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母が抱いていたもの rw+2,225-0120

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これは、母に起きた出来事を、私の視点から語る話です。

半年以上にわたって続いた出来事で、今も完全には終わっていません。終わったと思えない、というほうが正確かもしれません。

七月の初め、私は結婚を控え、住んでいたアパートを引き払い、しばらく実家に戻ることになりました。父は仕事の繁忙期で動けず、代わりに母が有給を取って引っ越しの手伝いに来てくれました。

母は体が弱い人です。慢性的な持病があり、去年も長く寝込んでいました。けれど不思議と生命力だけは強く、数か月後には何事もなかったように海外旅行に行っていたりします。無理が利かないのに、無理をやめない人でした。

その日もそうです。
私のアパートに着いた直後、玄関のほんの数センチの段差につまずき、派手に転びました。尻もちをつきながら「やだもう」と笑っていましたが、膝は確実にぶつけていました。

私が住んでいた町は、山と海に挟まれた静かな場所でした。車で少し走れば熊野、伊勢、那智に行けると話した途端、母の目が変わりました。
嫌な予感は当たります。

「熊野古道、行きたい」

引っ越し当日です。荷物は部屋に山積みのまま。断れば後々まで言われるのが分かっていたので、私は渋々承諾しました。結局、荷物を積んだ車で熊野古道と那智大社を巡ることになりました。

母は膝を痛めているはずなのに、登山用の杖を突きながら、那智の滝も大社の石段も平然と登り切りました。
翌日、筋肉痛で動けなくなったのは私のほうでした。

夕方、海に張り出すように建てられた古い宿に泊まりました。
部屋の窓からは、沈む夕日が海面を赤く染めるのが見えました。母は夢中で写真を撮っていました。

不意に、母の動きが止まりました。
無言のまま、ばさりとカーテンを閉めたのです。

「どうしたの」と聞くと、母は一瞬だけこちらを見て、妙に引きつった笑顔を浮かべました。
「疲れたから温泉行こう」
その声は、普段より少し高く、軽すぎる調子でした。

その夜、布団を敷いて電気を消したあと、母が急に言いました。
「あなたのバッグ、貸して」
理由を聞く前に「添い寝するから」と付け足しました。

意味が分かりませんでしたが、強く求められ、私はバッグを差し出しました。母はそれを胸に抱え、子供のように丸まって眠りました。

私がうとうとしかけた頃、浴室の方から気配を感じました。音はありません。ただ、そこに何かがいると、はっきり分かってしまった。
目を開けると、母は私のバッグを宝物のように抱きしめています。

そのバッグには財布や化粧品のほか、天狗、伊勢神宮、那智大社で授かったお守りがいくつも入っていました。
そのとき気づきました。母自身のお守りは、すべて車の中に置いたままだったのです。

翌朝、母は低い声で話しました。
「海を撮ってたら、ギャアアアアって、動物を締め殺すみたいな声がした」
「怖くて、部屋にいられなくなった」

腕に立った鳥肌を見せながら、母はそう言いました。
写真は消せませんでした。データには、真っ暗な水面だけが写っていました。

帰り道、私たちは女性神を祀る社に立ち寄りました。母のおみくじには「大病は治る」と書かれていました。その言葉に、私たちは救われた気分になっていました。

帰宅して二日後、母は職場で倒れました。
左足の膝から下が異様に腫れ上がり、歩けなくなったのです。蜂巣炎と診断され、即入院になりました。

膿を培養しても、出てくるのは死んだ菌ばかり。医師は原因が分からないと言いました。
やがて「切断の可能性」が告げられました。

母は笑っていました。
「まあ、大丈夫でしょう」

その言葉が、なぜか怖かった。

切断は免れましたが、患部は火で炙られたように黒く変色していきました。入院は長引き、夏が過ぎ、秋になっても改善しません。

ある日、母が言いました。
「あの叫び声の主と、糸で繋がってる感じがする」

私は、何かをしなければならないと思いました。理由はありません。ただ、そうしなければならないと感じたのです。
祖母から譲られた狐のぬいぐるみを病室に持ち込み、母の患部の上に置きました。

その瞬間、地鳴りのような音がしました。
雷鳴だったのかもしれません。けれど、窓の外は雲ひとつない晴天でした。

「今、音したよね」と言うと、母は首を振りました。

その日を境に、母は回復していきました。
理由は分かりません。医師も説明できないと言いました。

退院後、母は元の生活に戻りました。
けれど、以前と同じではありません。

海の映像を避けるようになり、私のバッグには触れなくなりました。
夜中、誰もいない方向に声をかけることがあります。

私は今も、宿で撮った写真を消せずにいます。
そこには、黒い影のようなものが写っています。見るたび、形が違って見える。

母は今、隣の部屋で眠っています。
その寝息を聞きながら、私は考えます。

糸は、本当に切れたのか。
それとも、繋ぎ替えられただけなのか。

[出典:43 :本当にあった怖い名無し:2011/12/04(日) 02:48:46.47 ID:veGHgml+0]

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