短編 洒落にならない怖い話

おります【ゆっくり朗読】3129

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大学卒業して地元に帰ったら消防団に入れられた。

俺は妙な所で引きが強いみたいで、行方不明者捜索とかに出ると死体の第一発見者になった事がすでに二度(一人は水死体、一人は首吊り)火災現場でも煙に巻かれて亡くなった子どもとおばあちゃんを発見したり……

学生時代にも後輩がアパートのベランダで首吊ってるのを第一発見したなぁ。

首吊りの遺体を人生で二度も見る事なんてあるんだろうか……

まぁそんな俺が消防団で体験した話。ほんのりというか謎な話。

その日は朝早くから行方不明者の鯉沼さんというおばあさん(七十歳くらい)の捜索が行われた。

いなくなったのは前日の早朝。

同じ敷地内に住む長男家族が鯉沼さん宅を訪れた時、朝食のご飯が炊かれた状態で炊飯器の中にあり、味噌汁もまだ温かいままだった。

「近所の商店まで買い物に行ったのだろう」程度に考え、その時はスルーしたらしい。

しかし午後になっても家に帰ってくる様子はなく、おばあさんの家の朝食も食べられずにそのまま。

夜になっても帰って来ないので警察に連絡したそうだ。

その日の夜は消防署と警察で夜間捜索が行われたが発見できず、翌朝になって俺達地元消防団、総勢百二十名を使ってのいっせい捜索が行われる事になった。

家族の談では鯉沼さんは足が弱く病院に通っていた。

いつも押し車みたいな歩行器を使って歩いている。

だからそれほど遠くまで歩いて行けない。

日頃はせいぜい近所の小店に行く程度。

家には歩行器はなく、外出用の靴が一足なくなっていた。

普段履きではなく、ちょっとかしこまった場に行く時に履いていた靴らしい。

着ていた服は家族の推測で普段来ている普通のシャツにズボン。

それほど遠くに行けないはずなので、事故にせよ、自殺にせよすぐ見つかるだろうと思ってた。

が、四時間探して手がかり無し。

地元は結構な田舎で、山の中とか海辺とか、鯉沼さん宅の周辺を道無き道まで捜索した。

『徒歩で出かけてない』可能性も考え、地元のタクシー会社、交通機関の全てに連絡したがそれらしい情報はない。

「交通事故にあい、加害者が死体を隠した」とかの可能性が高くなったが、警察がどこを探しても事故の痕跡はない様だ。

結局二日間に渡って行われた捜索で鯉沼さんを発見する事は出来なかった。

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それから一年と少したち、その件も忘れかけた頃だった。

警察が作った顔写真入りの捜索願の張り紙もずいぶん色あせ、たぶん鯉沼さんのお孫さんが手書きしたものをコピーしたと思われる『おばあちゃんを探しています』の張り紙も文字が読めないほどになっていた。

そんな頃、警察に鯉沼さんの目撃情報が大量に寄せられた。

『背格好も顔も服装も、歩行器を押して歩いている姿も鯉沼さんに違いない』

という電話が。

ところが目撃情報が寄せられる場所がバラバラで、鯉沼さん宅の周辺から十数キロ離れた場所まで広がっていた。

警察も情報にそって捜索を再開したがやはり発見できず。

ただ一つ共通しているのは、その目撃現場の近くには必ずお孫さんが書いた張り紙が掲示してあると言う事。

そしてその手書きの張り紙全ての一番下の空白の所に鉛筆で一言

『おります』

と書き足してあると言う事。

未だに鯉沼さんは見つかっていませんが、家族も警察もあきらめているようです。

ちなみにその『おります』という書き込みですが、ガラスケースに鍵がかかるタイプの掲示板に張られた張り紙にも書き込まれていました。

鍵は公民館の管理者が持ってるので開けて書き込む事は不可能だと思いますけど。

『おります』の意味は、きっと鯉沼さんがお孫さんに対して『いつもそばにいて見守ってるよ』と言っているんだと、勝手に解釈しています。

(了)

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