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短編 r+ 洒落にならない怖い話

禁足地 r+7,656

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ちょうど11年前、私が18歳だった頃のことです。初めて夫の家を訪れました。

当時、夫は父親と激しく衝突してほとんど絶縁状態にあり、実家から離れた祖母の家で生活していました。私が彼の家に遊びに行くときも、いつもその祖母の家でした。

交際から1年が経った頃、夫と父親がようやく和解したそうで、彼は実家に戻ることになりました。それにあわせて、ようやく私も夫の家に招かれたのです。

夫の実家は、町の中心からそう離れていない場所にあるのに、なぜかその一角だけが妙に孤立したような空気を纏っていました。大通りから一本脇道に入るとすぐにその地区なのですが、私はその道を曲がった瞬間、全身に鳥肌が立ちました。

昔から多少霊感があるのか、「ここは何かがおかしい」と感じる場には敏感でした。この場所もまさにそうで、直感的に「近づいてはいけない」と思いました。

地区の入口には、「禁足地につき立ち入り禁止」と書かれた古びた看板と、荒れ果てた柵で囲まれた一画がありました。怖くなった私は、「この辺、ちょっと不気味だね……」と彼に聞いてみました。

すると彼は「このあたり、防空壕が多いんだよ。ちょっと高台には無縁仏もたくさんあるしね」と、軽く笑いながら答えました。私は気にしすぎかもしれないと、気持ちを切り替えようとしました。

ですが、彼の家に着いても違和感はまったく消えませんでした。誰かに見られているような気配が、ずっとつきまとっていました。

外から見れば普通の家に見えるのに、どこか異様な雰囲気がある。並んで建つ他の家も、真昼間だというのにどこか沈んで見えるのです。

初対面だった夫の母はとても美しく、穏やかで感じの良い方でした。でも、それさえかき消されるほど、家の空気の重たさが勝っていました。

室内はきれいに掃除されていたのに、居心地の悪さと空気のよどみで気分が悪くなってしまい、長居できずにその日は帰宅しました。

その後、無意識のうちに夫の家に足が向かなくなり、避けるようになっていきました。

それから5年が経ち、私たちは結婚を決め、婚約期間中は「花嫁修業」と称して夫の実家で暮らすことになりました。気は進みませんでしたが、覚悟を決めてのことでした。

けれど、そこからが地獄の始まりでした。

いざ一緒に住んでみると、私が最初に感じた違和感は日に日に増していきました。

ある日、姑と二人でリビングにいたときのことです。2階から誰かが歩き回るような足音がバタバタと聞こえ、引き出しを開け閉めする音、ドアが閉まる音までしました。明らかに誰かがいるような物音でした。姑も気づいていたようで、「みっちゃんが来てからだよね~(笑)。霊感あるから見えるのかな~?」と、まるで他人事のように笑っていました。

それ以降もおかしなことが続きました。
誰もいない部屋のすりガラス越しに、舅そっくりの人影を何度も目にしました。外を歩いていると、突然どこからともなく複数の足音に追いかけられ、気づけば禁足地の前で足音がぴたりと止まるという出来事もありました。

夫やその友人たちと麻雀をしていると、突然玄関の開閉音が響き、誰かが2階に上がる足音がします。けれど、確認しても誰もいない。そんな出来事が何度も繰り返されました。

そして気がつくと、この家には誰も居つかないようになっていました。舅も姑も夫も、夜しか家にいません。休日であっても家でゆっくりすることはなく、誰もが無意識にふらりと出かけては夜遅くまで帰ってこないのです。

夫の妹は、高校卒業以来一度も実家に戻っておらず、帰省時にも家には足を踏み入れず、外での食事だけで済ませていました。

そのうち舅は体調を崩し、ついには仕事を辞めて障害者手帳を取得するまでになりました。夫婦の会話も完全に途絶えました。

夫も精神的に不安定になり、突然何かのスイッチが入ったように暴れ出したり、私に暴力を振るうようになりました。私たちの関係は急激に悪化しました。

私自身も体調を崩し、喘息を発症。家にいると咳が止まらず、吸入薬もあまり効かず、毎日のように鼻血が出るようになりました。静電気も異常で、まるで自分が発電機になったかのようにバチバチと火花が目に見えるほどでした。

ある日、姑と「もしかしてお化けでもいるのかな?塩でも盛ってみる?」と冗談半分に塩を玄関とキッチンに置いてみたところ、キッチンの塩は一晩でカチカチに固まり、玄関の塩は誰かに踏み潰されていました。

次第に、家そのものと家族の雰囲気が明らかにおかしくなっていきました。

そんなある日、突然姑が私に向かって「アイツがいるから全部ダメになったんだ!」と怒鳴り、翌日には離婚届を置いて家を出て行ってしまいました。私も限界を感じ、同居を解消して家を出る決断をしました。

その結果、家に残されたのは夫と舅の男二人だけになりました。

私が家を出た直後から、鼻血はぱったりと止まり、喘息の症状も嘘のように消えました。静電気体質だけは相変わらずで、季節や湿度に関係なく火花が見えるレベルで続いていましたが…。

それから2ヶ月ほど経った頃、姑から連絡がありました。

「みっちゃんのせいじゃないのに、あの時は本当にごめんね」
そう謝罪され、「少し会えないかな?」と食事に誘われたのです。

家を出る前までは本当に良くしてくれていた方だったので、私は迷わずOKし、再会することになりました。

食事の席では、お互いの近況を報告し合い、私が姑の離婚後すぐに婚約を解消し、同居をやめたことを伝えると、姑は少し残念そうな表情を浮かべていました。

食後、帰る道すがら「今、男二人だけでうまくやれてるのかしらね」と話が出て、なんとなく二人で夫の家の様子を見に行くことになりました。

もちろん鍵は持っていないので、中に入るつもりはなく、せめて洗濯物でも干してあれば生活感が感じられるかな、という軽い気持ちで向かいました。

けれど、家の前に着いて私たちは言葉を失いました。

庭はすっかり荒れ果て、玄関のガラスは割れたままになっていて、雨風が吹き込む状態のまま放置されていました。人の気配がまったくないのに、逆に「何かがいる」としか思えない空気が漂っていたのです。

心配になった私たちは、隣家に住む奥さんを訪ねて様子を聞いてみました。

すると、「あら~、お久しぶり!しばらく見かけなかったけど、どうしてたの?」と明るく声をかけてくれたものの、私たちが家を出たことも、姑が離婚したこともまったく知らなかったようです。

私たちの近況を話すと、奥さんの顔がサッと曇り始めました。

「実は…」と前置きしながら、彼女は最近の様子を教えてくれました。

夫と舅は今でも深夜近くにならないと帰宅せず、時折、家からガラスの割れる音や女性の悲鳴のような声が聞こえることがあったそうです。でも、翌日には二人とも普通に出勤していて、さらに家の中から女性の姿も何度か目撃されていたとか。

そのため、奥さんは私たちがまだ家にいるものと思い込んでいたそうです。

ただ、夫も舅も目が虚ろで、いつも不機嫌そうに見えたとのこと。特に夫は、突然庭の木を蹴り倒したり、玄関のガラスを殴って割ったりする様子が何度かあったそうです。

「うつ状態が悪化してるのかもしれないし、でも、もしかして別の女性がいるのかも…」という疑念まで抱いてしまったと、正直に話してくれました。

けれど、どう考えても普通ではない様子だったので、私自身が直接確認しに行くことにしました。

もちろん、事前に連絡を入れても断られるだろうと考え、「忘れ物を取りに来た」とでも言って、突然訪ねるつもりで夜に向かいました。

夫の車がガレージに停まっているのを確認して、チャイムを鳴らしましたが、応答はありません。2階にいるのかもしれないと思い、ドアノブをそっと握った瞬間、信じられないほど強烈な静電気が走り、バチッという音とともに手がしびれました。まるで火花のような光まで見えるほどでした。

一瞬ためらいましたが、ドアが開きそうだったので、覚悟を決めて中に入ろうとした瞬間、全身の毛が逆立つような感覚に襲われました。誰かの視線を強く感じて顔を上げると、割れた玄関のガラス越しに、薄暗い中でこちらをじっと見ている人影がありました。

「……夫? いや、違う……これ、やばい……!」

瞬時に背筋が凍りつき、私は車に駆け戻り、そのまま近所のコンビニまで逃げました。そしてすぐ、夫と共通の友人Aに電話をかけて、事情を説明して来てもらうことにしました。

Aは過去に何度か夫の家で怪現象に遭遇していたこともあり、「玄関で誰かと目が合った」と話すと、かなり動揺していましたが、なんとか説得して同行してくれることに。

再び夫の家に戻ると、今度は舅の車も停まっていました。どうやら、私たちがAを待っている間に帰ってきたようです。

チャイムを鳴らすと舅が出てきて、Aが「忘れ物を取りに来ました」と伝えると、あっさり家の中に通してくれました。

私たちはすぐに2階の夫の部屋へ向かいました。扉の隙間から漏れる光が見え、中に明かりがついていることがわかりました。

Aが扉を開けた瞬間、ふわりと煙のような白いモヤが漂ってきました。煙草の匂いはなく、おそらく煙ではなかったと思います。

そして、その部屋の中には、ベッドの上にぼんやりと座り、じっと一点を見つめている夫の姿がありました。彼はまるで別人のように、重く暗い何かをまとっていて、黒いオーラのようなものが見えた気がしました。

壁には殴った跡が無数にあり、穴が開いていたり、血の跡らしきものもありました。私たちは「これは本当にまずい」と直感し、夫を無理やり連れ出してAの家に泊まらせることにしました。

その晩は夫をAの家に泊まらせることになり、Aは「しばらくはうちで預かるから、何かあればすぐ連絡する」と言ってくれました。私は一旦自宅へ戻り、姑に電話で事情を説明しました。すると電話の向こうで、姑は「私が家を出たから、あの子がこんなふうになっちゃったんだ…」と、嗚咽交じりに泣いていました。

私自身も、婚約を解消したとはいえ、夫のことはずっと大切に思っていました。自分がもっとしっかりしていれば…と、悔しさと悲しさで涙が止まりませんでした。

けれど、私も姑もすでにあの家を離れ、いまは夫と舅に直接関わる立場ではありません。すべてAに任せて、彼からの連絡を待つしかありませんでした。

それからおよそ1週間が過ぎた頃、Aから連絡が入りました。

夫は連れ出した翌朝、特に何も覚えていない様子で目を覚まし、普段通り仕事へ向かったそうです。Aは「今日は終わったらまたうちに来るように」と伝えたところ、どこか安心したような表情で家を出ていったと言っていました。

その後、しばらくAの家と職場の往復を続ける中で、夫の表情は徐々に落ち着きを取り戻し、以前の柔らかな雰囲気が戻ってきたと報告を受けました。そしてAから、「旦那くんが、みっちゃん(私)と話したいって言ってる」と伝えられ、三人で会うことにしました。

久しぶりに会った夫は、顔色もよく、あの黒いオーラのようなものもすっかり消えていました。

夫は、実家で過ごしていた間、強い破壊衝動に駆られ、気がつけばガラスを割ったり、壁を殴ったりしていたことを告白しました。そして、私と一緒にいたときも、毎日のように理由もなくイライラが募り、「この女を殴らなければ」という衝動が湧き上がってきて、どうしても抑えきれなかったと語りました。

そのたびに、自分で自分が怖くなり、私を遠ざけるしかなかったと。そして、「本当にごめん」と深く頭を下げました。

その後、彼は「やり直したい」と私に申し出ました。

私はすぐに、「でも、お隣さんが言ってたよ?新しい彼女ができたんでしょ?」と返しました。すると彼は首を振りながら、「本当にそんな人はいない。ただ……自分も家の中で、女の気配をずっと感じてた」と答えました。

その言葉を聞いた瞬間、私は全身に鳥肌が立ちました。隣の奥さんが「女の人の声が聞こえた」と言っていたことを思い出し、夫にはその話をすることすら怖くて黙ってしまいました。

長い話し合いの末、私たちは復縁することを決めました。私も彼のことが嫌いになって別れたわけではなかったのです。

それから夫は、あの家を出て別の賃貸物件を借りて生活するようになりました。すると、不思議なことに、あれだけ荒れていた彼がまるで人が変わったように穏やかになり、喧嘩も怒鳴り声も、暴力もまったくなくなりました。

そして、夫が家を出てから3年後。私たちは再び婚約し、今度こそ何もかもが順調に進み、正式に結婚することができました。

夫の家が悪かったのか、土地そのものに何かあったのか、真実はわかりません。けれど、私も、姑も、夫自身も、あの家から離れてからというもの、生活がすっかり好転していったのは事実です。

だからこそ、今もあの家に残っている舅には、一日も早く引っ越してもらいたいと思っています。けれど、どうやら家に対する執着があるようで、手放す気はないようです。

今でも気になっていることがひとつあります。

私が玄関で見た人影や、すりガラス越しに感じた存在はすべて男性でした。けれど、夫や隣の奥さんが感じていたのは「女の気配」でした。
――見る人によって姿を変える霊というものが、存在するのでしょうか?

それからもうひとつ、私が家にいたときの異常な鼻血や静電気についてですが、あれは霊障というより、自分の体が「悪いもの」を察知して、防御反応として起こしていたのではないか、と今は思っています。

……気づけば、ずいぶんと長くなってしまいました。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

[出典:309 :本当にあった怖い名無し:2014/10/27(月) 18:11:17.46 ID:gyMRCdo00.net]

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