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封じられた坑道 r+2,621

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つい先日、中学時代の同級生と居酒屋で飲んでいたときのことだ。

くだらない思い出話で盛り上がっているうちに、ふと十年前の出来事を思い出した。
大学時代、東北の小さな地方都市で一人暮らしをしていた頃の話だ。

その街の中心には、ひょうたん島を逆さにしたような二百メートルほどの小山があった。
山の駅側は桜や夜景が見られ、神社もあって夜でも賑やかだった。
けれど裏側は昼でも薄暗く、夜になると人通りは一切なく、ただの黒い塊のように沈んでいた。

その山の裏側で、俺は友人のA、B、C、Dと五人でサバゲをやったことがある。
朝から集まり、最初は夢中で撃ち合っていたが、昼過ぎにはさすがに飽きてしまった。
そのとき、Bが言い出した。
「高架橋を走る電車を山から撮りたい」
みんなで獣道をざくざくと進み始め、二十分ほどで池に出た。そこで道が途切れていた。

「ここまでか」
そう諦めかけたとき、Bが池の対岸を指差した。
「おい、あれ洞窟じゃね?」
目を凝らすと、崖の一角に人が這って入れそうな穴が開いていた。

小柄なAが先に走っていき、水しぶきを上げながら穴を覗いた。
「すげー!めちゃくちゃ広いぞ!奥まで続いてる!」
その興奮ぶりに俺たちも引き寄せられ、結局全員で入ってしまった。

中は予想以上に広く、男三人が並んで立てるほどだった。
高さは二メートル以上あり、床の一部は平らに整えられている。
洞窟というより坑道や防空壕といった人工的な匂いが濃厚だった。
岩肌の天井には十センチほどの四角い穴が規則的に開いている。
入口付近の壁には「長」と「津」を合わせたような、見慣れない漢字が赤ペンキで書かれていた。

「中国人が掘ったんじゃね?」
誰かが冗談を言った。
懐中電灯を頼りに進むと、坑道は想像以上に入り組んでいた。
分岐のほとんどは十字路で、規則的な碁盤の目のような作りに思えた。
俺とBは最後尾を歩き、十字路ごとにかっぱえびせんで大きな矢印を床に置きながら進んだ。

やがて坑道は緩やかに下り、狭くなっていった。
ついには這わなければ進めない細い穴に突き当たった。
腕時計を見ると午後三時半。すでに一時間半は経過していた。

「ここが最奥か?」
「引き返す?」
そんな会話をしていると、耳の奥をつつくような音がした。

ッチッタッ。

全員が凍りついた。
舌打ちのような、言葉のような音。
それはどうやら最奥の穴の方から聞こえてくるらしい。
断続的に続いたが、やがて止んだ。

「行ってみるか」
そう言い出したCが先に這い出した。俺とAも続き、BとDは後ろに残った。
狭い区間は二メートルほどで終わり、その先はT字の通路に繋がっていた。
探索を進めると、Cが声を上げた。
「ちょっと来い!」

そこは両側にカマボコ形の穴が並ぶ廊下のような通路だった。
だがその穴はすべてコンクリートで塞がれていた。
奥で一つ、崩れて中が覗ける穴を見つけた。Cが懐中電灯を差し入れる。
「……縦穴だ。底が見えねぇ。めっちゃ深いぞ」

Aはカメラを取り出し、フラッシュを焚いてシャッターを切った。
パシャ、パシャ。
三度目の閃光のあと、Aが硬直した表情でこちらを見た。
「……何かいる」

Cが覗き込むと「岩じゃねーのか」と笑ったが、Aは震えながら言った。
「つくし、みたいな頭の奴が……下に立ってる」

そのときだ。

チッ タ。

穴のすぐ近くから音がした。
Aの顔が蒼白になった。
「逃げろ!」

俺とCは這い戻り、後ろでBとDが何事かと目を丸くしていたが、事情を告げる間もなく走り出した。
十字路をいくつも抜けたとき、Dがライトを別の横道に向けて言った。
「……動いた?」
俺たちも照らすと、白い棒のようなものがにゅっと奥から突き出してきた。
「手……だ!」
Dの絶叫に合わせるように、それはぬるりと蠢いた。

俺たちは必死で逃げ、なんとか坑道を脱出した。外はすでに真っ暗だった。
息を切らしながら互いに顔を見合わせた。
「手、だったよな」
「いや、Aの言う『つくし』だ。眼が光ってた」
「生き物っていうより……」
誰も答えを出せないまま、その日は散り散りに帰った。

後日、Cと喫煙所で話していると、Aが大学に来ていないと聞いた。
メールを送ると「色々忙しくてスマン」とだけ返ってきた。
俺とCは「またスロットだろう」と笑った。

だが数日後、ゼミの教授と話したとき、背筋が凍った。
教授は俺たちの話を面白がりながら言った。
「あの山の穴は炭鉱跡だかを軍が秘密基地にしたらしいな。戦時中は朝鮮から来た人たちが大勢働いて何人も死んだらしい。行方不明者も多かった。縦穴が危ないから入口は全部塞いであるんだが……管理も曖昧でな」

そのときCが小声で言った。
「……あれ、幽霊じゃなかったよな」
俺も頷いた。
「生きてる、って感じがした」
「鳴き声もな……あれ『チッタ』じゃなくて『コッチ、キタ』だったんじゃないか」

ゾッとした。
あの時、確かに呼ばれていたのかもしれない。

Aはいま警察官をやっているが、あの洞窟のことを話そうとすると妙に言葉を濁す。
俺の手元には、彼が撮った縦穴の写真が一枚だけ残っている。
ブレていて何もはっきり映っていない。けれど、見れば見るほど、ぼんやりとした影が浮かび上がってくる気がしてならないのだ。

[出典:461 :本当にあった怖い名無し:2017/11/20(月) 18:34:55.60 ID:d0F7ZS9r0.net]

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