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短編 ほんとにあった怖い話

サイン~神社で手に負えないもの【ゆっくり朗読】3900

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二〇〇五年夏、俺は大小様々な不幸に見舞われていた。

986 :本当にあった怖い名無し:2011/12/03(土) 18:36:59.74 ID:vwl2695MO

仕事でありえないミスを連発させたり、交通事故を起こしたり、隣県に遊びに行って車にイタズラされた事もあった。

原因不明の体調不良で一〇キロ近く痩せた。そして何より堪えたのは、父が癌で急逝したこと。

そんなこんなで、

「お祓いでも受けてみようかな……」

なんて思ってもない独り言を呟くと、彼女(現在嫁)が

「そうしようよ!」と強くすすめてきた。

本来自分は心霊番組があれば絶対見るくらいのオカルト大好き人間なんだけど、心霊現象自体には否定的で、お祓いに効果があるなんて全く信じちゃいなかった。

自家用車に神主が祝詞をあげるサマを想像すると、シュールすぎて噴き出してしまう。

そんなものを信用するなんて、とてもじゃないが無理だった。

彼女にしてもそれは同じはずだった。

彼女は心霊現象否定派で、なおかつオカルトそのものに興味がなかった。

だから俺が何の気なしに言った『お祓い』に食いついてくるとは予想外だった。

まぁそれは当時の俺が、いかに追い詰められていたかという事の証明で、実際今思い返してもいい気はしない。

俺は生来の電話嫌いで、連絡手段はもっぱらメールが主だった。

だから彼女に神社に連絡してもらい、お祓いの予約を取ってもらった。

そこは地元の神社なんだけど、かなり離れた場所にあるから地元意識はほとんどない。

ろくに参拝した記憶もない。

死んだ親父から聞いた話では、やはり神格の低い神社だとか。

しかし神社は神社。

数日後、彼女と二人で神社を訪ねた。

神社にはすでに何人か、一見して参拝者とは違う雰囲気の人たちが来ていた。

彼女の話では午前の組と午後の組があって、俺たちは午後の組だった。

今集まっているのはみんな、午後の組というわけだった。

合同でお祓いをするという事らしく、俺たちを含めて八人くらいがいた。

本殿ではまだ午前の組がお祓いを受けているのか、かすかに祝詞のような声がもれていた。

なんとなくブラブラしていた俺たちの前に、はかま姿の青年がやって来た。

「ご予約されていた陣内様でしょうか」

はかま姿の青年は体こそ大きかったが、まだ若く頼りなさ気に見え、

『コイツが俺たちのお祓いするのかよ、大丈夫か?』、なんて思ってしまった。

「そうです、陣内です」

と彼女が答えると、もうしばらくお待ち下さい、と言われ、待機所のような所へ案内された。

待機所といっても屋根の下に椅子が並べてあるだけのあずまやみたいなもので、壁がなく入り口から丸見えだった。

「スイマセン、今日はお兄さんがお祓いしてくれるんですかね?」

と、気になっていた事をたずねた。

「あぁ、いえ私じゃないです。上の者が担当しますので」

「あ、そうなんですか」(ホッ)

「私はただ段取りを手伝うだけですから」と青年が言う。

すると、待機所にいた先客らしき中年の男が青年にたずねた。

どうやら一人でお祓いを受けに来ているようだった。

「お兄さんさぁ、神主とかしてたらさ、霊能力っていうか、幽霊とか見えたりするの?」

その時待機所にいる全員の視線が、青年に集まったのを感じた(笑)

俺もそこんとこは知りたかった。

「いやぁ全然見えないですねぇ。まぁちょっとは、『何かいる』って感じることも、ない事はないんですけど」

みんなの注目を知ってか知らずか、そう笑顔で青年は返した。

「じゃあ修行っていうか、長いことその仕事続けたらだんだん見えるようになるんですか?」

と俺の彼女が聞く。

「ん~それは何とも。たぶん……」

青年が口を開いた、その時だった。

『シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ』

入り口にある結構大きな木が、かすかにゆれ始めたのだ。

何事だと、みんなが身を乗り出してその木を見た。

するとその入り口のそばに、車椅子に乗った老婆と、その息子くらいの歳に見える男が立っていた。

老婆は葬式帰りのような黒っぽい格好で、網掛けの、アメリカの映画で埋葬の時に婦人が被っていそうな帽子を被り、真珠のネックレスをしているのが見えた。

息子っぽい男も葬式帰りのような礼服で、大体五〇歳前後に見えた。

その二人もゆれる木を見つめていた。

『シュシュシュシュシュシュシュ』と音を鳴らして、いっそう激しく木はゆれた。

振れ幅も大きくなった。根もとからゆれているのか、枝の半分くらいからゆれているのか、不思議と分からなかった。

分からないのが怖かった。

『ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!』

『ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!』

木はもう狂ったようにゆれていた。

老婆と男は立ち止まり、その木を困ったように見上げていた。

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すると神主の青年が、サッと待機所から飛び出すと、二人に走り寄った。

「醍醐様でしょうか」

木のゆれる音のため、自然と大きな声だった。

うなずく男。

「大変申し訳ありませんが、お引取り願いませんでしょうか。我々では、どう対処することも出来ません」

こちらに背を向けていたため、青年の表情は見えなかったけれど、わりときぜんとした態度に見えた。

一方老婆と男は、お互いに顔を見合わし、うなずき合うと青年に会釈をし、引き上げていった。

その背中に青年が軽く頭を下げて、小走りで戻ってきた。

いつの間にか木のゆれはおさまり、葉が何枚か落ちてきていた。

「い、今の何だったの!?」と中年のおじさん。

「あの木何であんなにゆれたの?あの二人のせい?」と彼女。

俺はあまりの出来事に、言葉が出なかった。

興奮するみんなを、青年は落ち着いて下さい、とでも言うように手で制した。

しかし青年自体も興奮しているのは明らかだった。

手が震えていた。

「僕も実際見るのは初めてなんですけど、まれに神社に入られるだけで、ああいった事が起きる事があるらしいんです」

「どういう事っすか!?」と俺。

「いや、あの、僕もこういうのは初めてで。昔いた神社でお世話になった先輩の、その先輩からの話なんですけど……」

青年神主の話は次のようなものだった。

関東のわりと大きな神社に勤めていた頃、かつてその神社で起きた話として先輩神主が、さらにその先輩神主から伝え聞いたという話。

ある時から神主、巫女、互助会の組合員など、神社を出入りする人間が『キツネのお面』を目にするようになった。

そのお面は敷地内になにげなく落ちていたり、ゴミ集積所に埋もれていたり、さいせん箱の上に置かれていたりと、日に日に出現回数が増えていったという。

ある時、絵馬をかける一角が、小型のキツネのお面で埋められているのを発見され、これはもうただ事ではないという話になった。

するとその日の夕方、キツネのお面を被った少年が、家族らしき人たちとやって来た。

タイミングのいいことにその日、その神社にゆかりのある位の高い人物が、たまたま別件で滞在していた。その人物は家族に歩み寄ると、

「こちらでは何も処置できません。しかし〇〇神社なら手もあります。どうぞそちらへご足労願います」

と進言し、家族は礼を言って引き返したという。

「その先輩は、『神社ってのは聖域だから。その聖域で対処できないような、許容範囲を超えちゃってるモノが来たら、それなりのサインが出るもんなんだなぁ』って、言ってました」

「じゃあ今のがサインって事か?」とおじさんが呟いた。

「多分……まぁ間違いないでしょうね」

「でもあのまま帰しちゃって良かったんですかね?」

という俺の質問に青年は、

「ええ、一応予約を受けた時の連絡先の控えがありますから。何かあればすぐに連絡はつきますから」

「いやぁでも大したもんだね、見直しちゃったよ」

とおじさんが言った。俺も彼女も、他のみんなもうなずいた。

「いえいえ!もう浮き足立っちゃって!手のひらとか汗が凄くて、ていうかまだ震えてますよ~」

と青年は慌てた顔をした。

その後、つつがなくお祓いは済んだ。

正直さっきの出来事が忘れられず、お祓いに集中出来なかった(多分他のみんなも)

しかしエライもので、それ以後体調は良くなり、不幸に見まわれるような事もなくなった。

結婚後も彼女とよくあの時の話をする。

あの日以来、彼女も心霊番組を見たりネットで類似の話はないかと調べたり、どこで知ったのか洒落コワをのぞいたりもしているみたい。

やっぱり気になっているのだろう。もちろん俺だってそうだ。

しかし、だからといってあの人の良い青年神主に話を聞きに行こう、という気にはならない。

「もしもだけどさぁ、私たちが入った途端にさ、木がビュンビュンって、揺れだしたら……もうたまんないよね~」

彼女が引きつった笑顔でそう言った。全くその通りだと思う。

あれ以来、神社や寺には、どうにも近づく気がしない。

(了)

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