにあがいても一般企業に許可がおりない地域がある。

自分の働いていた会社は、ゴミ屋敷の撤去を受けるにも関わらず許可がおりない地域だった。

そういう時に使う合法的にゴミを捨てる裏技があって、古物商や貨物運送の認可を使うようなものだ。

これはかなりグレーゾーンのやり方で、何よりこの裏技は、ゴミをトラックで運べるだけで、処分場所を確保出来るわけではなかったものだから、処分に関しては会社によって様々だった。

その頃、自分はその会社に入りたてで見習いみたいなあつかいだったものだから、どこの現場で作業をする時も社長が同行してくれていた。

ある日、ゴミ屋敷の仕事が入った時もそうで、営業担当が行った見積もりから一週間後に社長ふくむ六名で行うことになった。

作業は初日にリサイクル出来る資源や物を分け、二日目に積み込むという形で、予定通り二日目の夜にはトラック二台がびっしり埋まり現場は空になった。

社長とお客が精算を終えると、社長が「今日はお前に処分付き合ってもらうわ」と自分に言った。

他の従業員が普通車で事務所に戻った後、慣れない4t車を運転して社長の運転するトラックについていった。

最初は見慣れた国道だったけれど、だんだんと曲がって細道を抜けていくうちに行った事のない工業地帯に入った。

道の両側には、何を入れているか分からない倉庫や、看板のない自動車修理屋のような物が見えていた。

いかにも闇だなと周りをうかがいながら走っていると、車内にある無線に社長から連絡がきた。

「これからいく所は道は覚えなくていいし、誰かの顔も名前も覚えなくていい、あいさつもいらないから」

みたいな感じだった。

少し油断していた時に突然言われ、あせりながら無線で分かりましたと言い、背中の汗が冷たくなっていくのを感じた。

そこからさらに十分程進んだところで右に曲がったそのとたん、辺りが真っ暗になりそこは私道だと気づいた。

道の両側には何もなく社長のトラックのテールランプを頼りに進んでいった。

トラックのブレーキランプが点いた所であわてて停車し、エンジンを切ろうとした時にまた無線が入った。

「エンジンそのままで車から降りなくていい」

返事をしようとした所で息が詰まった。

社長のトラックと自分のトラックの間に何か出てきた。

ライトに照らされたのは七十歳位の老人達だった。

目の前だけで二十人はいたと思う。

髪はいびつにハゲていて、所々破けたシミだらけの服を着ている。男も女もいた。

自分のトラックが揺れ始めて、その人たちの数が目の前だけではないと気づいた。

とっさにドアに鍵をかけ社長に無線を送った。

かなりあわてていたからよく分からないことを言っていたと思う、けれど返答はなかった。

老人達はトラックの荷台を空けると、中のごみに群がって左右に放っていき、自分のトラックの揺れもどんどん大きくなっていった。

日本の底辺中の底辺、底無しの闇だと思った。

ゴミを左右に放っていくたびに見える横顔はどれも無表情で、たまに出てくる生ゴミを取り合ってパーともグーとも取れない手で殴り合っていた。

ゴミを放る左右の場所はライトで照らされているはずなのに、不気味なほど真っ暗だった。

なぜか目から涙が出てきて作業着のヒザに額を付けて丸まった。

トラックが揺れる振動と、外から聞こえるゴミを掻き分ける音が重なって、おーんおーんおーんと耳に響いた。

気がつくと音が止んでいて、頭を起こすと老人が一人だけいてこちらを向いていた。

シワか煤か分からないような、ぐちゃぐちゃの顔でニィと口角を上げていた。

歯は一本もなかった。こちらに何か言っていた。

口の動きは会社で見慣れた「ありがとうございました」だったと思う。

老人が道から消えた所で社長のトラックが進みだし、着いて行くとまた知らない道に出たけれど、しばらくすると見知った道に出た。

その後そこに行った事や社長とその話をしたことはなかったけれど、その日の帰りに一言だけ、あそこは合法だからと言っていた。

凄く失礼だけれど、ああなってはいけないと深く思った。

死人の出た部屋とゴミ屋敷に関しては、依頼人がそこでまた住もうとしたり、中の家具や物を使おうとはしないものだから、家の中を空にする残置物撤去も合わせて受注することがほとんどだった。

自分のいた会社は契約書上はその中にある物の所有権が全て法人に委譲されるから、いざ作業を始めると必ずと言っていいほど出てくるお金や貴金属はお客に返す必要がない。

会社の社長は処分費用でお金をいただく分、思い出の品やお金は返したいという考えがあったから、営業担当や作業員にもその教えを徹底はしたけれど、実際に現場に出る作業員達は大体見つけた物は自分のポケットに入れるようだった。

自分も200万円を見つけたことがあったけれど、欲を理性で押し込めるのは本当に大変なことだった。

休日に営業担当から電話があり、市内の首吊り自殺があった二階建住宅の特殊清掃と、残置物撤去の依頼が入ったと伝えられた。

その時自分は作業員兼事務員として二年程働いていたから、現場責任者として今回の現場に当たってくれとのことだった。

ゴミの量や状況を確認すると、大体作業員四名と三日あれば出来ると分かり、それを伝えると日取りを決めた。

老人の一人暮らしで、生活費がなくなり身内にお金の無心もし、つらかったゆえの自殺だったらしくて、それを聞いて少し悲しくなった。

けれど、作業員も気心の知れた四十代の先輩や、よく外注を依頼するアルバイトのおじいさんだったから、安心して計画を立てることが出来た。

 

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作業初日に物件内に入ってみると死臭はあまりなかった。

営業担当が見積もりの時に窓を開けておいてくれていたようだった。

中の家具や生活用品も電話で聞いていた通りで、そのまま二階の自殺死体があった部屋に入った。他の部屋に比べるとやっぱり死臭はあったけれど、それでもがまん出来ない臭いではなかった。

床を見るとドアの内側のすぐ下に黒とも茶色とも言えないシミが出来ていて、ドアの上辺にはヒモのすれた後があった。

ドアのノブはひん曲がっていて、どうやって自殺したのかが容易に想像出来て物悲しかった。

他の作業員の方も入ってきて、「首吊りしたな」だとか言っていたけれど、手馴れた様子で使う洗剤を選び始めていた。

二日目は特に問題なく進み、先輩が件のシミを薬品で落としたり、消臭作業をしている間に、他の方と残置物を運び出してはトラックに積めていった。

三日目の午前中にはほとんどの作業が終わっていた。

庭の広いお家だったことと、塀に囲まれていたこともあって、お昼はそこで食べようということになり、先輩ともう一人が普通車でコンビニへ買出しに向かった。

外注のおじいさんと二人でのんびりお茶を飲みながら話していると、十分後位に突然おじいさんの顔色がだんだん悪くなり始めた。

顔面蒼白で脂汗を流し始めた辺りで背中を擦ってあげたけれど、そのまま吐いてしまい、ぐううと唸り始めた。

「病院にいきますか」

と声を掛けても返事がなく、とにかく唸り続けていて、救急車を呼ぼうと携帯を出したらまたおじいさんが、げえ、げえとえずき始めた。

少しパニックになったけれど、背中をトントン叩いて

「吐いたほうがいいですよ」

みたいに声をかけていたら、おじいさんの口が目に付き、手を止めてしまった。

口からは何かが出掛かっているようで、浅黒い物が見え隠れしていた。

おじいさんがえずく度に少しずつそれが出てきて、何回か繰り返していくうちにそれが何か分かった。

それはロープだった。

全て出し切る頃には、自分はそばに立ってロープを眺めていることしか出来なかった。

50cmはあるロープで先がぼそぼそになっていて途中でちぎれているようだった。

どうなったらお腹の中にそんな物が入るのか、自分にはわけが分からなかった。

大丈夫ですか?と声を掛けてもおじいさんは、知らない知らない、とあぶら汗をたらしながらうつむいていた。

それからすぐに普通車が戻ってきたので、あわてて先輩を呼びにいくと走って様子を見に行ってくれた。

後からついていくと先輩は吐き出されたロープを眺めており、少し黙ってからおじいさんの方を向いて言った。

「なんかとったべ」

おじいさんはぎょっとしたような顔をしたけれど、返事はしなかった。

先輩は自分におじいさんのポッケを探れと指示して、先輩はおじいさんのカバンを探っていた。

少し手で追いやられたけど、負けじと探っていたら、胸ポケットに何か固い物が入っていた。

出してみると今は使われていない聖徳太子の1万円札が数枚と、指輪やネックレスが入っていた。

先輩がおじいさんの胸倉をつかんで「窃盗だぞお前」と言い、お前もう帰れ二度とくるな、っていう感じでカバンと一緒に押しやった。

おじいさんは青い顔のまま歩いていき、堀の向こうに見えなくなった。

作業が終了して事務所に戻ると、先輩が社長に出てきた胸ポケットから出てきた物を渡して事情を説明していた。

ロープのくだりは説明していなかった様子だったので自分も言わないでおこうと決めた。

社長はすぐお客に電話をかけて、あった物を伝えて届けに出かけた。

それから今回のことを色々想像したけれど200万円を盗まなくてよかったと思った。

とりあえずこれで特殊清掃の話終わり。

[出典:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1467116370/]

(了)

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