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おばあちゃんを探しています r+3518

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これは、ある地方の消防団に所属していた元団員から聞いた話だ。

大学を卒業して地元に戻った彼は、地元の習慣で消防団に加入することになった。田舎の消防団では火災だけでなく、行方不明者の捜索なども重要な任務に含まれている。奇妙な体験はその活動中に起こった。

その日は朝早くから始まった。捜索対象は、鯉沼トヨさんという七十代の女性だった。彼女は前日の朝、家を出たまま戻ってこなかったという。鯉沼さんの家族は「買い物に出たのだろう」と最初は気に留めなかった。しかし、昼になっても夜になっても戻らず、家に残された朝食の炊飯器や温かいままだった味噌汁が、家族を不安にさせた。翌朝、警察と消防団が総動員され、一斉捜索が始まった。

トヨさんは足腰が弱く、普段から押し車型の歩行器を使って歩いていた。長い距離を移動するのは難しいはずだったが、家に歩行器はなく、外出用の少しかしこまった靴が一足なくなっていた。服装も普段通りのシャツとズボンだったらしい。家族や近隣住民の話を基に捜索範囲を絞り込み、地元消防団百二十名が総力を挙げて山中や海辺まで探した。

それでも、トヨさんの痕跡はどこにもなかった。地元のタクシー会社や交通機関に確認しても、彼女らしき目撃情報は一切なし。事故の可能性も考えられたが、周囲には何の痕跡も残されていなかった。捜索は二日間にわたって行われたが、結果は空振りだった。

月日は流れ、その事件も次第に人々の記憶から薄れていった。

商店の掲示板や電柱に貼られていたトヨさんの顔写真入りの捜索願は日焼けして色あせ、家族が手書きで書いた「おばあちゃんを探しています」という張り紙も文字がかすんで判読しにくくなっていた。人々は諦めたように日常に戻っていった。

ところが、事件から一年ほど経ったある日、警察に奇妙な通報が相次いだ。

「背格好や服装、押し車を押している姿が鯉沼トヨさんにそっくりだ」という目撃情報が、立て続けに寄せられたのだ。しかし、目撃された場所はどれもバラバラで、家から数百メートルの場所から十数キロも離れた町外れまで点在していた。

警察は情報に基づいて再度捜索を行ったが、やはりトヨさんを見つけることはできなかった。ただ一つ奇妙な共通点があった。それは、目撃情報の近くには必ず家族が貼った手書きの張り紙が掲示されていることだった。

更に不可解だったのは、その張り紙に追加された「一言」だった。

手書きの張り紙の一番下の余白部分に、鉛筆で細い文字が書き足されていたのだ。

「おります」

それも、どの張り紙にも同じ筆跡で、同じ位置に書かれていたという。しかも、その張り紙が貼られていた掲示板の中には、ガラスケースに鍵がかけられているものもあった。鍵を管理している公民館の職員が開けた形跡はないと言い切った。

地域の人々は次第にその謎めいた書き込みに不気味さを感じるようになった。「おります」の文字が追加された張り紙の近くでトヨさんの目撃談が増えていく一方、本人を直接見たという確かな証拠はないままだった。家族も警察も、次第に捜索を諦めていった。

目撃情報もいつしかぱたりと途絶え、張り紙が剥がされる頃には、誰も話題にしなくなった。だが、元消防団員である彼は、今でも不思議に思うという。ガラスケースの鍵がかかった掲示板に、どうやって「おります」と書かれたのか。そして、その文字の意味するものは一体何だったのか。

「たぶん、鯉沼さんが亡くなった後もどこかで家族を見守っているという、彼女のメッセージなんじゃないかと勝手に思っています」と彼は最後にそう語った。

だが、その言葉には少しの安堵と、それ以上の不安が含まれているように思えた。

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