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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

最初から割れていた nw+

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あの夏の出来事は、友人から聞いた怪談ではない。私自身が関わり、最後まで責任を引き受けた話だ。

実家の町は、電車が一時間に一本しか来ないような場所で、周囲は田んぼに囲まれている。風の音が広く抜け、夕方になると空だけがやけに大きく見える。子どもの頃から慣れた風景だったが、高校に入った私はその単調さに飽きていた。

だからあの日、わざと通学路を外れた。

十分ほど歩いた先に、草に埋もれた小さな祠がある。地面に半ば沈んだ石の地蔵。その横に、不自然に立てられた小さな石があった。高さは十センチほど。猫にも狐にも見える歪な形で、意図が読めない。供え物もない。信仰なのか、悪戯なのか、判断がつかない存在だった。

私はそれを指先で押した。

軽く触れただけのつもりだったが、石はあっけなく倒れ、地面に当たった瞬間、乾いた音とともに真っ二つに割れた。中は黒ずんでいて、空洞のように見えた。嫌な感じはあったが、取り返しがつかないとも思わなかった。割れたまま草に戻し、何事もなかったように帰宅した。

その夜、灯りを消した直後、身体が動かなくなった。

胸の上に何かが乗っている。目だけが動く。天井の暗がりに、白い塊が滲むように浮かび上がった。輪郭が揺れ、やがて女の姿に定まる。白い衣。顔は歪み、目だけが異様に近い。

耳元で声がした。

「戻せ……」

低く、湿った声だった。

「戻せ……」

呼吸が浅くなる。

「戻せ……」

女の顔が、指が届く距離まで迫る。喉の奥から絞り出すような絶叫とともに、視界が暗転した。

翌朝、私は友人に話した。石を元に戻せと言われた。だが私は頷かなかった。怖かったのではない。理不尽に気絶させられたことが許せなかった。謝る側になることが、どうしても受け入れられなかった。

その夜、私は木刀とナイフを用意した。部屋の灯りは消さない。酒で喉を焼き、覚悟を固めた。

深夜二時。耳鳴りが始まり、空気が重くなる。壁際に白い影が滲む。女は前夜よりはっきりとした輪郭を持ち、床から数センチ浮いていた。

木刀を振る。手応えはない。影は霧のように散り、背後に回る。首筋に冷たい息がかかる。

「戻せ……さもないと……」

言葉の先は途切れた。

頭痛が激しくなり、視界が揺れる。錯乱した私はステレオを蹴り倒し、裸足のまま外へ飛び出した。田んぼの畦道に立ち、家に向かって叫ぶ。

「かかってこい!」

その瞬間、屋根の上に白い塊が現れた。月光を受け、ゆらりと浮き上がる。三十メートルほど上空へ滑るように昇り、次の瞬間、一直線に落ちてきた。

目の前で女の顔が止まる。木刀を振る。やはり当たらない。背後から囁きが落ちる。

「戻せ……」

私はナイフを投げた。確かに前へ投げたはずだった。だが刃は軌道を変え、胸元に向かって跳ね返る。刃先が服を裂く感触と同時に、意識が途切れた。

目覚めると自室の布団だった。近所の人が田んぼで倒れている私を見つけ、家まで運んだらしい。

両手は固く閉じていた。

指を一本ずつ開かれ、母が息を呑んだ。私の掌には、あの割った石の破片が握られていた。血が滲むほど強く。

どうやって持ち帰ったのか、記憶はない。

私は抵抗をやめた。接着剤で破片を合わせ、祠へ戻した。ひびは消えない。線のように残る。手を合わせ、言葉を探し、何度も頭を下げた。

それ以降、女は現れない。

だが、通学路を外れるたび、あの祠が視界の端に入る。石の継ぎ目が、わずかに弧を描いているように見える。笑っているのか、割れ目がそう見せているのかは分からない。

私は、二度と触れない。

だが確信している。

あの石は、最初から、割れることを前提に置かれていたのだと。

[出典:183 :1:2005/08/08(月) 22:27:04 ID:Q9TlGBtu0]

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