ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

反応 nc+

更新日:

Sponsord Link

夜の工場というのは、昼間とはまるで別の顔を持つ。

機械の稼働音が止まり、照明も最低限に落とされた空間では、広さそのものが不自然に膨張する。音が消えることで、距離感と時間感覚が曖昧になり、普段なら気にも留めない配置や構造が、妙に意味ありげに見えてくる。

俺が勤めているのは、地方にある中堅の機械メーカーの工場だ。
敷地内にはいくつかの棟があり、問題の「x工場」は、その中でも稼働率の低い古い棟だった。昼間は人の出入りもあり、特別な違和感を覚える場所ではない。ただ、夜になると話は別だ。

深夜の見回りを担当する警備員の間では、以前から妙な噂が囁かれていた。
x工場の廊下を、白い影だけの存在が歩き回っているという。人の形をしているようで、していない。遠目には人影に見えるが、近づこうとすると消える。そんな、よくある話だ。

俺はそういう話を、意識的に聞き流すタイプだった。
工場というのは、音も反射も多い。疲労と睡眠不足が重なれば、見間違いも起きる。そう思っていた。

x工場の隣には、もう一棟、大きな工場が建っている。
二つの工場は、屋内の通路で繋がっていて、その途中に自動扉が設置されている。その扉は、かなり前から調子が悪かった。人がいないのに開いたり閉じたりを繰り返す。業者も何度か入ったが、完全には直らなかった。

センサーの誤作動。
それで済ませてしまえば、それ以上考える必要はない。

あの夜、俺は一人で機械のメンテナンスをしていた。
予定より作業が押し、時刻はすでに深夜を回っていた。工場内には俺以外、誰もいない。照明は作業エリアだけを点け、他は落としている。

メンテナンス中の機械には、定期的に水を補充する必要があった。
俺はバケツに水を汲み、台車に乗せて運んでいた。件の自動扉を通り抜け、少し先まで進んだところで、不注意にも通路脇に置かれていた荷物に台車をぶつけてしまった。

水が、床にこぼれた。
それほど大量ではなかったが、通路の中央に、水溜まりができてしまった。

そのままにして帰るわけにはいかない。
翌朝、誰かが滑れば面倒なことになる。俺はひとまず作業を終え、後で拭き取るつもりでその場を離れた。

しばらくして、ウエスを持って戻ってきた。
自動扉の前に立った瞬間、言葉にできない違和感が胸に引っかかった。

床に残った水溜まりに、足跡がついていた。
それも、こぼした場所から自動扉の方向へ向かって、点々と。

工場では、安全靴の着用が義務付けられている。
安全靴の裏には、はっきりした滑り止めの溝がある。だが、その足跡には、そういった模様が一切なかった。スリッパの裏のように、のっぺりとした平たい跡。

俺は、その場で立ち尽くした。
この時間、工場に残っているのは俺だけだ。他の社員は全員帰宅済みであることを確認している。警備員が巡回する時間帯でもない。

嫌な想像が頭をよぎり、隣の工場を確認しに行った。
扉は施錠されている。鍵は、俺のポケットにある。中に人の気配はない。

胸をなで下ろし、再び自動扉の前へ戻った。
しゃがみ込み、水を拭き取ろうとした、その瞬間だった。

水面に、何かが映った。
白い、輪郭の曖昧な影が、自動扉の方へ横切っていく。

反射だ。
そう思って顔を上げ、周囲を見回した。だが、そこには何もない。照明の配置も変わっていない。映り込むような白い物体は見当たらなかった。

気のせいだと、自分に言い聞かせ、再びウエスを伸ばした。
そのとき、背後で自動扉が、音を立てて開いた。

閉まり、また開く。
誰もいないのに、扉は律儀に反応を繰り返していた。

振り返った瞬間、俺は気づいた。
自動扉の目の前にも、足跡があった。あの、平たい跡だ。

さっき、ここにはなかった。
確かに、水溜まりは扉に向かって続いていただけで、扉の前は乾いていた。

背中を冷たいものが走った。
警備員の噂が、頭の中で形を持ち始める。

慌てて水を拭き取り、周囲を確認する。
何もいない。だが、自動扉は開閉をやめない。

俺はそれ以上確認するのをやめ、逃げるように工場を出た。
消灯のために振り返ったときも、扉は相変わらず、誰もいない空間に向かって開き続けていた。

その後、特に異常は起きていない。
工場で事故があったという話も聞かない。誰かが亡くなったという記録もない。

自動扉は、今も時々、勝手に開閉を繰り返している。
修理業者が来ても、原因は特定できないままだ。

街中のコンビニや病院でも、人がいないのに扉が開くことは珍しくない。
ほとんどは、誤作動で説明がつく。

それでも、あの夜の足跡と、水面に映った白い影を思い出すたびに、考えてしまう。
センサーが誤作動しているのではなく、センサーだけが、何かを正しく検出しているのではないかと。

目に見えない何かが、扉の前に立ち、通路を歩き回っている。
そして俺たちは、それを見逃しているだけなのかもしれない。

そう考えると、自動扉が開く音を聞くたび、足元を確かめずにはいられなくなる。

[出典:606 :本当にあった怖い名無し:2018/08/16(木) 01:09:37.45 ID:g7srj/A70.net]

📚 この怪談の続きは、Kindleで

伝聞怪談コンプリート合冊

サイト未公開の話を多数収録。Kindle Unlimitedなら追加料金なしで読み放題。

【合冊版】558ページ・100円のお得セットあり

伝聞怪談1 伝聞怪談2 既刊6冊

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2026

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.