木が生える人・木が生えている人・人に生える木
――特定の人にだけ見える、奇妙なもの。
これは、俺の友達のちょっと変わった女の話だ。
彼女は一見普通に見えるけれど、何とも言えない不思議な雰囲気を持つ子で、けっこう可愛かった。最初は俺も「付き合いたい」と思って色々アプローチを試みたが、なぜかいつまで経っても友達以上の関係にはならなかった。
そんな彼女が、去年の11月に俺のアパートに遊びに来た時のこと。最初は一緒にゲームをしていたが、途中で飽きてしまい、何となくテレビをつけてぼんやり見ていた。特に面白い番組もやっておらず、何となく時間を潰していると、彼女がふと独り言のように呟いた。
「……あ、この人もだ」
「え、何?」と俺が聞くと、彼女は一瞬「何でもないよ」と笑って誤魔化そうとした。だが、俺も暇だったし、何か話のネタが欲しかったのでしつこく問い詰めた。渋々、彼女は話し始めた。
「こんなこと言ったら変に思うかもしれないけど……特定の人に、変なものが見える時があるんだ」
彼女が言う「変なもの」とは、人の背中に「木のようなもの」が生えている姿だという。それは幽霊や黒いモヤではなく、本当に「木」。枝が伸びていたり、葉が茂っていたりする普通の木のようだが、人の身体に生えているのだという。
「……信じなくていいよ。忘れて」と彼女は笑って話を打ち切った。それ以上は追求しないでほしい、という雰囲気だったので俺もそれ以上は聞かなかった。その後、友達を呼んでファミレスで飯を食った。
――だが、その夜、奇妙な出来事が起きた。
ファミレスの外で次の行き先を決めていると、彼女が人混みを見つめて「あ……」と呟いた。途端、高そうなスーツを着たサラリーマン風の男がよろめき、そのまま道に倒れた。周囲は騒然となり、救急車で男は運ばれていった。
その時、友達の一人が彼女に言った。「また見えたんだ……気にしないで、アッコのせいじゃないよ」。どうやらその友達は彼女の事情を知っているようだったが、彼女は悲しそうな顔をしていた。事情を聞けるような空気ではなかったので、そのままカラオケに行き、その日は解散となった。
――後日、彼女から聞かされた「木」の真実。
次の週、彼女と友達が俺に話があると声をかけてきた。喫茶店に場所を移し、彼女は重い口を開いた。彼女によると、「木が生えている人」にはいくつかの特徴があるという。
- 木は成長し、やがて枯れる。
最初は苗木のような状態だが、時間と共に大きくなり、やがて数メートルの大木になる。そして、成長しきった木は「枯れる」。その「枯れる瞬間」、その人には必ず重大な不幸が訪れるのだという。
大病や事故、家族の崩壊、最悪の場合は死――彼女が見てきた木が枯れた人は、皆例外なく悲惨な末路を迎えていた。 - 最近、彼女に近しい人にも木が見え始めた。
これまで「木が生えている人」は他人ばかりだったが、最近彼女のバイト先の常連客に木が生えたのを見たらしい。それが彼女には大きなショックだったという。 - この話を聞いた人は「木が見える」ようになる可能性がある。
彼女がこれを人に話すと、まれに同じように木が見えるようになってしまうらしい。友達の中にも見えるようになった人がいて、それが原因で疎遠になったこともあるという。 - テレビに映る人々の「黒い木」。
彼女が最近よく目にするのは、テレビに映る芸能人やニュースキャスターの背中に「木が生え始める」姿だ。しかも、その木は真っ黒く、今まで見てきたものとは明らかに違う雰囲気をしているらしい。
俺は思わず「そのバイト先の客には話さないのか?」と聞いたが、「話したところで何の解決にもならないし」と彼女は言った。たしかに、「不幸が訪れる」と告げられても、どうしようもないのだろう。
――そして、彼女が語った「木が枯れる瞬間」。
俺はふと疑問に思い、「その瞬間までがなぜ分かる?」と聞いた。彼女は静かに答えた。
「木が枯れる時、その木が折れるの」
その言葉を聞いて、背筋が凍る思いがした。
――俺は今も、彼女と友達でいる。
幸い、今のところ俺には何も見えない。彼女曰く、「一年以内に見えなければ大丈夫」とのことだ。そして、彼女が直接話さなければ見えるようになることはないらしい。だから、この話を聞いても心配しなくていい。
ただ、彼女といる時に「あの人……」と指された直後、道で事故にあった人を見たことがある。その光景は今も頭から離れない。
彼女は今も笑顔で明るく過ごしている。だが、何年もこんなものを見続けている彼女のことを考えると、胸が痛くなる。
(了)
[出典:525 本当にあった怖い名無し sage New! 2009/05/17(日) 05:48:04 ID:Bf2WcP0v0]