二、三年程前の夏に、海水浴場で有名な和歌山県の白良浜(しらはま)でバイトしてた知人から聞いた話の一つを紹介します。
話題を提供してくれたその知人自身は、霊感とは無縁らしく、約三ヶ月近く元旅館だった店でほぼ一人で住んでいたそうですが、皆さんが喜ばれるような体験は無かったそうです。
ただ、自分しかいないはずの二階の廊下を、スリッパを履いて歩くような音がした……ような気がした、くらいだそうです。
前置きが長くなりましたが、ここからが本編です。
2003/06/28 21:58
皆さんは、観光名所といわれる和歌山県白浜町にある三段壁(さんだんべき)をご存じでしょうか?
下の方に三段壁洞窟があります。
平安時代、源平合戦で知られる熊野水軍の舟隠し場という伝説の洞窟です。
その話をしてくれた知人と同じ場所でバイトしている、自称霊感が強いと言う女の子がいました。
これはその子の体験談の一つです
まぁ、その子=龍子は、いわゆるヤンキーと言われるタイプの子でして、その龍子と彼氏の大輔、龍子の友人千鶴とその彼氏の和也とで、ある悪戯を思いつきました。
その悪戯というのが、自殺の名所の飛び降り場所に靴を脱いで並んで立って、そこを通る観光客を脅かそうというものでした。
結果は成功。
場所が場所だけに、幽霊を見たと思い逃げる人、目をそらして足早で通り過ぎる人など……
その成果に四人は満足し、龍子カップルと千鶴カップルは、交代で人を驚かせて楽しんでいたそうです。
そうこうしている内に、夜の九時過ぎくらいですかね。
龍子と大輔が茂みに隠れ様子を見る、千鶴と和也で飛び降り場所に立つ、という時にそれは起こりました。
それは、浴衣を着た中年の男性でした。
暗くて顔は分かりにくい状態でしたが、その男性はおそらく怒りの表情で二人に近寄り、ビンタをかました後、安易に自殺に走る若者にひとしきり説教した後、帰っていきました。
……とまぁ、ここまでは良くある話でしょうが、問題は、その中年男性を見たのは千鶴と和也だけでした。
茂みに隠れていた大輔にはそれが見えず、千鶴と和也が何をしているのかと首をかしげていたそうです。
霊感があるらしい龍子にはその男性がうっすらと見えていて、その男性が去る際、こちらを一瞥してそのまま闇に消えていったそうです。
(了)