夜の寝かしつけは、いつも同じだった。
絵本を一冊読んで、電気を消して、それでも眠れない日は適当な作り話をする。息子は小学生で、怖い話が好きだった。怖いと言いながら、最後まで聞きたがる。だからその日も、軽い気持ちで応じた。
「ちょっと怖い話して」
即興で考えた。
大した話じゃない。夜になると起き出すものがいる、というありがちなやつだ。
「朝になるとさ、みんな起きるだろ。学校行ったり仕事したりするよな。でも夜になると、今度はオバケが起きるんだ。で、遊びに出る」
布団の中で息子がもぞっと動いた。
続きを促す気配だった。
「今日はどこの家に行こうかなーって、夜の街を歩いてる。明かりがついてる家を見つけるとさ、ここにしようって決める」
「……どこの家?」
「んー、このへんだな。あ、表札がある。○○って書いてある」
息子が小さく息を吸った。
「え、それって……」
「おじゃましまーすって、ドアを開ける。まず一階から見て回る。お、この部屋には犬がいるぞ」
「はなちゃんだ……」
声が少し震えた。
この調子なら、そのまま眠るだろうと思っていた。
「次の部屋はなんだろうな。誰かいそうだぞ」
「じじとばばかな……」
家の中をなぞるように、オバケは進んでいく。
あくまで遊びだ。怖くなりすぎる前に終わらせるつもりだった。
「よし、一階は見終わった。次は二階に行くぞー」
そのあたりで、息子は目を閉じた。
完全に話の中に入り込んでいるのがわかった。視点がもう、オバケの側にある。
階段を上る音を言葉でなぞり、二階の廊下に出る。
「ここは子供が遊ぶ部屋だな。おもちゃがいっぱいだ」
そのときだった。
「あれ?」
息子が目を閉じたまま言った。
「クローゼットの中に、赤い服の子がいるね」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
次の瞬間、背中に冷たいものが走った。
この話は、家の中を想像させるためのものだ。
見えていいのは、知っているものだけのはずだった。
「……もう寝ようか」
無理に声を作って、話を終わらせた。
電気を消して、布団を整えて、息子はそのまま眠った。
その夜は、それで終わった。
きっと想像が膨らみすぎただけだ。そう思うことにした。
それからしばらくして気づいた。
息子が、二階の遊ぶ部屋で一人で喋っていることがある。
誰もいないはずの時間に、誰かと会話をしているみたいに。
聞き耳を立てる勇気は、まだない。
[出典:115 :本当にあった怖い名無し:2018/07/08(日) 09:51:21.63 ID:G7Udal9I0.net]